表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/13

第2話:生存率0.02%とカスタマーサポート

ヒュウウウウウウウッ!


耳元で風が獣の咆哮のように轟いている。


真っ逆さまに落下していく私の体は、容赦ない重力に引かれ、暗い森の底へと猛スピードで吸い込まれていた。


冷たい雨粒が弾丸のように頬を打ち据え、涙は重力に逆らって上へと飛んでいく。


眼下には黒々とした樹冠が迫っていた。


あと数十秒。


あと数十秒で激突する。


間違いなく全身の骨が砕け散り、私の人生は血肉の華を咲かせて終わる。


そんな絶体絶命の最中。


私の視界を覆い尽くす半透明の光の板は、空気を読む気など微塵もない様子で、能天気な保留音を鳴らし続けていた。


『♪〜チャンチャカチャ〜ン、チャンチャカチャ〜ン……ピロンッ!』


不意にマヌケな音楽が止んだ。


『大変長らくお待たせいたしました! カスタマーサポートAI『インフォメーション』初回セットアップが完了いたしました!』


脳内に直接響く、やたらとテンションの高い合成音声。


『現在のお客様の初期ストックは【3】となっております! 毎日深夜0時にストックは【最大値(現在のMAX:3)】回復いたします。本日はどのようなご用件でしょうか?』


「ご用件もストックもどうでもいい! 助けて! 私が助かる方法を教えて!!」


空中で手足をジタバタさせながら、私は半狂乱で叫んだ。


神様からもらったギフト。これが本当に私を助けてくれる力なら、奇跡でも魔法でもなんでも起こしてよ!


私を空に浮かせて!


あるいは時間を巻き戻して!


『♪〜検索中……ピロンッ!』


ウィンドウの中央に、赤い警告マークが点滅した。


『【ERROR(Code:2)】! 誠に申し訳ございません。お客様の要求は検索コストが【5】必要なため、現在の最大ストック【3】ではお答えすることができません!』


「はあああああああっ!?」


嘘でしょ!?


せっかく起動したのに、肝心なところで使えないの!?


役立たず!


ポンコツ!


やっぱり私のギフトは、どこまでいっても完全なるハズレだったんだ!


『なお、現在のお客様の生存率は【0.02%】となっております! 大変危険な状態ですので、お早めの対応を強くおすすめいたします!』


「煽ってんじゃないわよ!! 対応できるならとっくにしてるわよ!!」


木々の枝葉が、もう鼻先まで迫っている。


死ぬ。


確実に死ぬ。


エルドラの嘲笑う顔が脳裏をよぎった瞬間、私は冷静になった。


――いや。


死の恐怖で真っ白になりかけた時、ひとつの鋭い閃きが走った。


時間が極限まで引き伸ばされたような感覚の中で、私の思考が急速にクリアになっていく。


違う。


この能力は、魔法使いや神官のように奇跡を起こす力じゃない。


名前は『インフォメーション』。


そしてさっき、こいつは『お客様の要求は検索コストが5必要だ』と言った。


つまり、「私が助かる方法(奇跡の実行)」という、未来の事象を丸ごと変えるような無茶なお願いだから、コストが高すぎて弾かれたんじゃないの?


なら、もっと条件を絞って、ただの『周囲の情報』として質問すれば……!


残された時間は、ごくわずか。


私はカッと目を見開き、迫り来る森に向かって、今の自分が物理的に干渉できる限界の条件を叩きつけた。


「教えて! インフォメーション! この真下、私が体をよじって届く『半径一メートル以内』で、一番落下の衝撃を殺せる場所はどこ!?」


『♪〜検索中……ピロンッ!』


お願い、間に合って……!


『該当いたしました! 消費ストック【1】でご案内します!』


直後、私の視界のすぐ右下――ほんの数十センチ先の空中に、眩しく光る『赤い矢印マーカー』が出現した。


その真下には巨大な樹木の枝が複雑に折り重なり、泥深い沼が広がっている。


『あちらのポイントへ向けて、ただちに軌道を修正してください!』


「無茶言わないでよ!!」


悪態をつきながらも私の体はすでに動いていた。


必死に体を右にひねり、破れたドレスの裾を両手で強く握りしめ、滑空する鳥の翼のように大きく広げて風の抵抗を利用する。


二の腕の筋肉が千切れそうなほど悲鳴を上げた。


ほんの少しだけ。


本当に、手が届くかどうかのわずかな距離だけ、体が右に流れる。


赤い矢印が示す、生存率が0.02%から跳ね上がる、たった一点の生存ルートへ向かって。


バキバキバキバキバキッ!!!


「あぐっ、う、あああああああっ!!」


全身を何度も太い枝に打ち付けられ、骨が軋む。


容赦なく皮膚が裂け、激痛が脳を貫く。


しかし、幾重にも重なった太い枝葉が確実に落下のスピードを殺していく。


そして最後は。


ドシャアアアアアアッ!!


派手な水音と泥の飛沫と共に、私は冷たくて深い泥沼の中へと頭から勢いよく叩き込まれた。


「かはっ……、げほっ、ごぼっ……!」


泥水が鼻や口から入り込み、激しくむせる。


全身の骨がきしむような激痛。


泥水の不快な味。


ちぎれそうなほどの肺の痛み。


けれど手足は動く。


私は……生きている。


泥だらけの顔をわずかに上げると、暗闇の沼に、やたらと明るい声が響き渡った。


『目的地周辺に到着いたしました。音声案内を終了します! 本日の残りのストックは【2】となります!』


ピロン♪


『またのご利用をお待ちしております!』


……なんて、ふざけた能力なの。


「最悪、ね……」


安堵と想像を絶する疲労が一気に押し寄せてくる。


私は泥にまみれたままゆっくりと目を閉じ、今度こそ完全に意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ