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夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
最終章 サクラ色の春休み編

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第119話 いつもの夜。変わっていく今


「吉野くん、ごみ捨て頼める?」


「あ、わかりました。柿田さん、レジ抜けますね」


「わかったよ」


 俺はゴミ箱のフタを開ける。

 手袋をつけ、いつものようにゴミを回収し、新しいゴミ袋をセットしていく。


 いつもの夜。

 いつもの作業。


 丁寧に、淡々と。


 ゴミをまとめ終えた俺は、柿田さんに声をかけた。


「倉庫に捨ててきますね」


「はいよ」


 ガサ、と袋が擦れる音。


 ゴミ置き場の倉庫に鍵をかけ、俺はコンビニの正面へと向かった。


 ――いつも通り。


 ひとつだけ、いつも通りじゃないのは、俺の心境だった。


 春休みの今。

 学校では、あの子に会えない。


 その気になれば、連絡を取ることもできる。

 だけど――


(こういうとき、彼女ならきっと、ここに来る)


 俺はコンビニ前の青いベンチの前で、足を止めた。


「……なんか、いろいろあったよなあ」


 思わず、つぶやく。


 すると、背後で自動ドアが開く音がした。


「なに言ってるんだい」


 店長だった。


「まだ君には、一年残ってるんだから。

 これからだよ。まだまだドラマが待ってる」


「……そうでしょうか」


 店長はそう言いながら、自動ドアに貼られていたアルバイト募集の紙を外す。


「そういうドラマを、横から見るのも僕の楽しみでね」


「店長らしいですね」


 俺も手伝って、紙を剥がす。


「もう募集は終わりですか?」


「まあね。

 いい人がいれば別だけど、無理に採る必要はないかな」


「そうですか。

 あの子たちも、来週から出勤でしたよね」


「うん。四月からは新入生のお客さんも増える。ちょっと大変になるけど……頑張らないとね」


「ですね」



 * * *



 少し時間が経ち、何人かのお客さんが店を出入りしたころ。


 彼女はやってきた。


 グレーのスウェットのセットアップ。

 肩の力が抜けた、ラフな格好。


 昼間に見せる、少し背伸びしたおしゃれな彼女とは、雰囲気が違う。


 でも――


 俺は、こっちの彼女のほうに、より強い親近感を覚えた。


 たぶんそれは、

 彼女が「誰かのため」じゃなく、「彼女自身の時間」として、ここに来ているからだろう。


 ~♪


「いらっしゃいませー」


 彼女は店内に入ると、まっすぐホットドリンクのコーナーへ向かった。


 黒いコーヒーの缶を一本、手に取る。


 そのまま文房具コーナーへ移動し、消しゴムをひとつ、かごに入れた。


 そのあとは俺の視界から一度外れる。


 やがて、レジのほうへと戻ってくる。


「お願いします」


「いらっしゃいませ」


 ピ、ピ。


 機械的な電子音が、夜の店内に小さく響く。


 彼女はレジ袋を必要としない。

 その仕草も、もう見慣れていた。


 俺たちは、言葉を交わすことなく、

 流れるように会計を終える。


「ありがとうございます。ごゆっくり」


「うん」


 短いやりとり。


 桜井さんは、そのまま自動ドアをくぐると、店の外にある青いベンチへ腰を下ろした。


 それを見届けてから、店長が俺に声をかけてくる。


「すっかり、彼女もあの場所に馴染んだねー」


「え、まあ……はい。そうですね」


 店長は、光る眼鏡の奥から、意味ありげに俺を見て言った。


「頑張るんだよ、吉野くん」


「……はい」


 胸の奥に、小さく何かが落ちた気がした。



 * * *



 大河が上がったあとの、レジカウンター。


「いやー、柿田くん」


「はい、店長?」


「もう、冬の大三角形も見られなくなるね」


「もう春ですからね。春は春で……ありましたよね。春の大三角」


「そうだね。でもさ」


 店長は、ほんの少し間を置いてから、続けた。


「できれば、もうあの二人には――一直線でいてほしいね」


「えっと、店長。それ、どういう話ですか?」


「さぁ……なんだろうね」


 店長はそう言って、いつものように曖昧に笑った。

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