ウォーキング
健康診断の結果が悪く、私は一念発起して夜のウォーキングを始めた。
仕事が終わった深夜11時。
人目を避けるため、あえて街灯の少ない、寺の裏手に広がる墓地沿いの道をコースに選んでいた。
そこは平坦で、信号もなく、ペースを保つのに丁度よかったからだ。
その日も、私は墓地の横を歩いていた。
お盆が過ぎたばかりの墓地には、まだ新しい卒塔婆がいくつか白く浮き上がっている。
線香の香りが、湿った夜風に混じって漂っていた。
「……2、3、4……」
不意に、墓石の並ぶ暗闇の中から、声が聞こえた気がした。
数を数えるような、低い声。(肝試しでもしてるのか?)私はイヤホンの音量を上げ、足を速めた。関わりたくない。
しかし、その夜から異変が始まった。
ウォーキング中、背中が異様に重くなるのだ。
最初は疲労だと思った。
だが、墓地の横を通過するたびに、まるで濡れた布団を背負わされたように、ズシリと体が沈み込む感覚に襲われる。
そして、耳元のイヤホン越しに、自分の足音とは微妙にズレた、
「ペタ……ペタ……」
という、裸足でアスファルトを叩くような音が聞こえるようになった。
一週間後。
私は墓地コースをやめることにした。
あまりにも体が重く、体調が優れないからだ。
「今日は、国道沿いの明るい道を歩こう」私はルートを変え、
コンビニや街灯の多い道を30分ほど歩いて帰宅した。
家に着き、シャワーを浴びてリビングで寛いでいると、手首につけていたスマートウォッチが振動した。
「本日のワークアウト結果」の通知だ。
私は何気なく画面をタップし、今日のデータを見た。
心拍数、消費カロリー、歩数。そこまではいつも通りだった。
しかし、画面をスクロールして「ルート記録(GPSログ)」の地図を見た瞬間、私は息を呑んだ。
今日のルートは、確かに「国道沿い」を示していた。
赤い線が、私の歩いた道をなぞっている。
だが、その赤い線に寄り添うように、
もう一本、「青い線」が、地図上に表示されていた。
その「青い線」のスタート地点は、「あの墓地」だった。
青い線は、墓地から一直線に伸び、私がルートを変更した地点で私の赤い線と合流している。
そして、そこからは、私の赤い線と完全に重なって、今、私がいる、この自宅のマンションまで続いていた。
(なんだこれ……バグか?誰かのログと混線したのか?)
背筋が凍るのを感じながら、私は画面の注釈を読んだ。
そのアプリには、友人やパートナーと一緒に歩いた場合、ログを共有する機能があった。そこには、こう表示されていた。
『パートナー(1名)と一緒にゴールしました』
(パートナー?俺は一人だぞ!)
その時。
リビングのソファの、私のすぐ隣。
誰もいないはずのクッションが、ゆっくりと、人の重みで沈み込んだ。
そして、耳元で、あの時の「数を数える声」が、はっきりと聞こえた。
「……2万、150歩。……ツカレタ……」
スマートウォッチの画面で、「青い線」のアイコンが、現在地(私の部屋)で、「休憩中」のステータスに変わった。
夜歩くの怖いとつくづく思ってしまいます。
街灯がもう少しあれば、、、まだ怖くないのかな?




