査定人の悪夢
なんとなく、ホラー?
土壁は湿気を吸って重く垂れ下がり、畳は黒ずんで冷たい。
案内役の親族は玄関で早々に帰ってしまい、この家には今、私一人しかいない。
不動産の査定に来ただけだというのに、背筋に走る悪寒が止まらない。
家の奥に進むほど、空気が凍り付いたように重くなる。
どの部屋も家具は運び出されているのに、そこに「何か」が居た形跡だけが、濃密に残されていた。
埃の積もった床に、ごくわずかに残る、人間のものとは思えない、引きずられたような跡。
窓は固く閉ざされているのに、時折、古い木材が鳴る音とは違う、「パキッ」という乾いた音が、妙に近くで響く。
二階の階段を上り切った時、異様な感覚に襲われた。
強い視線を感じたのだ。
そこは、物置として使われていたのか、天井が低い薄暗い部屋だった。窓には分厚いカーテンが引かれ、昼間だというのに闇に包まれている。
私は慣れた手つきで懐中電灯を点け、部屋の隅々を照らしていった。
そして、その部屋の隅、壁と壁が交わる最も暗い場所に、私は光を向けた。
床には何もなかった。
しかし、その時、壁を背にしたその空間に、誰もいないはずなのに、人が「しゃがんでいる」かのような、空気の凹みが見えた。
息を詰めて見つめる。
それは影でも、物の配置でもない。
照明を当てているにもかかわらず、その部分の光が、まるで黒い布に吸い込まれるように消えている。
「気のせいだ。光の加減だ」
そう自分に言い聞かせた瞬間、私の耳元で、
「ハァ…」
という、粘りつくような、冷たい溜息が聞こえた。
反射的に飛び退いた私の目の前、一瞬、黒い光の塊が、ゆらりと立ち上がったように見えた。
長い黒髪が、部屋の暗闇に溶け込み、
そこにある顔は、視線を向けた私の存在を、
ゆっくりと、正確に捉えた――
私は逃げ出した。
転げるように階段を駆け下り、玄関の扉を乱暴に開けて、外の光の中に飛び出した。
外に出ても、耳元で聞こえたあの冷たい溜息と、暗闇の中で私を見つめていた「それ」の視線が、焼き付いて離れない。
私は、あの家の査定を、即座に「不可能」として打ち切った。
理由は書かなかった。
書けるはずがなかった。
あの家は、もはや住居ではない。
誰か(何か)の、深い溜息の巣窟なのだから。
ね?怖くないでしょ
ところで、隙間から視線感じない?




