あの扉を開くのは、
寝てるときって電灯は全部消します?
入院して三日目の夜。時刻は午前三時を少し過ぎた頃だった。
私は大部屋の最も奥のベッドにいた。
部屋の他の患者たちは皆、深い眠りについている。
看護師が巡回する微かな足音も途絶え、病棟全体が水を打ったように静まり返っていた。
この静寂こそが、病院の夜の恐ろしさだった。
遠くの部屋で鳴る点滴の機械音や、何かの軋む音が、普段よりも何倍も大きく響く。
その静寂を破って、異変は始まった。
私の病室の扉が、
スーッと、
ごくわずかに開いたのだ。
廊下の常夜灯の薄い光が、その隙間から細い帯となって室内に差し込んでいる。
ドアのすぐそばのベッドの老人が、寝返りを打った音が聞こえたが、誰も気づかない。
私は息を殺して、その隙間を凝視した。
扉は数センチ開いたまま、ぴたりと止まっている。
風が吹いたわけではない。このフロアの窓は全て閉ざされている。
次の瞬間、開いた隙間から、何か白いものが覗いた。
私は反射的に目をつぶろうとしたが、遅かった。
その「何か」は、私から見てちょうどドアの影になる位置にいたため、顔の詳細はわからない。
だが、はっきりと見えたのは、
病衣のような白い布地と、
その上にある異様に長く垂れ下がった黒い髪だった。
それは、まるで部屋の中の様子を「覗き込んでいる」かのように、
開いた隙間を上下にゆっくりと動いた。
覗いている時間が長すぎる。
普通、人間ならこんな不自然な動作はしない。
そして、その長い髪の間から、一瞬だけ見えたものがあった。
それは、
白濁した瞳だった。
その視線が、正確に、病室の一番奥にいる私を捉えた。
私は金縛りにあったように動けない。
大声を出したいのに声が出ない。
ただ、その白い影が、ゆっくりと、私の存在を確かめるように、静かにその場に居るのを感じる。
十分、いや、それ以上経ったように感じた後、白い影はスッと消え、
病室の扉は、「カチッ」という小さな音と共に、完全に閉ざされた。
私は荒い息を整え、額の冷や汗を拭った。
安堵したのも束の間。私はある決定的な違和感に気がついた。
あの影は、病衣を着ていた。そして、あれだけ長く立って覗いていたにもかかわらず、足音、スリッパの擦れる音、呼吸音、その全てが一切聞こえなかったのだ。
そしてさらに、私は自分のベッドの足元、点滴スタンドの柱に、薄い白い紙が貼り付けられているのを見つけた。
消灯までは、なかったものだ。
私は恐る恐る、手を伸ばし、それを剥がした。
それは病院のカルテ用紙の一部だった。走り書きされた鉛筆の文字が、暗闇の中でぼんやりと読める。
『ワタシハ マダ ココ ニ イル』
実家での体験をアレンジしてみました
ちなみに実家は襖で、
スーッと襖が動き、
白くぼんやりとした輪郭がこちらを覗いていました
それ以来、襖側に背を向けて眠れなくなりましたw
ところで寝室の扉って、ちゃんと閉まってます?




