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14・仮初め王妃VS寵愛されし番

 

 それは突然の呼び出しだった。


 王妃であるはずの私が住まう、王宮から離れた別邸。

 そこに届いた王宮からの使いは、丁寧な言葉を使いながらも、断る余地など最初からないと言わんばかりに威圧的にこう言った。


「――国王陛下がお呼びです」


 仮にも、一応、王妃のはずなのだけれど、彼らにとってはまだまだ認めたくないんでしょうね。

 番こそすべて。

 王の番こそ王妃である。か……。


「わかったわ。すぐに支度をして向かうから、馬車を用意してちょうだい」


 さぁて。

 今更何の用なのかしらね、仮初めの旦那様は。


 ***



 王宮に上がるのはあの日以来か。

 顔合わせ──、いえ、契約の時以来。

 王妃として迎えられながら、同時に不要とされたあの日が最初で最後だ。


 私のすぐ後ろにぴったりとくっついて歩くカイルのぴりりと張りつめた緊張感が伝わってくる。

 敵の親玉の本拠地みたいな感覚なんでしょうけれど、私としてはいきなり剣を抜かないかだけが心配でずっとひやひやしている。


 王宮について長い廊下を案内された先にある、謁見の間の扉が重々しく開く。

 その瞬間、視界に飛び込んできた光景に、私は顔をひきつらせた。


 玉座に座る夫であるルシアン国王。

 そしてその腕──本来ならば王妃が座る椅子に座って、当然のようにルシアン様の腕に絡みつく女──。


「リリィ様……」

 普通ならあり得ないその光景も、番至上主義のこの国では何ら問題にならないというのだから不思議なものね。


「……久しいな、クリスティ」

 形式的ですらない短く冷たさを帯びた挨拶に、私はゆっくりと膝を折り、礼をとる。


「お呼びと伺い、参上いたしました、陛下」

 顔を上げた瞬間、はっきりと向けられる嫌悪の視線。

 到底自分の妻に向けるような顔ではないわね。


「相変わらずだな。そのふてぶてしい態度」

「こういう性格ですの」


 きゃぴきゃぴするだなんて私には似合わないし、そもそも一国の王女として育った身としては当然のふるまいだと思う。うん、私、悪くない。


 すると私たちの間に、くすくすと笑う声が混じった。


「堅苦しすぎですよぉ、クリスティ様。もっと可愛らしくしなくちゃ、仮の王妃としても破棄されちゃいますよぉ」

 リリィが、彼の腕に頬を寄せながら、まるで私を値踏みするように見下ろしてくる。


「破棄? まるでゴミみたいな言い方をするのね。寵愛云々がなくとも立場上私は正当な妻で王妃なの。口を慎んでいただきたいわ。これは、国と国の契約によるものなのだから」

 そう、暗に他国との関係をちらつかせて牽制する。


「っ……」

 堂々とした私の態度に言葉を詰まらせ表情を歪めるリリィ様。


 まぁ、寵愛なんてこの際もう正直どうでもいい。

 だけど、言われっぱなしでいられるほどおおらかでもないのよ、私は。


「それと、そこは王妃の席よね? そんなところに王妃でもない方が我が物顔で座るなんて……。それこそ、その”ふてぶてしい態度”、なのではなくて?」

「なっ……ひどいですっ!!」

「事実よ」


 ぼろくそに言いまくる私に、番至上主義の家臣たちは皆ざわざわとざわめく。

 だけど一人だけ、最も怒りをあらわにするであろう人間は、眉間に深い渓谷を刻んで私を睨みつけるだけで、何も言う気配がない。


 それが妙に、気持ちが悪く感じて、私もそちらにまっすぐに視線を向けた。






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