人柱
あれは昭和50年代、俺がまだ若手の作業員だった頃だ。新しいバイパスを通すための造成工事だった。
その日、重機のオペレーターが「何か硬いもんに当たった」と作業を止めた。
掘り返してみると、そこには赤黒く変色した、おびただしい数の木製の杭が打ち込まれていた。
杭には、まるでミミズが這ったような、奇妙な文様が刻まれている。
そして、その杭の中心には、腐りかけた小さな木箱が一つ。
ベテランの作業員たちが「こいつぁ、人柱か何かの呪いだ。触らんでおけ」と顔を青くした。
だが、現場監督は工期しか見ていなかった。
「馬鹿馬鹿しい。迷信だ。
そんなもんで工事が遅れるか。
全部砕いて、さっさと埋め戻せ!」
オペレーターは嫌な顔をしたが、監督の命令には逆らえない。
ガソリンが撒かれ、杭は燃やされ、木箱は重機で粉々に砕かれ、そのまま基礎の下に埋められた。
その日の夕方、最初の事故が起きた。
あの重機のオペレーターが、作業終了間際、操作を誤って重機ごと法面から転落した。
機械はひしゃげたが、彼は奇跡的に軽傷だった。
しかし、彼は
「違うんだ、誰かに……誰かに、レバーを掴まれたんだ!」と怯え切っていた。
次の日、現場監督が来なかった。
連絡が取れず、アパートに行くと、彼は風呂場で溺死していた。
水は足首までしか溜まっていなかったというのに。
恐怖は、そこからだった。
あの杭と木箱を見た作業員が、一人、また一人と「いなく」なっていった。
ある者は現場で資材の下敷きになり、ある者は原因不明の高熱で寝込み、そのまま……。
俺たちは皆、気づいていた。
あの杭を埋めた場所を通るたび、重く、冷たい視線を感じることに。
そして、夜、宿舎で寝ていると、耳元で「ツギハ、オマエ」と、湿った声が聞こえることに。
だが、工事は止まらない。
新しい監督が来て、新しい作業員が補充され、俺たちはまるで何かに急かされるように作業を続けた。
逃げ出そうとした仲間もいたが、なぜか必ず現場に戻ってきてしまう。
今、あの杭を見た人間で生き残っているのは、俺だけだ。
俺は今夜も、この現場事務所で宿直をしている。
さっきから、ドアを「トントン、トントン」と、爪で引っ掻くような音が止まない。
わかっている。
あれは、俺が最後に埋めた、あの木箱の欠片だ。
俺の順番が、回ってきたんだ。
ドアを開けることはできない。
だが、あの音は、確実に、ゆっくりと、ドアの木材を削りながら、こちらに近づいてきている。
父から聞いた話から着想です
皆さんの今住んでいる家が建つ前の土地って、何があったんでしょうね。




