煌
「……るーくん?」
「ふにゅ」
眠いってのに。
誰かが、ほっぺを突付きやがるので、半分以上まどろんだまんまうっすらと目を開けてやった。
「ん……。明日香……?」
いつも楽しそうな元気な顔が、ちょっとやれやれみたいな表情をして、僕をのぞきこんでいた。
夕闇がまとわりついて、ショートカットで描かれた天寧寺明日香の輪郭は、少しだけ青ざめてみえた。
「は?」
唐突に思考が覚醒して、がばちょ、と起きる。
と、怒涛のごとく、いま自分がどこで何をしているのかに気がついた。
空腹、および、カキ氷による急激な胃の冷え。まあ、そういうわけで、吐き気というか目まいというか、そういうのと戦っていたのだ。「満月堂」の接客テーブルに突っ伏して。
どうせ客とか、来ないし。
「って、なに? なぜ!? 天寧寺……っ」
予想をはるかに裏切る形で、客、来てるし。
しかも、夏休みにはいる前に、自分なり猛アタックをしていた明日香が!!
「も~、びっくりさせないでよ、真っ暗ななかで突っ伏してるから死んでんのかと」
「そ、それは、どうも、おはようございます?」
顔を背けながら、ドギマギして僕は変なことを口走った。
「あ、アルク? あ、……いや、暗いな。ちょっと待って、いま灯りを」
夢じゃなかろうか、そっか、いや、今までのが夢で。
そう、母が勇者のお供をするためにトイレの下水に云々かんぬん、彼女を作らねばと魔道書がどーのこーの、そういうのひっくるめて全部夢で、明日香に感情を炸裂したところあたりからやり直して……。
「なにっ」
と、そんな夢オチ期待は、ね。そりゃそうだ、予想するまでもなく、どっちも現実らしい。
妙にむくれた声でアルクがどこかから返事を返してきた。
……魔法的ななにか、僕が作りだした幼女だ。
なんとなくご機嫌斜めなアルクの声をきいて、ため息混じりにマッチをすってロウソクに灯をいれると、目の前で怪訝な顔をしている明日香の瞳に直接視線をとらわれた。
ロウソクの光で、明日香の目がきらっきらになった。
きゅっと明日香の唇が微笑して、
「ま、参ったなぁ」
とか。
僕がたまらなく好きだと思う顔を、まともに見ていられない言い訳を
「ごめん、電気きれてて」
妙ちくりんにごまかしたりした。