第10話:不死身の狂皇女への極悪ハッタリとテイム完了
「……あァ?」
ネネードお姉様の顔から好戦的な笑みがスッと消え去る。
「シスタネだと……? なんであの堅物聖女の名前がここで出てくんだよ。ハッ、まさかテメェ、あいつと裏で繋がって……」
「ええ。私のギフト『インフォメーション』の本当の恐ろしさを教えてあげるわ」
私は冷や汗を一滴も流さず(内心は心臓がバクバクだったが)、ダボダボのローブの袖を優雅に翻して、ネネードお姉様の言葉を遮った。
「私の能力は対象のあらゆる情報を暴き出す力。あなたが魔境への突撃で壊した軍の備品の総額も、街でやらかした器物損壊の被害額も、そして……その机の下のワルモンドお兄様からの裏帳簿の存在も、すべて私の脳内に完璧なデータとして保存されているわ」
「なっ……テメェ、あの紙切れの正体を……!」
「そしてここからが重要よ。私は自分のギフトをシスタネお姉様と常にリンクさせているの。私が『命の連動設定』と呼んでいるものよ」
「……いのちの、れんどう……?」
脳筋のネネードお姉様が聞き慣れない単語に目を白黒させる。
私は口元に極悪な笑みを浮かべ、決定的なハッタリの引き金を引いた。
「もしあなたが今その斧で私をミンチにして私の心臓が停止したら。その瞬間――私の中に蓄積された『あなたのすべての罪と不正のデータ』が、シスタネお姉様の脳内に自動送信される設定にしてあるわ」
「じ、自動送信……ッ!?」
「ええ。証拠隠滅は不可能よ。……さて、あなたの過去の余罪とワルモンドお兄様との密約を知ったシスタネお姉様は、果たしてあなたを罪人と認定するかしら? しないかしら?」
カランッ!!
ネネードお姉様の手から、巨大な戦斧が滑り落ちて床に叩きつけられた。
「し、死後自動発動能力だとぉぉ!? というか告げ口とか卑怯だぞテメェ!!」
ネネードお姉様が頭を抱えて絶叫した。
見事なまでの狼狽っぷりだ。
私のハッタリは彼女の脳筋思考のド真ん中を見事に撃ち抜いたらしい。
「ふざけんな! あいつの『神の断罪』だけはマジで痛ぇし、罪人認定されたらリスポーン関係無しに魂ごと消し飛ばされかねないんだぞ!? そんなもんが自動で発動するとか、私はお前を殺せないってことじゃねえか!!」
「ええ、その通りよ。だから大人しく斧を収めて、そこにお座りなさい。猛獣さん?」
私が言い放つと、先ほどまで圧倒的なプレッシャーを放っていた軍の最前線を張る猛将は、「クソッ、クソがぁ……!」と涙目でギリギリと歯を噛み締めながら、大人しく部屋の隅の丸椅子にちょこんと座った。
「……シスタネ殿下の名前を出されると、本当に弱いんですよね、あの人……色んな意味で」
「……ホント、いい性格してるわねぇ、あんた」
私の背後でスイとミドがドン引きしたような小声を交わしているのが聞こえたが、私は気にせず話を続けた。
「さて。私がお姉様を訪ねたのは、殺し合いをするためじゃないわ。むしろ最高の取引を持ちかけに来たの」
「取引……?」
ネネードお姉様が恨めしそうな目で私を睨み上げる。
「私はこれから私を暗殺しようとしたワルモンドお兄様を徹底的に引きずり下ろすわ。……お姉様も、あんな陰湿で裏工作ばかりする男、本当は嫌いなんじゃない?」
「当たり前だ! あいつは戦場にも出ねえでコソコソしやがって、マジで気に食わねぇ!!」
「なら、私の盾になりなさい」
私は一歩踏み出し、彼女を見下ろして宣言した。
「あなたが私の前衛に立ちワルモンドの陣営をぶっ飛ばしてくれるなら、私はこの自動送信を解除してあげる。……さらに」
私はニヤリと笑い、彼女にとって最大の報酬を提示した。
「私があなたの上に立ち、軍の書類仕事、事務や面倒な戦略立案はすべて私の陣営で引き受けてあげるわ。あなたはもう一生、机に向かって書類の山と睨めっこしなくていいのよ。好きなだけ前線で暴れ回るだけでいいわ」
「なっ……!?」
ネネードお姉様が弾かれたように顔を上げた。
その瞳はまるで救世主でも見るかのようにキラキラと輝いている。
「ほ、本当か!? もう二度とあんな文字の羅列を見なくていいのか!? 突撃するだけでいいのか!?」
「ええ、約束するわ。私の情報力と、スイのサポートがあれば、書類仕事なんて一瞬よ」
「うおおおおッ!! お前、最高じゃねえか妹よォォ!!」
ガシィッ!! と。
ネネードお姉様が猛烈な勢いで立ち上がり、私の華奢な肩をガクガクと前後に揺さぶった。
「痛い痛い痛い! 骨が、骨が折れるからやめなさい!!」
「ハハハ! 決まりだ! 今日から私がテメェの最強の盾になってやる! ワルモンドの野郎を物理でぶっ飛ばして、書類ゼロの最高の世界を作ろうぜェェ!!」
満面の笑みで高笑いする不死身の狂皇女。
先ほどの殺意はどこへやら、完全に私に懐いた大型犬がそこに誕生していた。
「……よかったですね、プリーズ殿下。これで我が陣営に、最強の武力が加わりました」
スイが安堵の息を吐きながらどこか遠い目をしている。
「ええ。……でもスイ、あなたにも言っておくけれど、私は絶対に書類仕事なんかしないからね? 全てはミドの魔法と、あなたの実務能力にかかっているわ」
「……え?」
「私は情報を与えて指示を出すだけ。あとはよろしくね、有能な副官さん?」
私が極悪な笑顔でウインクすると、スイの手からポロリと、丸められた羊皮紙(裏帳簿)がこぼれ落ちた。
「あ、悪魔……! ここも結局、ブラック職場じゃないですかぁぁッ!!」
深夜の第2皇女の拠点に、スイの悲痛な叫び声が響き渡る。
かくして。
絶対的な情報を持つ私(策士)。
自然を操る魔女のミド(魔法)。
不死身で無限にリスポーンするネネードお姉様(前衛)。
そしてすべての実務を押し付けられる不憫なスイ(苦労人)。
ワルモンドを破滅させるための、そして私が平穏なスローライフを勝ち取るための『最強にして最悪のパーティー』がここに結成されたのだった。
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