紅葉狩り
紅葉の季節ですね
養老乃瀧は居酒屋
養老の滝は千葉にある滝
私たちは、暇なこともあり急遽、紅葉を楽しみに養老渓谷を目指した。
週末ということもあり途中、渋滞にも嵌まり夕暮れも過ぎ、日も沈んだがまだ明るい時間にようやく到着した。
「こんな時間になっちゃったけど人がいないのは、かえってラッキーかもね」
友人のAがそう言って笑う。しかし、現地に着いた瞬間、その期待は奇妙な違和感に変わった。駐車場には私たちの車一台だけ。
案内所も閉まり、周囲には生き物の気配すらない。
ライトアップはされている。
渓谷沿いに張り巡らされた照明が、夜の闇に燃えるような赤と黄色を浮かび上がらせている。
しかし、その華やかさとは裏腹に、空気が重く、冷たい。
そして、車を降りた瞬間から、私は強い視線を感じ始めた。
「ねえ、なんか見てる気がしない?」私は小声でAに尋ねた。
Aは辺りを見回し、
「誰もいないよ。山だからかも。動物とかさ」
と答えたが、その声もどこか張りがない。
私たちは、ライトアップされた遊歩道を奥へと進んだ。
進むにつれて、人工的な音は完全に消え、聞こえるのは自分の足音と、渓流の微かな音だけになる。
両側を切り立った崖と木々が覆い、上を見上げても、紅葉と漆黒の空しか見えない。
私たちは、つい最近私が話した病院の怪談などを話しながら、無理に陽気に振る舞った。
しかし、遊歩道の脇、紅葉の陰が深く落ちている場所に目がいくたび、
誰かがそこに「立っている」錯覚に陥った。
私たちは「最奥」まで行ってみようと、さらに道沿いに奥へと入っていった。
そこで異変が起こる。
プツン――
突然、遊歩道全体のライトアップの電気が、一斉に消えた。
周囲は一瞬で、目が開いているのか閉じているのかも分からないほどの漆黒の闇に包まれた。
私たちは思わず悲鳴を上げ、その場に立ち尽くした。
「嘘だろ、停電か?」Aが震える声で言う。
「急に…全部が消えるなんて…」
スマホのライトを点け、来た道、つまり唯一の退路を探す。
ライトを照らすその瞬間、私たちは二人とも、同じものを見てしまった。
さっきまで、私たちの足元を照らしていたはずの遊歩道の石畳に、びっしょりと濡れた、人の素足の跡が、点々と奥の闇へと続いているのだ。
ライトアップがされていた間は、地面が照らされすぎて見えなかった。
その足跡は、明らかにこちらに向かってきているものではない。
私たちの奥、つまり私たちが進んできた方向から、さらに奥の闇へと向かっている。
「行こう!戻ろう!」Aが叫び、引き返そうと一歩踏み出した、その時だった。
渓谷の対岸、水音に紛れて聞こえた。
「…チガウ…」
それは、女性の、水を含んで重くなったような、低く、湿った声だった。
声は、私たちが立つ場所のすぐ近くの暗闇から聞こえたように感じた。
私たちは、まるで誰かに背中を押されたように、無我夢中で来た道を走り始めた。
暗闇の中、スマホのライトを頼りに走る。
道の端には崖がある。
転落すれば終わりだ。
それでも、あの声の主から逃げたかった。
息が切れ、
心臓が破裂しそうになった時、
私たちはふと、
異様に甘い香りが周囲に漂っていることに気づいた。
そして、走りながら、私たちが通過する道の木々の枝が、サワサワと不自然に揺れているのを横目で見た。風ではない。
それはまるで、目に見えない何かが、紅葉の枝を掴みながら、私たちを追走しているかのように。
駐車場に戻った時、私たちは車の鍵を開けようと、ドアノブに手をかけた。
その瞬間、後ろの崖の上から、
「ニチャ」
という、粘液質な音が聞こえた。
そして、すぐ真上の暗闇から、先ほどの女性の声が、すぐ耳元で囁いた。
「…まだ、モミジ、見てないデショ…」
私たちは悲鳴を上げる間もなく車に飛び乗り、鍵を閉め、エンジンをかけ、タイヤを鳴らして駐車場を飛び出した。
バックミラーに映る、ライトアップの消えた漆黒の渓谷は、まるで巨大な口を開けているように見えた。
翌朝、私たちは渓谷から遥かに離れた場所で、車の窓ガラスを拭いた時に、あるものを見つけた。
昨夜、車の後部座席側のドアノブに、乾いた赤い、泥のようなものが、指三本の跡としてくっきりと付着していたのだ。
それは、紅葉の赤とは似ても似つかない、生々しい血の色だった。
これも体験をベースに書いてます
作者は養老渓谷には一度しか行ってません
紅葉は綺麗だったけど、終始風景を楽しむことは出来ませんでした
どうやら歓迎はされなかったようです
もし歓迎されてたら…




