第103.5話 やっぱりここ
「ありがとうございました。またお越しください」
夜。
期末テストが終わり、俺は久しぶりに青いエプロンを身につけて、レジに立っていた。
~♪
自動ドアが開閉するたびに流れるこの軽快なBGM。
毎日のように聞いていたはずなのに、少し間が空いただけで、なんだか懐かしく感じるものなのだ。
(……やっぱり、ここは落ち着くな)
「やーっぱり吉野くんが居てくれると助かっちゃうわ!」
そう声をかけてきたのは、パート兼主婦の柳さんだった。
「そう言ってくださると、俺も嬉しいですよ」
「テストはどうだったの? いつも大変そうだったけど」
「まあ……ぼちぼちって感じですかね」
曖昧に笑って返した、そのタイミングだった。
「謙遜だよ!」
ひょい、とバックヤードから顔を出したのは店長だ。
「柳さん、吉野くんは今回、学年一位だってさ!!」
「えっ!?」
柳さんが目を丸くする。
「そ、そうなの!? おめでとう吉野くん!」
「学年トップの学生が、うちの店から出るなんてねぇ!」
「い、いや……ここ、塾じゃないですから……」
思わず苦笑いしながら返すと、柳さんは楽しそうに手を叩いた。
「それでもすごいことよ。あれだけ頑張ってたんだもの」
「ですね。努力はちゃんと結果に出るってことだよね」
店長がそう言って、にこりと笑う。
照れくさい。
でも――悪い気はしなかった。
(……認められるのって、こんな感じなんだな)
レジの前に、また次のお客さんが並ぶ。
「いらっしゃいませー」
* * *
時刻は二十一時を少し過ぎた頃。
(おっと……もうこんな時間か)
久しぶりの立ち仕事。
背中と腰に、じわりとした疲労が溜まり始めていた、その時――
~♪
「いらっしゃいませー」
自動ドアの音に反応して、視線を向ける。
そこにいたのは――
“もう一つの久しぶり”だった。
グレーのスウェットに、白いスニーカー。
耳にイヤホン、ラフにほどかれた髪。
昼間とは少しだけ違う、けれどもう見慣れた姿。
「大河くん」
少しだけ控えめに、俺の名前を呼ぶ声。
「桜井さん」
この時間、この場所で。
こうして彼女と顔を合わせるのは、なんだか不思議な感じがした。
(ああ……戻ってきたな)
このコンビニの夜。
そして――彼女のいる風景。




