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短編連作 ほら~www  作者: あさき夢みがち


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14/28

午前2時22分の客

深夜のコンビニバイトは、慣れれば天国だ。

客はまばら。ただ、ぼんやりと蛍光灯の光を浴びながら、時間が過ぎるのを待つだけ。



「それ」が始まったのは、この店で働き始めて一ヶ月ほど経った頃だった。



毎晩、必ず、午前2時22分。


店の古びた壁掛け時計の秒針が、12の数字と重なった瞬間。


「ピンポーン」


と、気の抜けた入店チャイムが鳴る。


入ってくるのは、いつも同じ男だった。


よほど古いのか、型崩れしたスーツを着ていて、季節に関係なく、髪も服も、じっとりと湿っている。


男は店員(俺)には目もくれず、店の一番奥、ドリンクコーナーへと直進する。




そして、必ず一番安いブラックの缶コーヒー(冷たいもの)を一本だけ手に取り、レジに来る。


男は一言も喋らない。


ただ、青白い、水膨れしたような手で、トレーの上に「108円」を、ぴったりと置くだけ。


「……ありがとうございました」


俺がそう言っても、男は返事もせず、商品を受け取ると、ゆっくりと店を出ていく。


正直、気持ちのいい客ではなかったが、害はない。俺はただの「ルーティン」として処理していた。

あの日までは。







その夜も、午前2時22分。チャイムが鳴った。

男が入ってくる。


(ああ、またか)


俺はレジカウンターに肘をつき、ぼんやりと防犯モニターに目をやった。



(……え?)



俺は、自分の目を疑った。


モニターの中。自動ドアが、開いていない。


男は、閉まったままのガラスの扉を、すり抜けるようにして入店してきていた。



「カッ…」



男が、缶コーヒーをレジカウンターに置く音で、俺は我に返った。

目の前には、いつもの男が、うつむいて立っている。髪の毛からは、床にポタポタと、汚れた水滴が落ちている。


(見間違いだ。疲れてるんだ)


俺は震える手で、必死にレジを打った。


男が、トレーに小銭を置く。



「チャリ……」



その時、男の手が、俺の手に、ほんの少し触れた。



「ッつめた!!」



まるで、ドライアイスを素手で握ったかのような、突き刺すような冷たさだった。


俺は思わず手を引っ込めた。


男は、ゆっくりと顔を上げた。


初めて、目が合った。



その目は、濁った水たまりのように、焦点が合っていなかった。


そして、顔の右半分は、まるで何かに強く打ち付けられたかのように、赤黒く崩れていた。



男は、水を含んだような、しわがれた声で、初めて言った。



「……サムイ……」



(まずい、これ、人間じゃない)



本能が警鐘を鳴らす。


俺は恐怖で硬直しながらも、必死で営業スマイルを作った。


「あ、ありがとうございました……!」



男は、コーヒーを受け取ると、ゆっくりと出口に向かった。



そして、自動ドアの手前で、ピタリと止まった。



(頼むから、早く出て行ってくれ……)



男は、閉まったドアに向かったまま、首だけを、ギギギ…と、錆びた機械のように、俺の方に向けた。



「……オマエモ、サムイダロ……」



「ひっ…!」



「……アタタメテヤルヨ……」



男はそう言うと、向き直り、レジに向かって歩き出した!


さっきまでの緩慢な動きじゃない。明らかに、俺を「認識」して、こちらへ向かってくる!



「来るな!」


俺はレジ横の非常ブザーに手を伸ばした。


だが、男の方が早かった。


男は、レジカウンターを「掴んだ」。


青白く、腐敗しかけた男の手が、カウンターの天板に、メリメリとめり込んでいく!



「うわああああっ!」



男がカウンターを乗り越え、俺の腕を掴んだ!


焼けるような冷たさ。腕の感覚が、一瞬で麻痺する。



「……オイテイクナ……!」


男が、潰れた顔を俺の目の前に突き出してきた。


口から、腐った水と、泥のようなものが溢れ出す。



「……オレヲ、マタ、ヒトリデ、オイテイクノカ……!」



男は、俺の首に、その冷え切った手を回してきた。


(殺される!)



俺は最後の力を振り絞り、もう片方の手で、男の顔を突き飛ばした。


「グチャッ」



俺の手に、熟しすぎた果物を握り潰したような、最悪の感触が残った。


男は、一瞬怯んだように後ずさった。


その瞬間、

「ピンポーン」


朝刊の配送業者が入店してきた。



「おー、お疲れさ……どうした!?」


俺の姿を見て、業者が叫ぶ。



俺が、ハッと男がいた場所を見ると、そこには誰もいなかった。


ただ、床に、泥水と、黒ずんだ数枚の硬貨が散らばっているだけ。



俺は、その場に崩れ落ちた。



俺の腕には、男に掴まれた跡が、凍傷のように青黒く、くっきりと残っていた。




俺は、あの夜以来、深夜のバイトはしていない。


だが、今も、時折思い出してしまう。



あの男が、最後に俺を掴んだ時、


その濁った瞳の奥に、一瞬だけ、


見覚えのある「誰か」の面影が、浮かんだような気がしたことを。

同じルーティンの人っていますよね


もしかして、死んでからも同じルーティンをしているのでは・・・

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