目覚めはまだか
ひどい疲労感と共にベッドに倒れ込んだ。
ここ数日、同じ夢にうなされているせいだ。
目を閉じると、いつも決まって、あの場所に引きずり込まれる。
(また、だ)
目が覚めると、俺は自宅のベッドではなく、カビ臭い、知らない日本家屋の縁側に立っていた。
外は常に夜。
庭の古い松の木が、月明かりに不気味に照らされている。
そして、必ず聞こえてくる。
奥の、一番暗い座敷から、
「ギギ…ギギ…」
という、古い縄が擦れるような音が。
(行きたくない、行きたくない)
そう思うのに、
足は勝手に、
その音のする方へ、
板張りの廊下を軋ませながら進んでいく。
座敷の前に着く。
襖は、半開きになっている。
「ギギ…ギギ…」
音は、その暗闇の中から聞こえている。
俺は、まるで何かに操られるように、その隙間を覗き込んでしまう。
暗闇の中。
目が、合った。
天井の太い梁から、「それ」はぶら下がっていた。
長い黒髪を床に垂らし、白い着物を着た女が、逆さ吊りになっている。
そして、
「ギギ…ギギ…」
と、まるで振り子のように、ゆっくりと左右に揺れている。
逆さまになったその顔は、白目を剥き、口を不自然に大きく開けている。
女は、声にならない声で、
「マダ… マダ…」と呟いた。
「うわあああっ!」 俺は絶叫し、金縛りが解けたように畳の上に倒れ込んだ。
(はぁっ、はぁっ!)
激しい動悸で目が覚めた。
そこは、見慣れた自分のアパートの天井だった。
時計は午前三時。
「……夢、か」 全身が嫌な汗でびっしょり濡れている。
俺は水を飲もうと、ベッドから足を下ろした。 その瞬間。
「ジャリッ」
足の裏に、硬く、乾いた感触があった。
(なんだ?)
スマホのライトを点け、床を照らす。
そこには、
乾いた土と、
数本の古い畳の藁が散らばっていた。
(……なんで、こんなものが)
夢の中で倒れ込んだ、あの座敷の畳。
背筋が凍りつく。掃除機をかける気にもなれず、
俺はそれをティッシュで摘まんでゴミ箱に捨てた。
(疲れてるんだ。夢と現実の区別がついてない)
そう思い込もうとしたが、恐怖は消えない。
その夜は、電気を煌々とつけたまま、無理やり目を閉じた。
次に目を開けた時、俺は安堵した。
自分の部屋の、明るい朝の光の中にいたからだ。
(よかった、朝だ。もう大丈夫だ)
だが、すぐに異変に気づいた。
体が、動かない。 金縛りだ。
(嘘だろ、なんで今!?)
焦る俺の耳に、「それ」は聞こえてきた。
「ギギ…ギギ…」
音は、夢の中のあの座敷からじゃない。
この、俺の部屋の、天井の真上から聞こえている。
俺は必死に眼球だけを動かし、音のする天井を見た。
そこには、何もない。白い、見慣れた天井だ。
「ギギ…ギギ…」
音は、どんどん大きくなる。
そして、
「ミシッ…」
と、天井のクロスが小さく裂ける音がした。
次の瞬間、 天井の裂け目から、一本の、黒く長い髪の毛が、スルスルと垂れ下がってきた。
一本、また一本と、まるで生き物のように、髪の毛が降りてくる。
(やめろ、やめろ、やめろ!)
声が出ない。体が動かない。 髪の毛は、俺の顔の真上まで降りてくると、ピタリと止まった。
そして、髪の毛が左右に分かれ、
その隙間から、天井裏の暗闇に光る、
あの逆さまの、白目を剥いた目が、俺を、覗き込んでいた。
女の、大きく開かれた口が、動いた。
「ツカマエタ」
次の瞬間、俺の口の中に、大量の乾いた土と、藁の束が、無理やりねじ込まれた。
息ができない。土の味が、口いっぱいに広がる。
(夢だ、これは夢だ、早く覚めろ、覚めろ、覚めろ!!!)
俺は意識が遠のく中で、必死に願った。
(はっ!)
俺は、勢いよくベッドから跳ね起きた。
息が、できる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
口の中に、土の感触はない。
(夢、だったのか……? 夢の中で、夢を見てたのか?)
混乱する頭で、周囲を見渡す。
見慣れた自分の部屋だ。
天井に、裂け目はない。
時計は午前三時五分。
さっきとほとんど変わっていない。
(……もう、眠れない)
俺は震える手で、ベッドサイドに置いていた水を掴み、一気に呷った。
だが、水は喉を通らなかった。
俺は飲んだもの全てを、床に激しく吐き出した。
「ゴボッ…! ゲホッ、ゲホッ!」
俺が吐き出したのは、水ではなかった。
床に飛び散ったのは、真っ黒な土と、水に濡れた大量の藁くずだった。
そして、俺は気づいてしまった。
俺の部屋の隅。
クローゼットの扉が、半開きになっている。
その、暗い、暗い隙間の奥から、
「ギギ…ギギ…」
という、あの音が、
現実の世界で、確かに、聞こえている。
夢の中で、夢と思っても目覚められないときありますよね
起きたと思ったら、夢の続きだったとか
早く逃げたいのに、逃げられないあの感覚
学生の時までは良く見ていました
実家出てから見なくなったのは、やはり、、、
今晩も素敵な夢が見れますように。。。




