表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
6章 オリエンテーションかくれんぼ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/83

第58話 かくれんぼ


 私は生徒会長として、窓際に置かれた中央の木製の机に静かに着席した。


 正面に視線を向けると、副会長・吉野大河、庶務・桜井澪、会計・稲葉澄仁、書記・桐崎杏奈――四人がそれぞれ椅子を引き、所定の位置に座っていくのが見えた。


「えー、ではこれより――」


 言いかけて、私は一度言葉を切った。


 ……メンバー同士の波長が、合っていない。


 共感力が欠けていると言われるような、私にもそれくらいはわかる。


 無理もない。


 稲葉会計や桐崎書記は昨年よりすでに活動を始めていて、仕事の要領を多少は心得ているが、吉野副会長と桜井庶務は着任したばかり。


 メンバー同士、信頼関係の薄いまま通常のミーティングに移っても、チームとして効率が悪い。


 さて、どうするべきか。


 ふと、私は視線を吉野大河に向けた。


「?」


 彼は困惑気味に首をかしげた。

 ……なるほど。なかなかにわかりやすく素直な顔をする。


 ここで一度、吉野大河という“変数”を試してみるのも悪くないか――


 私は手元の書類を裏返し、机の端へと寄せた。


「いや。ミーティングは一旦中断する。

 これより“オリエンテーション”を始める」


 四人の反応はまちまちだった。


 最初に声を上げたのは、予想通り吉野大河。


「オリエンテーションだって?」


 続いて桜井が、驚きを隠せない声で言った。


「ど、どういうことですか?」


 私は二人の疑問には答えず、そのまま宣言した。


「――“かくれんぼ”だ」


『かくれんぼ!?』


 今度は四人がそろって声を上げた。

 なかなか良い反応だ。


「そうだ。今から私はこの校舎のどこかに隠れる。

 お前たち四人でこの私を見つけてみせろ」


 その瞬間、桐崎杏奈が勢いよく立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待ってください会長! 仕事の期限が迫っています! 私たちにそんなお遊びをしている余裕は――」

「制限時間は部活動が終了し、完全下校になるまで。

 今がちょうど十七時だから……残り時間は私が隠れる時間も考慮すると、およそ一時間だな」


 私は桐崎の言葉を軽く受け流しながら、淡々と即興で考えたルール説明を続けた。


 横を見ると、稲葉澄仁が眼鏡を外し、クロスで丁寧に拭きながら私の言葉を聞いている。

 怒っているのか呆れているのか……判断が難しいが、ここはあえて気にしない。


「制限時間以外に……他にルールはあるのか?」


 吉野が手を挙げずに、そのまま口を開いた。


 私は立ち上がって、空気の喚起のために背後の窓の鍵を開けて、窓を解放。


 そして彼の質問に答える。


「ある。まず――行動は必ず“四人同時”に行うこと。一人で勝手に動くのは禁止だ。まぁ、トイレ程度は例外とするがな」


 室内の空気がぴんと張った。

 その中で、桜井澪が控えめに手を挙げて尋ねた。


「霞さんが隠れる場所の範囲は……“どこまで”なんですか?」


 良い質問だ。


「この校舎内に限定する。校舎の外には出ない。つまり体育館、中庭、校庭、屋上には隠れないということだ。さらに、天井裏や床下など、普段生徒が立ち入れないような場所に隠れることもしない。そして私が隠れる場所は一か所のみ。スタートした後は、私は移動したりお前達から逃げたりなどは一切しない。これは約束しよう」


 桐崎杏奈が半分ため息、半分呆れたような声を漏らした。


「会長……本気なんですか。そんなに本格的に……?」


「当然だ。これは遊びではなく、信頼生徒会のための“オリエンテーション”だからな」

 私が言うと、三人が驚いた顔をし、稲葉が静かに拭き終わった眼鏡の位置を指で直した。


「これも質問ですが、会長を探す過程での生徒達への聞き込みや、スマホ機器の利用は可能でしょうか?」


「ああ。全て許可する。好きに使うといい」


 淡々と現実的にルール説明が進んだことで、皆が少しずつその気になってきているのを感じた。


「よし、ではあとは――」


 私は姿勢を正し、最後の条件を告げる前に一度だけ四人の顔をゆっくりと見渡した。


「そしてこれが最後のルールだ」


 空気がさらに張り詰める。

 全員が、私の口から出る言葉を待っていた。


「四人の行動の指揮は、すべて――吉野大河こと副会長が行うものとする。

 また、行動を決定する際は、必ず全員が納得し、承認を得た上で動くこと」


 その瞬間だった。


 桐崎杏奈の瞳が、ほんのわずかに揺れた。

 反発――ただの反発ではない。

 “受け入れたくない相手を上に置かれたときの反応”だ。


 私はその小さな変化を見逃さない。


「俺が!?」


 吉野大河が、驚いた顔でこちらを見る。


「当然だ。君は副会長なのだからな」


「……わかったよ」


 短い返事。その声には戸惑い。しかしながら少しの覚悟が宿り始めていた。


 桜井澪が勢いよく顔を上げる。


「よろしくね、大河くん!」


「……ああ、わかったよ、桜井さん」


 吉野は照れたように、でもしっかりとうなずいた。


 桐崎杏奈は横目で彼を見たまま、口を引き結び、小さく息を吐いた。

 稲葉澄仁はタブレットのタッチペンを胸ポケットにしまいながら、「ふむ」とだけつぶやいて時計を見る。


 ――さぁ、生徒会の四人。

 この私の予想と期待を上回ってみせろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ