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夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
第9章 バイバイ。俺の初恋編

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第86話 青春トライアングル ver.2


「で、なんの用なんだ、深山(みやま)くんは?」


「なんだい、相変わらずよそよそしいなあ。湊介でいいよ、大河くん」


「……なんの用だよ、深山」


 俺がそう返すと、深山は一瞬だけ肩透かしを食らったような顔をして、それから肩をすくめた。

 次の瞬間、その目に、わずかに好戦的な光が宿る。


「今回の期末テスト。やはり君も気合が入っているようだけど――僕も負けないよ!」


 胸を張って言う。


「お互いに頑張ろう。そう言いに来たんだ」


「おぉ。……暑苦しいな。それだけのために?」


「そう」


 深山は即答した。


「僕は今年の君の動向を見てきた。一年の頃の学力はもちろん、それ以外の行動も含めてね。正直に言おう――今年の君はまるで別人だ」


 そこで、ほんのわずかに言葉を溜める。


「そして……まさか、生徒会の副会長にまでなるとは思わなかった」


「深山……?」


 彼は構わず続ける。


「僕はね、大河くん。この学校で“トップ”を取れるよう一年の時から、ずっと努力してきた」


 生徒が何人か、俺たちの横を通り過ぎていく。

 昼休みの廊下はいつも通り騒がしく、空はやけに澄んで青かった。


「唯一、この学校で勝てなかったと思ったのが、霞汐乃さんだ。彼女は圧倒的だ。能力も、視野も、格が違う」


 深山は、少しだけ視線を伏せてから言った。


「だから仕方ないと思った。彼女が一位で、僕が二位でも」


 そして、再び顔を上げる。


「そんな彼女のもとでなら、生徒会に入って、彼女のために働くのも悪くないと思っていたんだ」


 その瞳が、まっすぐに俺を射抜く。


「だけど君は――横から現れて、一瞬で僕のこの学校での“最後の目標”をかすめ取っていった」


「……」


 俺は、ようやく腑に落ちた。


(ああ、そうか)


 深山は――


「バレンタインの日にもらえるはずだったチョコレートも、今年は半分に減ったよ……。その上、妹の陽菜ちゃんまでも君に好意を持っているときた……」


 彼は自嘲気味に笑う。


「これらが僕を、どんな気持ちにさせたかわかるかい?」


 そう、 


 ――嫉妬だ。


 圧倒的な存在には向けられない。

 自分より少し上、あるいは並ぶかもしれない存在にだけ向けられる、ひどく人間らしい負の感情。


「深山、声が大きいぞ」


 俺は一歩だけ距離を詰め、低く言った。

「ちょっと落ち着こうぜ……」


 何人かの生徒が、ちらりとこちらを振り返っていく。


 深山はそれに気づいているのかいないのか、気にも留めずに言う。


「だから――」


 俺がそう言いかけた、その時だった。


「深山くん、落ち着こ?」


 不意に、俺たちの間に入り込んできた影。


 華奢な身体。

 柔らかい声。


 ――桜井澪だった。


 さすがの深山も、わずかに言葉を失ったように目を瞬かせる。


「あ……桜井さん……」


 その隙を、俺は逃さなかった。


「ほら、みんなもざわついてる」


 低く、しかしはっきり言う。


「深山、もう教室に戻ってくれ。俺もテストで手を抜くつもりはないしさ」


 深山は、しばらく黙り込んだ。


 やがて、彼はゆっくりと顔を上げた。


 ――だが、その視線は、俺を捉えていなかった。


 まっすぐに見ていたのは、桜井さんだった。


「桜井澪さん」


 その声は、さっきまでの挑戦的な調子とは違っていた。


「僕は……僕が、ここまで頑張ってきた理由は……」


(……おい、まさか)


 嫌な予感が、背中を走る。


 やめろ。

 今はやめろ。


 だが、その願いは、あっさりと裏切られた。


「――桜井澪さん」


 深山は、はっきりと彼女の名前を呼んだ。


「僕は、一年生で同じクラスだった頃から……ずっと、君に振り向いてほしかったからでもあるんだよ?」


「……え」


 桜井さんの息を呑む音。


 彼女は完全に不意を突かれたように、言葉を失っていた。

 それはもちろん、俺も。


 ――そして、周囲にいた生徒たちも。


 まるで、世界の音が一斉に消えたみたいに。


 廊下に、沈黙が落ちる。


 誰も動かない。

 誰も、口を開けない。


(……おいおい)


 これは、

 期末テスト直前の休み時間にやることじゃないだろ。


 俺の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。


 そして深山は、ゆっくりと俺のほうへ視線を移し――迷いなく、指を突きつけた。


「いいかい、大河くん! いや――吉野大河!」


 廊下に、はっきりと響く声。


「ここまで僕は追い詰められた。けれど、ここからはそうはいかない!」


 一拍置き、深山は言い切る。


「澪さんの心も――期末テストの順位も! 僕は、絶対に譲らない!

 今この瞬間から君は、僕の好敵手(ライバル)だ!」


 ――ただの自慢でも、

 単なる挑発でもない。


 これは、彼なりの矜持を賭けた、**本気の“宣戦布告”**だった。


 その瞬間。


 キーンコーンカーンコーン――♪


 休み時間の終わりを告げるチャイムが、校舎中に鳴り響く。


「おい!! お前ら、なにやってるんだ!!」


 怒りを含んだ先生の声が、廊下を震わせた。


「お前ら、授業が始まったのにこんなところで何やってるんだ! さっさと教室に戻れ!!」


 その一声で、周囲に集まっていた生徒たちは、我に返ったように一斉に散っていく。


 ざわめきは、足音に変わり、やがて各々の教室の中へ吸い込まれていった。


 ――だが。


 そんな中でも、

 俺と深山、そして桜井さんだけは、すぐに動けずにいた。


 深山は、最後に一度だけこちらを見てから、何も言わず踵を返し、自分の教室へと歩いていく。


 残された空気が、やけに重い。


(……これは)


 俺は、小さく息を吐いた。


(……大変なことになったぞ)


 渚先輩の送別会。

 期末テスト。


 そして――深山湊介。


 去年までは静かだったはずの三学期末は、どうやら、思った以上に騒がしくなりそうだ。

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