序2
で、だ。
この目の前ににっこにっこ、と、僕が味なしカキ氷を頬張ってアイスクリーム頭痛と戦っているのを見守っている幼女、のような物体Xの話をするとしよう。
一応、なんとなく、思いつきで「アルク」と名づけてみたのだがどうだろう。
話はちょっと遡るが、まだ僕の預貯金で食いつないでいたころ、三ヶ月前のことだ。
そういえば、母はだいぶゴリ押しで「彼女をつくれ」と小言を僕に食らわしていたのを、ふと思い出したわけだ。
小さな店舗、兼、自宅、ではあるけれども、二人家族の僕にとって、独り暮らしをある程度満喫したら、それなりの孤独感も募って「満月堂」も広く感じる。
と、いうことで、ひとまずは同級生あたり、それなり見栄えのいい女子などをつれこんでイチャこらしてみようと考えなくもないわけだが、
「え~! 独り暮らししてんの? じゃ、皆でお泊り女子会しよー」
とか。
おい。
男として見られてない僕、頑張れ。
というわけで、ダメだぁ、こんなもん。
リアルで学校生活をともにしている女子が、いまさら夏休みに浮かれだそうとしているからといって、僕に男性的なあれこれを見てくれるわけがない!
かといって、街中でそこら辺の大人な女性に声をかけるとか……。
いや、親が不在な今だから、心は大きく勇気一杯胸一杯なんだけれど。
無謀すぎる……。
もしも、だよ、それで一時的にうまくいったとして、だよ。
美人局的ななにか、みたいな。
「ン十万円よこせや!」
的にイカツイお兄さんがやってきて
「あん? 気持ちいいことしちまんたんだろ?」
的に恫喝されて
「しょーがねえ、そのナリならてめえの躯で払わせてやるぜ」
的な?
ほそっちくて、それなり小奇麗にしてて、ちょっと母似の顔をしている僕としては、そういう事態を想定してしまうと、そこまで冒険したくないわけで。
とかなんとか、店番しながら妄想を炸裂させていたところで、訪ねてくる客もなく、はっと我に返るとますます寂しさもつのり。
要は、母が異世界の魔女だということなのだから、僕は魔女の子なわけだ。
ということは、学校で女友達に披露している占いとかだけじゃなく、もう少し魔法なことができるものなのではなかろうか、と考えて、母の秘蔵書庫をあさりにあさる。
まあ、男として、ある種、惚れ薬をつくってやれ、みたいなことを考えて、ちんぷんかんぷんな魔道書をペラペラとめくっていたら、母の手書きの付箋を発見した、と。
「彼女をつくる方法」
……アホか、と思いつつ、試してみると。
……はい、柊アルクのできあがり。
ツッコミどころが多すぎて何がなんだか僕には分からないのだけれども、ホムンクルスといえばいいのかドールマタといえばいいのか、擬似人間? そういった僕の魔法技術の結晶がどうやら彼女らしいのだ。
人間と大差はない、と思う。
ただ、全く呼吸もしていないし、食事もしないし、……ヘソもないし。
そこから下の穴については未確認だけどないと考えられ。
ま……、まあ、それはともかく。
そんなわけで、この「産まれたてなのに幼女の姿をした魔法状の何か」は、どうも「一人」と数えるのがあやしいと思うのだ。
だから「僕は独りでカキ氷パーティをしている」で間違いじゃないし、それなのにいきなり誰かに話しかけられても文章としては成立しているわけ。
うん、ようやく冒頭にうっかり言った文につじつまがあってきた。