室温
その寒気は、昨日の夜から始まった。
俺の部屋は鉄筋コンクリートのマンションの7階。気密性は高いはずだ。
11月に入り、肌寒くなってきたとはいえ、暖房の設定は24度。
デジタル表示も確かに「24℃」を示している。
なのに、寒い。
最初は「風邪でもひいたかな」と思った。
だが、体温計を何度突き刺しても、表示されるのは「36.5℃」。平熱だ。おかしい。
俺はセーターを一枚羽織り、さらに厚手の靴下を履いた。
今夜、寒さはさらに酷くなっている。
エアコンの設定を「28℃」まで上げた。
ゴーッと温風が吹き出す音が、やけに虚しく響く。
だが、肌を撫でる空気は、まるで冷蔵庫の中にいるかのように冷え切っている。
(寒いのは、気温のせいなのか?それとも、悪寒のせいなのか?)
俺は窓に近づき、カーテンを開けた。
窓ガラスは結露一つしていない。
外の気温計は10度。
室内がこんなに凍えるはずがない。
窓枠に手を当てても、隙間風は感じられなかった。
その時、俺は気づいた。
この寒さは、一定ではない。
まるで「波」のように、「ゾクッ」という強烈な冷気が、周期的に俺を襲うのだ。
(悪寒だ。間違いなく、風邪のひき始めだ)俺はそう結論付けようとした。
だが、次の「波」が来た瞬間、俺は別の音を聞いた。
「……カチ…カチカチ…」
それは、エアコンの作動音ではない。
部屋の隅、明かりが届かない、クローゼットの扉のあたりから聞こえる。
まるで、寒さで歯が合わずに、カチカチと震えているような、乾いた音。
(ネズミか?いや、マンションの7階だぞ)
俺は息を殺した。
暖房の音が止まる。静寂。
そして、また「波」が来た。
ゾクッ!部屋の空気が、さらに2、3度下がったように感じる。
「カチカチカチカチカチカチ…」
音が、さっきより大きく、そして速くなっている!
それは、クローゼットの中からではない。
クローゼットのすぐ手前、俺のベッドの足元あたりから聞こえている!
(何かが、いる)
俺はベッドの上で動けなくなった。見えない。
そこは部屋の暗がりだ。だが、確かに「何か」がそこにいて、尋常じゃない寒さに震えている。
(違う!)
思考が、恐怖で反転する。
そいつが「寒い」んじゃない。
そいつが、この部屋の「熱」を、根こそぎ奪っているんだ!
俺は震える手で、エアコンのリモコンを掴んだ。
「暖房」ボタンを、何度も、何度も押す。設定温度が「30℃」を超え、エラー表示になった。
だが、寒い。
寒い。
寒い。寒い。
寒い。寒い。寒い。
気温のせいじゃない。
これは、悪寒だ。
俺の体調不良からくる悪寒じゃない。
あの「見えない何か」が、俺という「熱源」を見つけ、その存在だけで俺に悪寒を植え付けているんだ!
俺は、自分の吐く息が、白く濁っているのを見た。
室温28度の、密閉された部屋の中で。
そして、「カチカチカチカチカチカチカチカチ」という歯の震える音が、
今、俺が座っているベッドの、真下から、聞こえている。
最近、夜に近所をウォーキング(徘徊)をしていますが、
街灯が無い、真っ暗なところを歩いてると
たまーに寒くなるんですよね。
そして、自分の後ろが気になってしょうがない。
そんな時は、徘徊コースを変えると暖かくなる。なんなんでしょうね。あれ。




