三番目の返事
私たちの学校には、ありふれた「七不思議」がある。
そして、その七番目は、一番有名で、一番誰も試したがらないものだった。
『旧校舎の女子トイレ。
一番奥から三番目の個室を三回ノックして、
「花子さん、いらっしゃいますか」と聞くと、必ず、返事が返ってくる』
「……で、返事が返ってきたら、どうなるんだっけ?」
放課後の教室で、友人のミカがニヤニヤしながら私に言った。
「……返事が返ってきたら、絶対に、二回目の質問をしてはいけない。
もし二回目を聞くと、中に引きずり込まれる」
「じゃあ、一回ならセーフじゃん。
アヤカ、行ってきなよ。度胸試し」
ミカたちは、面白がって私を囃立てた。
旧校舎はもうすぐ取り壊しが決まっていて、
今日はその最後の立ち入りが許される日だった。
夕焼けが窓を赤く染める中、私は一人、旧校舎の冷たい廊下を歩いていた。
ミカたちは「下で待ってる」と、とっくに逃げ帰ってしまった。
旧校舎の女子トイレは、カビと埃の匂いがした。
夕日が差し込むはずなのに、なぜか薄暗い。
一番奥の、ペンキが剥げた薄ピンク色のドア。
三番目。
(馬鹿馬鹿しい。ただの噂だ)
心臓が妙にうるさい。
私は、震える指で、そのドアを、3回ノックした。
コン、コン、コン。
乾いた音が、やけに響く。
静寂。
私は、唾を飲み込み、震える声で、ルール通りに言った。
「……花子さん、いらっしゃいますか?」
シー……ン。
聞こえるのは、自分の呼吸音だけ。
(ほら、やっぱり)
私が安堵し、踵を返して出口に向かおうとした、その瞬間。
「……なあに?」
すぐ、真後ろ。
ノックした個室の、ドアの内側から、くぐもった、幼い女の子の声がした。
「ひっ!」
全身の血が、一瞬で凍りついた。
(返事が、返ってきた)
ダメだ、
ダメだ、ダメだ!
ルールを破っちゃいけない!
「二回目を聞いてはいけない」!
私は、パニックのまま、トイレの出口のドアノブに手をかけた。
ガチャン!
開かない。
鍵なんてかかっていないはずなのに、まるで内側から、大勢の人間に抑えつけられているかのように、ドアがびくともしない!
「開けてよ!開けて!」
私がドアノブをガチャガチャと揺さぶっていると、
「……ねえ」
また、あの声がした。
さっきより、近くで。
私が必死に開けようとしている、出口のドアの、すぐ真後ろから。
「なんで、いっちゃうの?」
(違う、花子さんは三番目の個室にいるはずだ!)
私が恐怖で振り返ると、一番奥から三番目の個室のドアは、開いたままだった。
中は、夕日の赤が差し込んで、空っぽに見える。
「……どこ、に」
「……ココダヨ」
声は、真下から聞こえた。
私が立っている、足元。
床に並んでいる、排水溝の、鉄格子の隙間から。
恐る恐る、足元を見る。
排水溝の、錆びた鉄格子の向こう側。真っ暗な闇の中。
びっしりと、無数の、白目を剥いた「目」が、鉄格子の隙間から、
私を、見上げていた。
そして、その中の一つの口が、言った。
「……二回目、聞イチャッタネ……」
子供の時、学校の7不思議って何がありました?
7つは絶対になかったはず




