20・”王妃の仕事”は終わりましたので。
特にダンスを踊るでもなく、終始笑顔を張り付けて相槌を打っていた長い夜がようやく終わった。
人々が帰り、リリィ様が遠慮なくルシアン様にくっつき始めたところで、役目を終えた私は静かに出口へと向かう。
と、その時、どこからともなく静かに声が落ちた。
「……帰るのか?」
その短い一言に、思わず足を止め振り返ると、ルシアン様が何とも言えない表情でこちらを見ていた。
帰るのか?
まるで、引き止めるような響き。
え、今更、泊まれとでも言うのかしら?
いや、いやいや、んなわけがない。
だけど胸の奥に浮かんだのは、わずかな違和感と、ほんの少しの呆れ。
私はすぐに表情を整え、軽く一礼した。
「”王妃のお仕事”は終わりましたので」
王妃のお仕事、というのも表現的にあっているかどうかはわからないけれど、王妃として認められないのに一時だけその仕事を課される私からしたら、出稼ぎみたいな感覚になってしまうのも仕方がないでしょう?
そしてそのまま、迷うことなく踵を返した。
城の外に出ると、ひんやりとした空気が頬を撫でる。
そうして用意されていた馬車へと歩み寄り、カイルの手に自分のそれを添えエスコートを受けながら、馬車へと乗り込んだ。
もちろん私は、振り返らなかった。
────馬車が静かに走り出し、ようやく呼吸ができる、と言わんばかりに、私は大きく息を吸い込んだ。
向かいには、カイルが座っている。
彼はしばらく黙って何かを考えるように視線を落としていたけれど、やがてぽつりと口を開いた。
「……今更ながら、あなたを手放したことを、後悔しているのでは?」
その小さな問いかけに、私は思わずきょとんとしてから瞬きをする。
それから、ふっと肩の力が抜けたように笑った。
「ふふ。ルシアン様のこと? それはないわ」
そうきっぱりと言い切る。
「番は絶対だもの。呪いのように、一生付きまとうものよ。それが正しいかどうかもわからないままに」
それが覆りようのない事実。
そしてその歪さに本人たちは気づくこともないんだから。
「まぁそれに、私も別に望んでないし」
自分でも驚くほど、あっさりとした声だった。
窓の外に視線を向けると、夜の王都の町並みが静かに流れていく。
キラキラしていて、とっても綺麗。
昼間の私を見る敵意だらけの町とは思えない程に澄んでいる、
そう、望んでなんていない。
嫁いできてすぐ、あの仕打ち。
政略結婚とはいえ妻となった王妃でありながら、到着してすぐに別邸へ追いやられ、存在を否定されるような日々。
結婚式もないままに結ばれた、妻の人権もくそもない3つの魔法契約。
あれで、何かを期待しろという方が無理な話だ。
たとえ恋をしていたとしても、きっと冷めていただろう。
まして、最初から恋などしていない相手ならなおさら。
「でも────」
ふと、表情が緩むのが自分でも分かった。
「お姉様たちに会えてよかったわ。ふふ、相変わらずだったけれど」
あの笑顔の圧の強さを思い出して、私はくすくすと笑った。
そんな私に、向かいでカイルが、少しだけ困ったように笑った。
「……なかなか強烈でした」
「でしょう?」
私はまた、くすくすと笑いながら頷く。
「シスコンなのよ、皆」
呆れたように言いながらも、決していやなんかじゃない。
「ありがたいことだけれどね」
そう言って、窓の外へと視線を向ける。
「……私、もう少し頑張れそうな気がするわ」
そう小さく漏らした言葉は、カイルの耳にだけ届いて、滑車の音に溶けて消えた。
ついに20話ですーっ!!
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