表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
第11章 衝撃のホワイトデー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/132

第102話 『嬉しい』

 

 昼休み。

 廊下の掲示板の前には、人だかりができている――らしい。


 俺は、その理由を知っている。


 ……いや、正確には知っているようで、まだ実感が湧いていないと言うべきか。


 何を言っているんだ、と思う人もいるだろう。

 でも、仕方がないじゃないか。


 だって、こんなことになってしまったら――


 ダダダダッ!


 まるでアニメのキャラクターみたいな勢いで、教室の扉が開いた。


「よーしのくーん!! なんでひとりで机にいるのー!? みんな掲示板の前なのにー!!」


 声の主は、大島彩花。

 俺のクラスメイトで、クラス委員を務めている元気すぎる女の子だ。


「おぉ、大島さんか」


「って!

 『おぉ』じゃないってば!」


 彼女は腰に手を当て、俺に言う。


「期末テストの点数の結果発表、見に行かないの!? 廊下、めちゃくちゃざわついてるよ!」


 ……知ってる。


「いや、まぁ。張り出されたときに通りがかって、結果だけは見たから……」


「はぁ!?」


 次の瞬間。


「いいから行こうよ!!」


 大島さんは有無を言わせず俺の腕を掴み、席から引きずり立たせると、そのままぐいぐいと廊下へ引っ張っていった。


「ちょ、ちょっと待てって!」


「待たない!

 これはクラス委員命令ですー!」


「生徒会副会長が行かないっていってんだけど!?」


「問答無用ー!」


 ――ああ、もう。


 こうして俺は、

 期末テストの“その後”へと、半ば強制的に連れて行かれることになった。



 * * *



 大島さんに引っ張られて人だかりの方へ向かうと、すぐに――


「あ! 吉野だ!」

「生徒会副会長様のご到着だぜ!」

「あれが吉野さんかぁ」


 声高に騒ぐ生徒もいれば、ひそひそと小声で囁く生徒もいる。

 反応はまちまちだった。


 そんな視線を一身に浴びながら、俺は人混みの中を連れて行かれる。


 その途中――

 ここ最近、やたらと見覚えのある顔にぶつかった。


「おっと、悪いな」


 そう言って顔を上げると、相手もこちらを見て目を瞬かせる。


「って、深山か」


「ああ、大河くん。……来たようだね」


 深山は妙に神妙な表情をしていた。


「大河くん、やはり君ってやつは……いや、今は何も言うべきじゃないな」


「どうしたんだよ?」


 首をかしげる俺をよそに、腕を掴んだままの大島さんが勢いよく言う。


「ちょっと吉野くん!

 もう一回、もう一回この期末テストの結果、ちゃんと見た方がいいんじゃない!?」


 気づけば、俺は人だかりを抜けて最前列に立っていた。


「あぁ……」


 この高校では、今どき珍しくも、期末テストの結果が毎回掲示される。

 上位三十名の名前はもちろん、五教科の合計得点まで、漢数字で大きく書き出されている。


 俺は、ゆっくりと視線を上へと移していく。


 一位 吉野大河 四九七

 二位 霞 汐乃 四九五

 三位 深山湊介 四九二

 四位 遠藤帆高 四八八

 ――


 俺は、もう一度、

 一位に記載された自分の名前を見つめた。


 黒い字で、太く記された――

 「吉野大河」の文字。


 しかも、今回は一番上になっている。


 周囲のざわつきが、急に遠くなる。

 まるで水の中に沈んだみたいに、音だけが鈍くなっていく。


「大河くん!」


 そんな俺を、一瞬で現実に引き戻したのは――

 視線より少し下から、俺を見上げる声だった。


「桜井さん……」


「大河くん、おめでとう!」


 それが、今日初めてもらった祝福の言葉だった。


 ――そうか。


 俺は今、喜んでいいんだ。


 そう思った瞬間、

 さっきから胸の奥で渦巻いていた、あのこそばゆい感情に

 ようやく名前がついた気がした。


 喜び。

 達成感。

 充実感。


「ああ……ありがとな、桜井さん」


 俺は、素直にそう言っていた。


「そうだよ! みんな、ここでそれを言いたかったんだよ! おめでと、吉野くん!」


 大島さんがそう声を上げると、周囲の生徒たちも、口々に嬉しい言葉を投げかけてくれた。


「すごいね、吉野さん!」

「大したもんだよ! 今度、お前の勉強法、教えてくれよな」

「さすが、生徒会副会長!」

「よ! 大統領!」


 その中で、深山も一歩前に出て、俺に言った。


「完敗だよ、大河くん。

 君はすごい。素直に負けを認めるよ」


「なんだよ。お前らしくないな」


 俺がそう言うと、今度は桜井さんが深山に向かって言った。


「でも、深山くんも前より点数上がってるし、それもちゃんとすごいんだよ」


「澪さん……」


 深山と桜井さん。

 先日の件があって、ふたりの距離感はどこか絶妙だった。


 でも――


 深山も、彼女の心からの言葉が、素直に嬉しいのだろう。


 人から認められることは嬉しい。

 心からの言葉は嬉しい。

 それは、きっと、誰にとっても同じだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ