インターホン
土曜日の午後二時。
「ピンポーン」
という気の抜けた音で、俺は昼寝から引き戻された。
どうせまた、宅配か何かの勧誘だろう。
俺はベッドから出ずに、壁のインターホンモニターの「応答」ボタンを押した。
「……はい」画面が、ポッと点灯する。
そこには、安っぽいスーツを着た、中年の男が立っていた。
顔色は悪く、焦点の合わない目で、まっすぐカメラ(レンズ)を見つめている。
「……こちら、新しい水道管の……」早口で、何を言っているかわからない。
「結構です」俺は面倒くさく、「通話終了」ボタンを押した。
画面がプツンと切れる。
だが、30秒も経たないうちに、「ピンポーン」再び鳴った。
モニターを点けると、まだ、あの男が立っている。
さっきと全く同じ姿勢、同じ表情で、カメラを見つめている。
「……ですから、開けてください。水道管の……」
「いりませんって!」
俺は少し苛立って、強く「通話終了」ボタンを押した。
(しつこい奴だ)そう思い、ベッドに戻ろうとした、その時。
「ピンポーン」
まただ。俺は三度、モニターを点けた。
男は、まだいる。
微動だにしていない。
「いい加減にし……」俺が言いかけた時、男は、俺の言葉を遮るように、ゆっくりと口を開いた。
「……カワラナイノハ、ダメデスヨ……」
何を言っているんだ?
男は、虚ろな目のまま、続けた。
「……アナタ、サッキカラ、オナジコトシカ、イッテナイ……」
ゾッとした。
全身の毛が逆立つ。
俺は慌てて「通話終了」ボタンを連打した。
(なんだ、あいつは……)俺は、インターホンの「録画履歴」ボタンを押した。
今のやり取りを確認しようと思ったんだ。
履歴は3件。
すべて、今日の、今の男だ。俺は、まず「1件目」の録画を再生した。
「……はい」(俺の声だ)「……こちら、新しい水道管の……」(男の声)「いりませんって!」(俺の声)
おかしい。俺は、「結構です」としか言っていない。「いりませんって!」なんて、言ってない。
これは、俺がさっき、「2回目」に応答した時の会話だ。
俺は恐怖で震えながら、「2件目」の履歴を再生した。
「いい加減にし……」(俺の声)「……カワラナイノハ、ダメデスヨ……」(男の声)
これは、「3回目」の会話だ。
録画が、「俺が体験した順番」と、「ズレている」?
(じゃあ、俺が「1回目」だと思っていた会話は、どこに録画されてるんだ?)
俺は、履歴の「次へ」のボタンを押した。
まだ、履歴があった。
「3件目」の録画。撮影日時は、「今」だ。
俺は、再生ボタンを押してしまった。
画面が点灯する。そこには、誰もいない廊下が映っていた。(……帰ったのか?)
「……オソイデスヨ……」
インターホンのスピーカーから、あの男の声がした。(録画なのに、声が!?)
次の瞬間、画面の真横、カメラの死角から、ぬっと、あの男の、青白い顔だけが、レンズの目の前に現れた。
男は、画面いっぱいの顔で、ニタァ…と笑い、こう言った。
「……モウ、ナカニハイッテマスヨ……」
俺は、自分の背後、さっきまで昼寝をしていた、ベッドの方を、ゆっくりと、振り返ることしかできなかった。
リモートワークしているときの営業トークから着想
すんなり帰って欲しい




