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第6話:氷の副官と絶対に知られたくない秘密

敵が到着するまでのわずかな時間、私は無音設定にしたウィンドウを呼び出し、残りのストック『2』をすべて使い切るつもりで事前の情報収集を叩き込んだ。


(『教えて、インフォメーション』。現在こちらに向かってきている部隊の指揮官の名前・所属と、その人物が今、部下たちの前で絶対に知られたくないと思っている恥ずかしい隠し事は何?)


ピカッとウィンドウが明滅し、テキストが表示される。


『該当いたしました! 消費ストック【1】でご案内します!


指揮官は、第2皇女派閥の副官【スイ=アクリーム】です。


対象者スイの隠し物は以下の通りです。


【軍服の左胸の内ポケットに、彼女自身が夜な夜な手作りした、歪な形をしたピンク色のウサギのぬいぐるみ(命名:スイウサちゃん)が隠されています。彼女は極度の可愛いもの好きであり、このぬいぐるみがないと不安で任務に集中できないため、常に心臓の近くに忍ばせています】』


「…………っ、くくっ」


表示されたテキストを読み、私は思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えた。


氷のように冷徹な騎士という噂だが、とんでもなく可愛い弱点だ。


私はさらに駄目押しとなるよう、最後のストックを消費した。


(続けて教えて。彼女が部下たちに威厳を保つため、一人の時にこっそり行っている恥ずかしい日課は何?)


『消費ストック【1】。(本日の残りストック:0)

対象者スイは毎朝、洗面台の鏡の前で十分間『氷のように冷酷な眼差し』を作る練習をしており、納得のいく顔ができると「ふっ、今日の私も完璧な氷ね」と一人で呟くのを日課としています』


私は再び込み上げてくる笑いをなんとか飲み込んだ。


「どう? 使える弱点、引けた?」


杖の点検をしていたミドが尋ねてくる。


私はウィンドウを消しながら意地悪く口角を上げた。


「ええ、完璧よ。相手の分厚い氷をカチ割る最高のハンマーが手に入ったわ」


「……あんた、本当にいい性格してるわね」


ミドが呆れたように笑った直後、窓の外の深い朝霧に包まれた森の開けた場所に、五人の武装した一団が足音もなく現れた。


先頭に立つのは冷たい氷のような水色の長髪をキッチリと結い上げた女騎士だ。


彼女はミドの結界の前で綺麗に足を止めると、鋭い眼光で小屋を睨みつけ、よく通る凛とした声で口を開いた。


「この小屋の主に告げる! 私はアフタミア帝国、第2皇女殿下が直属部隊副官、スイ=アクリーム! 数日前にこの森で起きた事件の調査に来た。怪しい者の出入りはないか中を改めさせてもらう!」


第2皇女派閥にとって、第5皇子がでっち上げた第6皇女の不慮の死という美談は胡散臭くて仕方ないはずだ。


だから裏を取るために優秀な副官を調査に向かわせたのだろう。


「行くわよ、ミド」


私はダボダボのローブの胸元をしっかりと合わせ、朝霧の立ち込める外へと堂々と足を踏み出した。


「なっ……!?」


私を見た瞬間、氷のように冷徹だったスイの目が限界まで見開かれた。


彼女の後ろに控えていた四人の兵士たちも、幽霊でも見たかのように息を呑む。


「……あり得ない。プリーズ殿下……? 報告では、落石事故で亡くなられたはず……!」


「お久しぶりね、スイ副官。残念ながら落石になんて遭ってないわ。見ての通りピンピンしているもの」


私が微笑むと、スイは一瞬の動揺をすぐさま押し殺し、チャキッと腰の剣の柄に手をかけた。


背後の兵士たちも一斉に武器を構える。


「……全員、警戒しろ。殿下はすでに崩御されたと公式発表が出ている。姿形を偽装した魔物、あるいは罠の可能性が高い!」


スイの鋭い声が響く。


さすがは優秀な副官だ。


まともに戦えば、武器も持たない私とミドだけでは絶対に勝ち目はない。


けれど、盤面はすでに私が完全に支配している。


私はスイを見据え、部下たちには意味がわからないように敢えて曖昧な言葉を投げかけた。


「別に偽物じゃないわ。ただ、そんな怖い顔をして剣を構えなくてもいいのに。……あなたの左胸の内ポケットに入っているピンク色の柔らかいお友達が、怯えて泣いちゃうわよ?」


ピタッ。


その瞬間。


スイの動きが、文字通り完全に凍りついた。


「……え?」


「夜な夜なチクチク手作りしたんでしょう? とっても可愛い趣味だと思うわ。それに、毎朝鏡の前で十分間『完璧な氷』を作る練習をしてるんですって? とってもクールね。……ねえ、私が今ここでその詳しい内容を兵士の皆さんに発表してもよろしくて?」


私がクスリと笑って小首を傾げると、スイの顔からサーッと血の気が引き、瞳孔が極限まで見開かれた。


「な、ななななな、なぜ、それを……ッ!?」


「副官? ピンクの……?」


「完璧な氷……なんのことです?」


背後の兵士たちが不思議そうに顔を見合わせる。


スイはガタガタと震える手で自身の左胸を強く押さえ、私を凝視した。


(ま、まさか……。ただギフトの名前しか判明していないハズレ能力じゃなかったのか!? 『インフォメーション』の本当の使い方に気づかれたとでもいうのか……ッ!? だとしたら、私の恥ずかしい隠し事も全部この御方に筒抜けになっているんじゃ……ッ!?)


そんなスイの心の声が聞こえてきそうなほどの、見事な狼狽っぷりだった。


皇室の面汚しと呼ばれるハズレ能力。


彼女も事前情報としてそう聞かされていたはずだ。


だが今、彼女は身をもって理解したのだ。


この得体の知れない能力の矛先が自分に向いた時、それがどれほど恐ろしい事態を引き起こすかを。


「……お願い、します。どうか、それ以上は……。もう……ッ」


涙目で小声で哀願してくるスイに、私はにっこりと微笑み返した。


「なら大人しく剣を収めなさい。そして私に敵対する意思がないと証明なさい」


チャキッ!


私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、スイは目にも止まらぬ速さで自身の剣を鞘に収めた。


そしてコホンと一つ不自然な咳払いをして表情を『完璧な氷』に戻すと、背後の兵士たちに向かって鋭く言い放った。


「全員、絶対に手を出すな! 武器を収めろ!」


「ふ、副官!? しかし、相手の正体が……!」


「構わん、私の命令が聞けないか! ……この方は底知れぬ力を持っておられる。我々が束になっても到底敵う相手ではない! 決して刺激するな!」


スイの悲壮感すら漂う声に兵士たちは息を呑んだ。


「あ、あの氷の副官が、戦う前から冷や汗を流して白旗を……!?」


「ただごとじゃない……この第6皇女殿下、一体どれほどの化けバケモノなんだ……ッ!」


「絶対に怒らせてはいけない御方だ……!」


兵士たちが震え上がりながら一斉に武器を収める。


スイの必死の隠蔽工作は、結果として私という存在の底知れぬヤバさを彼らの脳裏に強烈に刻み込むことになったようだ。


「……あんた、悪役の才能あるわね」


背後の小屋から顔を出したミドが、呆れたような、それでいてどこか楽しげな声で呟いた。


私はダボダボの袖をパサリと翻し、すっかり戦意を喪失して肩で息をしているスイを見下ろした。


「さあ。話のわかる人で助かったわ。それじゃあ、せっかく来てくれたんだし、ここで一日『労働』でもして、ゆっくり情報交換をしましょうか」


「……え?」


「夜には私のお茶会に招待してあげる。明日の朝まで帰さないわよ?」


今の私のストックはゼロ。


だからこそ深夜0時を回ってストックが満タンに回復するまでの間、この氷の副官たちを私の監視下に置き、逃がさないための強制・お手伝いお泊まり会の開催だった。


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