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「……簡単すぎんだろ」

 俺は疑った。

 転売ヤーと呼ばれる副業をやってけっこう経つ。

 仕事も規制が強化されて手広くやらなければ、そうも受けられるわけでもない。

 副業といった。

 二三人の友人間でやっているので、得る金は多くても所詮は泡銭だと思っている。

 駅を回ってのスタンプラリー。

 それが持ち掛けられた話だった。

 とうとうそこまで来たかと、景品をチェックする。

 ただの人形。

 ただ、スタンプを押すときに最初に駅員に挨拶をしろと言われていた。

『久々にでかいぞ?』

 携帯から藤爾が余裕たっぷりな声を聞かせてくる。

「交通費は?」

 俺はわざとケチくさく言った。

「でねぇよ、ばか」

 通話を切られた。

 三台目の携帯を部屋の隅に投げた。

 次の日、十時も過ぎた頃に始める。

 山手線だった。

 楽すぎる。

 中目黒駅まで行って、緑の窓で言われた通り、こんにちはと軽く頭を下げた。

 若い駅員の奥にいた中年の職員がうなづいた。

 隣から明かに日本人と造形が違うが日本人のような男が肩を軽く叩いてきた。

「スタンプラリーかい?」

 馴れ馴れしく言ってくる。

 俺はうなづいただけで、外に設置されたスタンプを押そうとした。

「こっちだ」

 男が、別のスタンプをバッグから差し出してくる。

 今すぐにでも藤爾に連絡をつけたくなったが、我慢してそのスタンプを手帳に押した。

 男はスタンプを駅員に渡してどこかに行った。

 次は品川駅だ。

 電車は混んででいた。

 その場で、バックに触れる手を感じた。

 顔を向けると、さっきの男が口に指を軽く当て、手帳を抜いていた。

 代わりに、茶封筒が一つ入れられる。

 二台目の携帯が震えた。

 今日はこれで四回目だ。

 暇なのか?

 奥に移動していく男をそのままに、携帯の画面を見た。

「終わりだ。ご苦労様」

 藤爾のイニシャル。連絡を入れるごとにアルファベットの大文字三文字ばらばらに名前がわりに使ってくる。

 簡単すぎる。

 俺は品川駅で降りて、そのままトイレの個室に入った。

 茶封筒には、十万の束がニ十個。

 よく見ると、ナンバーが同じだ。

 最近の札は技術の劣化で以前より偽札が作りやすくなっていると聞いていた。

 どっちにしろ、偽札をつかまされた以上、どうするかだ。

 俺はただの転売ヤーだった。

 詐欺師じゃない。

 何のバックもない。

 扉がノックされた。

 俺は札の封筒を戻して、ノックし返した。

「……警察ですけどね。ちょっと出てくれませんか? 用を足した後で結構ですが」

「どういうことで……?

 おもわず声にしていた。

「いやぁ、落とし物を拾った人がトイレに入ったと聞きまして……」

 それから続いた人相風体は俺そのものだった。

 腹を決めた。

 ドアを開けると、背の高い小太りの制服の警官が立っていた。

 にこやかな表情。

 トイレに他に客はいなかった。

「茶封筒、持ってますよね?」

 笑ってない眼のまま、彼は言った。

「ああ、拾ったんですけど、これなんです? 偽札ですよ?」

 先制を掛けた。

 封筒の中の束を三つほどだして見せる。

 警官はそれを自然に取って、パラパラと見る。

 チラリと俺の目を見る。

 上腕を軽く叩いて来る。

「ありがとう。これですよ」

 警官は背を向けてトイレから出て行った。

 訳が分からない。

 偽札の話だったなら、こんなものじゃすまないはずだ。

 金目当て?

 少なくとも今の警官はグルだ。買収されたのか、仲間が演じていたのか。多分、前者だろう。

 俺はふと他の札束をチェックしてみる。

 抜かれた三つの束から数えて十束目から、ナンバーが変わっている。

 トイレから出ると、例の中年男が待っていた。

「上手くやったね」

「どういうことだ?」

「スタンプラリーで、荷を運んでいたんだ。それ以上知る必要はない」

 男は言い残し、人込みの中に消えていった。

 俺はそのままタクシーを拾い、藤爾のいる池袋まで走らせた。

 後ろの車を気にしつつ、携帯で確認する。

「いまどこだ?」

『家だ』

 返信がすぐに返ってきた。

 何のためらいもなく二種類の偽札で運賃を払い、一区画離れた場所で降りた。

 一回りして、追けられていないか確認する。

 誰もいない。

 俺はすぐに藤爾のアパートのドアを叩いた。

「おい!」

「入れ」

 別人の声。

 ノブは回る。鍵が開いていた。

 ヤバいだろ?

 俺の警戒心がフルに警報を上げていた。

 だが俺はドアを開いた。

 玄関から続いたワンルーム。

 そこに、パンツ一つで後ろ二手を回されてしゃがんだ、藤爾の姿があった。さるぐつわをされて。

 周りには三人の、ガラの悪い若い男たちが二人座り、グレーのスーツを着た一人が藤爾の後ろに立っていた。

「ご苦労さん。で、用はなんだ? 仕事は終わったんだから帰れよ」

 日本人のアクセントではない。

 据わった一人は、メガネをかけて体つきは細い。

 座り方にも癖はでる。

 ディスクワークを主にしている体つきとたたずまいだった。

 この男は、喧嘩などしたことがないのだろう。

「……そいつをどうしようと?」

 俺は細い男の側にすぐに移動できるような態勢を自然と静かに取った。

「知ってどうするよ? 一緒に行きたいのか? 帰りな」

「俺が出て行ったら、途中で捕まるんだろう?」

「それは運が悪ければだな」

 藤爾の後ろの男は軽く嗤った。

「冗談」

 俺はすぐに細い男の背後に入って首を腕で締めて身体を反らせた。

「おいおい……」

 二人は呆れたらしい。

 藤爾が呻く。

 その後ろの男が、腕を軽くかざしてくる。

 包丁を手にしていた。

 多分、この部屋のだ。

「死にてぇか? 大人しくどっか行けよ」

 ドスの効いた声。

「ナンバー」

「あ?」

「おまえらがスタンプラリーで集めてたのは、偽札の原版の一部だろ? 俺がそれをスタンプで押した。恐らく、そのスタンプそのものはもう無いだろう。その代わり、スタンプ帳がある。おまえらは、駅員を使って原版を山手線上から得てたんだ。アナログなところがいいね」

「……どこから聞いたよ?」

 藤爾を横に倒し、包丁を持った男が一歩前にでる。

「うるせー」

 俺は三台目の携帯を片手にした。

 番号に通話を掛ける。

 途端、光りが瞬き、耳が聞こえなくなった。

 しゃがんだ俺は、瞬間に壁に押されて爆発から細い男が盾になっていた。

 煙と塵で部屋は薄暗かった。手広くやろうとしてた藤爾の部屋に仕掛けられていた証拠隠滅用の小型爆弾が爆発したのだ。

 ガラスは当然全て割れて、部屋の所々に火が付いていた。

 俺は倒れたままの藤爾の腕を縛るビニールテープを切ってさるぐつわも取った。

「……すまねぇ、脅されてな」

 意識を取り戻した藤爾は、最初にそう言った。

 外で消防車が鳴らす音が遠くから聞こえてきた。

「よくわかったな?」

「おまえの連絡のアルファベット、順番違うと思ったら、『偽札の原板』ってハッキリ書いてるの、思い出した」

「いい子だ……よし、逃げるぞ」

 彼はよろよろと、襖の無くなった押し入れの奥の金庫を開けた。

 中にはアタッシュケースが一つ入っているのが見えた。

「偽札のフェイクを造って、間を開けて本番やらかそうとしてたんだよ、連中。そのフェイク用の偽札は俺が預かってた。持ち逃げしようとしたところを、危うく殺されかけたわ。ここ燃やされたけどな」

「クソ野郎だな、おまえ。何時からそんな繋がりができたんだよ?」

「色んな国の人間が楽しく交流するサイト」

「最悪だわ。欲かきやがって」

「飛ぶぞ。まだ奴らには生き残りがいる」

 藤爾はパンツ姿のまま、有無を言わさず俺を連れて池袋の奥に走った。

 泡銭どころか、偽札を持って。






 


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