21・Sideリリィ
「……どうして」
鏡の前で、私は自分の両手を見つめる。
細く白い指先に愛らしく整えられた外見。
前と何も変わらない。
それなのに……。
「……薄れてる?」
私の、ルシアン様の番の気配が。
あれほど強く、誰もが跪いた“絶対の証”が、わずかに……揺らいでいる。
「そんなはずない……」
私は顔をゆがめ、唇を噛む。
あり得ない。
あってはならない。
だってこれは、私が、私の完璧な力を以って完璧に“奪ったもの”なのだから。
可愛いリリィ。
皆に愛されるリリィ。
それなのに市井で生まれ、孤児として育った私は、ずっと、自分の居場所はここではないと信じ続けてきた。
だけど神様は私を愛していたのよね。
私には幸運にも生まれつき魔力があった。
──擬態魔法。
最初にそれに気づいたのは、孤児院の院長先生に擬態して孤児院の子どもを騙した時。
この力、使える、って思った。
だからたくさん練習して、完璧に擬態した。
ルシアン様の番の匂いを。
私にはルシアン様の番の匂いなんて実際はわからないけれど、強く念じればたとえわからなくても擬態ができるくらいに、私の訓練し尽くした力は完璧になっていた。
それを誰にも見破られないように、強い匂いに変えて、王家の馬車が通るのを見計らって飛び出した。
そして案の定、ルシアン様を騙すことができた。
ルシアン様はもう私の言う事しか聞かない。
私が王妃になるのももうすぐ。
そう、思っていたのに──。
「……あの女」
脳裏に浮かぶのは、あの人間の……”偽物”王妃の顔。
何があっても凛として構えて、何もかもを見透かしているような目。
「ただの人間のくせに……っ!!」
あの女が来てから、何かがおかしい。
何かが狂い始めた。
自分でもわかるもの。
自分の番の匂いが、薄れ始めていること。
ルシアン様も、私に強烈な情熱を傾けなくなってきたこと。
「……なら」
ぎゅっと拳を握る。
「もっと強くすればいいだけよ」
そう。
足りないなら、増やせばいい。
もっと濃く。もっと強く。もっと支配的に。
誰も疑えないほどに────“完璧な本物らしく”。
「そうすれば、ぜぇんぶ、元通り……」
私はそう自分に言い聞かせるように呟いて、宙を仰いだ。




