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夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
第8章 恋のキューピッド編

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第81話 好敵手(?)


 生徒会室を出ると、廊下には昼休みのざわめきが聞こえてくる。

 遠くから聞こえるクラスの笑い声、窓の外から差し込む少し白っぽい光。


 俺と桜井さんは、生徒会室から出て自然と並んで歩き出していた。


 さっきまであれだけ真剣な話をしていたせいか、

 歩きながらも、どこか肩の力が抜けている。


「……思ったより、あっさり動き出したね」


 桜井さんが、少し驚いたように言った。


「ああ。正直、もっと反対が出るかと思ってた」


「反対?」


 俺はうなずく。


「今回の改善提案は、できるだけ生徒側と教師側、両方の中立を保つ内容にしたつもりだ。だから、生徒の立場だけで見れば、不利に感じる場面も出てくる」


 桜井さんは俺の話を聞いている。


「今まで予算が出ていた部活動に所属してる生徒からすれば、活動の見直しってだけで、あまりいい顔はされないだろうな」


「……そうだね」


「もちろん、片っ端から小規模な部活動を潰すつもりはない。今回俺と桜井さんで考えたこの案は、あくまで“授業以外の時間の使い方”に、変な制約や強制を設けたくないっていうのが目的だからな」


「うん。そこは大事だよね」


 桜井さんは小さくうなずいた。


「みんなにちゃんと伝わるように、頑張ろうね」


「ああ」


 俺と桜井さんが、目線だけで軽く合図を交わした、その時だった。


「やあ。桜井さん、それに――生徒会副会長の吉野大河くん」


 背後から声がかかる。


「え?」


 俺たちは同時に振り返った。


 廊下の中央に立っていたのは、一人の男子生徒。

 整った顔立ちに、どこか自信を感じさせる立ち姿。


 同じ学年だということはわかる。

 ただ、名前がすぐには出てこなかった。


「えーっと……」


 すると、桜井さんが先に口を開いた。


「あ、深山くん。久しぶりだね」


(深山……? その名前、どこかで……)


「久しぶりだね、桜井さん。教室が離れてたから、あまり会う機会もなかったけど……」


 彼は少しだけ目を細めて続ける。


「生徒会のお披露目の時にも思ったけどさ。一年生の頃と比べると、ずいぶん印象が変わったよ。……ずっと可愛くなったね」


「そ、そうかな……?」


 桜井さんは戸惑ったように視線を泳がせた。


(可愛く、ね……。

 随分とはっきり、歯の浮くことを言うもんだな……)


「えっと……桜井さんの知り合いか?」


 俺がそう尋ねると、彼女はうなずいた。


「うん。この人は深山湊介(みやまそうすけ)くん。一年生の時、同じクラスだったの」


「ああ、なるほど。そういうことか」


 つまり、二人は一年生の時のクラスメイトだった、ってわけだ。


 俺が納得していると、今度は深山がこちらを見て言った。


「吉野くん。君は、僕の名前を聞いても何とも思わないのかい?」


「え? どういうことだ?」


 一瞬、意味がわからず首をかしげる。


 すると彼は、少し勿体ぶったように言った。


「二学期の学期末テスト、君は四九二点で学年三位だったね」


「えっと……そうだったっけ? よくそんな細かいこと覚えてるな」


 一瞬、彼の表情に曇りが差す。

 そして、軽くため息をついて続けた。


「ちなみに、僕は四九五点だったんだよ」


「……え?」


 ――そういえば、一位が汐乃だったのは覚えてるけど。

 ってことは……。


(つまりこいつ、自分が学年二位だって言いたいわけか)


 いや――。


 深山(みやま)


 俺がその名前に見覚えがあったのは、

 学期末テストの順位表を見たからじゃない。


 それは――。


「つまり僕は――」


「なぁ、深山」


 俺は彼の言葉を遮る形で口を開いた。


「お前さ……もしかして、この学校に一年生の妹とかいないか?」


「え? あぁ……まぁ、いるけど。どうして?」


 深山が怪訝そうに言った。


「いや、その……」


 言葉に詰まった俺を見て、桜井さんが小首を傾げる。


「どうしたの、大河くん?」


「あ、いや。やっぱなんでもない。妹さんがいるなら、それでいいんだ」


「歯切れが悪いね。いいから、ちゃんと言いなよ」


 深山が一歩詰めてくる。


 ――仕方ないか。


「……この間のバレンタインデーの日にな。

 その、多分だけど、深山の妹さんからもチョコレートをもらったんだよ」


 一瞬、空気が止まった。


「……は?」


 深山の目から、今までの余裕が一気に消え失せる。


「な、なんだって!?

 お前が……陽菜(ひな)ちゃんから!?

 そんな馬鹿な! 聞いていない!」


「ああ、そうそう。深山陽菜(みやまひな)、って名前だったな。手紙にそう書いてあったよ」

 俺は肩をすくめて言った。

「いやー、こんな偶然ってあるもんなんだな」


 そう言って、俺は何気なく桜井さんの方を見る。


「……」


 ――あれ?


 桜井さんは、表情を消したまま黙っていた。

 さっきまでの柔らかい空気が、嘘みたいに引いているような気がする。


 その違和感を考える間もなく、深山が突然、俺の両肩を掴んできた。


「あいたた! ちょ、なにすんだよ!」


「なんで……!

 なんで陽菜ちゃんが、お前なんかにチョコレートを渡すんだ!」


 前後にぐわんぐわんと揺さぶられる。


「ちょっ、やめろ深山! 桜井さん、助けてくれ!」


 だが――


 桜井さんは、つんとした態度でこちらに背を向け、そのまま歩き出した。


「大河くんも、生徒会副会長なんだから、みんなと仲良くしないとねー」


 そう言って、最後にちらりと振り返る。


 その顔は、確かに笑顔――

 だった、はずなんだけど。


(……俺、なんか変なこと言ったか?)


 その後はしばらく深山に揺さぶられた後、彼から逃げ出すのに必死でそれどころではなかった。


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