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13・なんとかなったりしないかなー、なんて。


 番衝動は一種の発作。

 病か何かと同じようなもの、よね?

 となれば、私の治癒の力って……使えないかしら?

 幸い私には優秀な護衛騎士がいるし…………うん、試してみる価値は、ある。


「クリスティ様!?」

 カイルが声を上げ私の腕をつかむけれど、私はそれを振り払い、歩みを続けた。

 ゆっくりと、一歩一歩、暴れる獣人へと近づいていく。


 その瞬間、青年の目が私を捉えた。

 ギラリ、と鋭く光る、黄金の目。

 次の瞬間――。


「っ!!」

 獣人の青年は地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた。


「クリスティ――ッ!!」

 カイルが叫び駆け寄るけれど、私はそのまま、ただ、静かに息を吸い――青年に手を伸ばした。


「ぐぉぉおぉおっ!!」

 そっとその額に触れる、私の白い指先。

 その瞬間だった。

 ――すう、と、空気が変わった。


 荒れ狂っていた気配が、嘘のように静まっていき、青年の身体から力が抜けた。

 と同時に、金色の瞳の焦点が戻ってくる。


 そして──。

「……あ、れ……?」

 呆然とした声を出して、その場に崩れ落ちる青年。

 さっきまでの激しい衝動は、完全に鎮まっていた。


 恐怖の声で満ちていた通り全体が、しん、と静まり返る。


「……え?」

「今、何が……」

 誰も理解できていないような声がちらほらと上がる。 


「王妃様……今のは……」

 私は手を引っ込めて、軽く首を振る。


「えっと……何でしょう、ね?」

 呆けたような私の応えに、いつも冷静なカイルの声が裏返る。


「何でしょうね、じゃないです!! 番衝動を“触れただけで鎮める”など、聞いたことがありません!!」

「私だって聞いたことないし、まさか出来ちゃうなんて思わなかったわよ!? その……ただ、衝動的発作での暴走なら、治癒の力でなんとかなったりしないかな、なんて……」

「なんとかなったりしないかな……って……」

 意味が分からない、という顔。

 まぁそうよね、私もそうだもの。 


「ほら、この人も落ち着いたみたいだし」

 私はしゃがみ込むと、さっきまで暴走していてた青年に微笑みかける。


「もう大丈夫よ」

「……っ、あ……」

 私が言うと、青年は震えながら頷いた。


 さっきまでの狂気はもう跡形もない。

 そして周囲から、ざわめきが広がる。


「あれは……人間の国から嫁いできた王妃様? 王妃様が……助けたのか……?」

「今の、何の力だ……?」


 尊敬と、畏怖。

 そして、戸惑い。

 それらが入り混じった視線が、私へと向けられる。だけど──。


「さて、帰りましょう、カイル」

 私は何事もなかったかのように立ち上がって、歩き出す。


 しばらく歩いて、カイルがぽつりとつぶやいた。

「……皮肉ですね」

「何が?」


「……王城にいない方が……王妃らしい」

 その言葉に私は目をぱちぱちと瞬きさせてから、それから頬を緩めた。


「ふふ。……本当ね」


 そして私たちは、日が暮れるまで町を探索してから、すっかりと住み慣れた屋敷へと戻って行った。

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