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夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
第11章 衝撃のホワイトデー編

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第105話 うーん、ラブコメしてる。


 キーンコーンカーンコーン♪


 昼休みのおわりを告げる予鈴のチャイムが、校舎の各所のスピーカーから聞こえた。


 俺と桜井さんは、生徒会室から教室へ戻る途中の廊下を並んで歩いている。


「来週はもう、いよいよ卒業式だな」


「うん。私たちが司会進行だし、がんばらなきゃね!」


「だな。……意外に準備やら打ち合わせやらで、大変だったもんな」


「ふふ、そうだね」


 そんな他愛もない話をしながら、廊下を進む。


 窓の外からは、やっと春らしいやわらかい風が入ってきている。

 長い長い冬も、これでまた、去っていく。


「でも桜井さんがいてくれてほんと助かるよ」


「え? 私?」


「ああ。メンタル的に」


「なにそれ」


 彼女がクスリと笑う。


 そう言って、桜井さんは少しだけ照れたように左の指先を使って、前髪を整える。


 この仕草も、もうだいぶ見慣れた。


「派手な仕事もないわけじゃないけど、基本的にはコツコツとした仕事が多いしな。稲葉なんかはそれが楽しそうだけど」


「最初はもっと、かっこいいことするのかと思ってた?」


「まぁ、過去の生徒会長を見てたしな」


「前の生徒会長さんって“河津”さんだったよね?」


「そうそう。いやー、汐乃も負けず劣らずだけど、あの人も大概だったからなあ」


「それって大河くんが一年生のときだよね?」


「そうだけど?」


「そのときの大河くん、って確かそのー……」


「半グレだったって?」


 俺は笑う。


「ううん! なんていうか、その!」


「いいって。実際そのとおりだったしな」


「そのときの大河くんってあんまり、交友関係がなかったって言ってたから、気になって」


「ああ、それは――」


『で。お前さんは、このまま枯れて腐っていく気かい?』


 一瞬思い出してしまった。


 河津さんに言われたあの言葉。


「あー。俺も作る気なんてなかったんだけどな――」


 そのときだった。


「吉野先輩!」


 階段を駆け上がってきた一人の女子生徒が、俺に向かって声をかけた。


(あ、この子は……)


 地毛だと思うが、やや茶色がかった髪色。

 少し垂れたその瞳も相まって、誰か身近な人間を思い起こさせる。


 そしてなにより――

 俺は、この子のことを“少しだけ”知っている。


 俺が一瞬きょとんとしていると、桜井さんが静かに口を開く。


「大河くん。この子と、知り合い?」


「ああ……知り合い、ってほどでもないんだけどな。前にちょっと……」


 俺が言い淀んでいると、その女の子は少し緊張した様子を見せながらも、元気よく言った。


「あの、吉野先輩! 前は私の気持ち、受け取っていただいて、ありがとうございました!」


 そう言って、彼女は一歩、俺との距離を詰める。


「あ、いや。別に俺は――」


「それと! 学期末テストで、あの汐乃様を追い抜いてトップに躍り出るなんて、さすがです!」


「あ、ありがとうな」


 勢いに押されて、思わず曖昧な返事をしてしまう。


 そのときだった。


(……あれ?)


 隣から、ひやりとした空気を感じた。


(桜井さん?)


「桜井さん、あの、この子は――」


 俺の言葉が終わるよりも早く、彼女は一歩前に出て、はきはきと頭を下げた。


「あ! 申し遅れました!

 桜井澪先輩、ですよね?

 私、一年生の深山陽菜といいます!

 よろしくお願いします、桜井先輩!」


 その瞬間、桜井さんの表情が、はっきりと変わった。


「え……深山って……」


 そう。


 この子は、深山陽菜。


 俺が答えるより先に、彼女はにこっと笑って言った。


「はい! 私、ひとつ年上の兄がいるんです」


「じゃあ、深山くんの……」


「はい。深山湊介は、私の兄です」


 最近、俺に何かと突っかかってきていた、あの深山。

 その妹。


 そして――


「そういえば、なんとなく深山くんに似てる! よろしくね、深山さん!」


「よければ、陽菜って呼んでください!」


「うん、陽菜ちゃん!」


 桜井さんがそう言うと、陽菜は嬉しそうにうなずいた。


 深山陽菜はくるっと俺のほうを向く。


「あ、吉野先輩も、陽菜でいいですからね」


 意味ありげに、ちらっと目配せをしながら。


「あ、ああ……わかったよ、陽菜」


(……あれ?)


 どういうわけか、また、隣からひやりと寒気を感じた。


「あ、いけない! もう授業始まっちゃう!」


 陽菜はぱっと表情を切り替えると、軽く手を振った。


「じゃあ、私はこれで!」


「あ、うん。またな」


 そう言って、彼女は階段を駆け下りていく。


 ――と、思った次の瞬間。


 途中で立ち止まり、振り返って俺に向かって声を投げた。


「あ! 吉野先輩!」


「ん?」


「返事、楽しみに待ってますからね!」


「え……」


 そのまま、彼女の姿は階段の向こうに消えた。


 そう。


 深山陽菜――

 彼女は、あのバレンタインデーの日。


 俺にチョコレートと手紙を渡してきた生徒のうちのひとりだ。


 ホワイトデーは、来週。


 返事、というのは……まあ、そういうことだろう。


「あ、おい!」


 俺の呼び止める声も空しく、もう誰もいない。


 俺は額を押さえて小さく息を吐いた。


「あーいうところ……深山にそっくりだな……。なあ、桜井さ――」


 ――キーンコーンカーンコーン♪


「え!?」


 廊下を見渡す。


 ……いない。


 桜井さんの姿は、どこにもなかった。


(ま、まさか……)


「おい! 吉野ぉ!!」


 教室内から響く、腹にくる声。


「なーにやっとるかぁ! もう授業は始まっとるぞぉ!!」


「あっ! す、すみません!!」


 俺は慌てて教室へ駆け出した。


 そりゃないぜ、桜井さん!


 ――まだまだ、

 

 俺の波乱万丈な高校生活は続くようだ。

 

 

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