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短編連作 ほら~www  作者: あさき夢みがち


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18/28

理想の部下

「お前さ、給料泥棒って言葉知ってる?知らないなら辞書引いてこいよ、今すぐ!」



部長の鬼頭きとうの怒号がフロアに響く。


俺、佐藤は、デスクの前で直立不動のまま、ただ頭を下げ続けていた。


書類の些細なミス。


それだけで、もう一時間も人格否定をされ続けている。



(死ね。死ね。死ね。今すぐ心臓が止まればいいのに)



俺は、床のシミを見つめながら、頭の中で呪詛じゅそを唱え続けていた。


毎日、毎日。



俺の心は殺意で塗りつぶされていた。




異変が起きたのは、それから一週間後だった。


その日、俺はいつものように朝礼で罵倒される覚悟をしていた。


しかし、鬼頭は現れなかった。



昼過ぎに出社してきた鬼頭は、ひどく顔色が悪かった。



目の下には濃いクマがあり、脂汗をかいている。



そして、しきりに右肩を気にしていた。



「……おい、佐藤。ちょっと」



呼ばれてビクリとする俺に、鬼頭は弱々しい声で言った。



「お前……昨日の夜、俺の家の近くにいたか?」


「え?いえ、真っ直ぐ帰りましたが」




「……そうか。いや、いい」


鬼頭は気味悪そうに俺を一瞥すると、自分の席に戻った。


それから、鬼頭の様子は日に日に狂っていった。


会議中に突然、「すいません、すいません!」と小声で謝りだす。



書類を持つ手が震え、文字が書けない。



そして何より不気味だったのは、あれだけ横柄だった鬼頭が、俺と目が合うと、ひどく怯えるようになったことだ。




一方、俺自身の体調も変化していた。



夜、布団に入ると、泥のように深く眠れるようになったのだ。


夢も見ない。



ただ、朝起きると、ひどい疲労感がある。



まるで一晩中、誰かを殴り続けていたかのような、心地よい倦怠感が残っていた。



ある雨の日の深夜。



俺は残業で一人、オフィスに残っていた。



すると、部長室から「ガンッ!ガンッ!」という、硬いものを叩きつけるような音が聞こえてきた。



鬼頭はまだ残っていたのか。


俺は恐る恐る、部長室のドアに近づいた。


ドアは少しだけ開いている。



隙間から中を覗いた瞬間、俺は息を呑んだ。




鬼頭が、自分のデスクにひたいを打ち付けていた。



ガンッ。ガンッ。



額からは血が流れ、書類を赤く染めている。



そして、鬼頭は、ブツブツと何かを呟いていた。




「……申し訳ございません。私が無能なばかりに……」


「……死んで詫びます。給料泥棒でごめんなさい……」


「……おっしゃる通りです。私はクズです……」




その言葉。その口調。その怯えきった表情。



それは、普段、俺が鬼頭に言わされていた謝罪の言葉そのものだった。


鬼頭は、俺になっていた。



いや、俺の「念」に、精神を乗っ取られかけているのだ。



俺は恐怖を感じると同時に、くらい喜びが腹の底から湧き上がってくるのを感じた。




(ああ、俺が寝ている間、俺の「生霊」はここに来て、毎晩あいつを指導いじめていたのか)




その時。


額を打ち付けていた鬼頭が、ピタリと動きを止めた。



そして、ゆっくりと、ドアの隙間から覗いている俺の方へ、顔を向けた。



血まみれの鬼頭の顔。



だが、その表情は、俺が鏡で見る「冷徹な無表情」そのものだった。



鬼頭の口が、ニヤリと歪んだ。



そして、俺の声で、こう言った。




『……まだ、足りないよな?』





翌日、鬼頭は出社しなかった。


精神に異常をきたし、緊急入院したという。


病院では、ベッドの上で「佐藤様、申し訳ございません」と土下座を繰り返しているらしい。



俺は、新しい部長代理として、鬼頭のデスクに座った。


不思議なことに、この席に座ると、右肩がひどく重い。



まるで、誰かがずっと、俺の背中に乗って、耳元で呪詛を囁いているかのような重さだ。




俺は知っている。



入院している鬼頭の生霊が、今度は俺に取り憑いているのではない。



これは、俺自身の生霊だ。



鬼頭を壊し尽くして用済みになった「俺の悪意」が、



「次のターゲット(俺自身)」を求めて、戻ってきたのだ。



俺は、震える手で書類を広げた。



そこには、無意識のうちに、俺の筆跡で、びっしりとこう書かれていた。




『次は、お前の番だ』

人を呪わば穴二つですね。


パワハラは良くないですね。私も切に生霊を飛ばしたいw

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