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夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
第10章 覚醒の期末テスト編

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第99話 タイミングの神様に愛された者ら


 俺は、いつも通りコンビニのレジに立っていた。


「これ、発送したいんだけど」


 スーツ姿のサラリーマンが、少し緊張気味な声で小さな箱を差し出してくる。


(荷物の発送は初めてかな)


「かしこまりました。スマホのQRコードはございますか?」


「あ、えーっと……これかな?」


 画面をこちらに向けてくる。


「はい、そちらですね」


 ピッ、と読み取り音が鳴った。


「ご希望の発送日時などはありますか?」


「いや、特にはないよ」


「承知しました。では、こちらで内容をご確認いただいて、確認ボタンをお願いします」


「あ、はいはい」


 タップするのを待って、俺は伝票を印刷する。


 ガーッという機械音。


「お預かりします。ありがとうございました」


「どうも」


 サラリーマンは軽く会釈をして、店を出ていく。


 レジ前が一瞬、静かになる。


 俺は無意識に、息を吐いていた。


 ――テスト期間が終わった。


 結果が出るのはもう少し先だが、少なくとも今は、やるべきことをやり切った感覚がある。


「期末テスト、お疲れ様」


 店長は眼鏡を輝かせて笑顔で言った。


「って、相変わらず急に後ろから出てくるんですね、店長」


「それが趣味だからね。でも昔みたいに、あんまり驚いてくれなくなってきたから寂しいよ」


「はは。じゃあ今度くる新人の子たちにでも、思う存分やってあげてください」


 店長は、どうやらバックヤードで次のシフト表を作っていたらしく、手にタブレットを持ったまま俺の横に立っていた。


「そうだねえ。それでなんだけどさ」


 少しだけ声のトーンを落として、続ける。


「吉野くん。今年からは、新人教育も手伝ってもらおうと思ってるんだ」


「あ、はい……」


 一瞬、言葉に詰まる。


 俺が――教育。


 正直、少し前までなら想像もしていなかった。


 でも。


(今なら……できる気がする)


 ここで学んだこと。

 支えてもらったこと。

 救われたこと。


 それを、今度は自分が返す番なんだ。


「やってくれるかな?」


 店長が、いつもの柔らかい笑顔でこちらを見る。


 俺は、胸の奥にあるものを噛みしめながら、できるだけ自然に笑った。


「もちろんです」


 その言葉は、不思議と軽くも重くもなかった。


 ただ――今の俺に、しっくりきていた。



 * * *



 時刻は、午後九時を少し回ったころ。


 俺は店内の通路を、モップで往復していた。


 閉店前のこの時間帯は、客足もまばらで、店内には有線のBGMだけが静かに流れている。


 ――そんな時だった。


 ~♪


 入店音。


「いらっしゃいませー」


 反射的に声を出し、ちらりと視線を向ける。


 いつも通り、すぐに床へ戻した。


 だけど。


(え?)


 違和感に、もう一度顔を上げてしまう。


「やあ、大河くん」


「み、深山!?」


 思わず声が裏返った。


「なんだい、その顔は。僕だってこの街の住人なんだから、コンビニくらい来るさ」


 深山は涼しい顔で言い、続けて少しだけ口角を上げる。


「まあ、今日は君に会いに来ただけだけどね」


「セリフだけ聞くと彼女なんだよな、それ。それに、なんでお前なんだよ」


「何を言っているんだい?」


「……こっちの話だ。で、何買いに来たんだ?」


 俺がそう聞くと、深山は肩をすくめる。


「レモンティーだよ」


「オシャレ―」


「それに。期末テストも終わったし、放課後に君のクラスへ行ってみたんだ。でももういなくてね。生徒会室にも顔を出したけど、そこにもいないときた」


「ああ」


 俺はモップを壁に立てかけながら答える。

「テスト期間中は、店長や他の人に結構無理を聞いてもらってたからな。その分、早めにシフトに入ろうと思ってさ」


 深山は、なるほど、とうなずいた。


「そういや深山」


「なんだい?」


「前の長距離走の時に言ってた桜井さんへの返答を聞くってやつ。あれ、どうなったんだ?」


 彼はやや勿体ぶったように。


「ああ、それかい。気になるかい?」

 ニコニコしている。


「いや、別に。ただ一応な」


「実はね、それも含めて今日は放課後に君の教室に行ったんだ。桜井――いや澪さんには明日返事をもらうことになっている」


「ふーん、なるほどな」


 俺は再びモップに意識を向けた。



 ――その時だった。


 ~♪


 入店音が、もう一度鳴った。


 俺は反射的に、深山の背後――店舗の入り口に向かって声を出す。


「いらっしゃいませー」


 ……って。


 たぶん、俺は変な顔をしていたんだと思う。


 深山もそれにつられたように、首をかしげて振り返った。


 なんてナイス――いや、バッドか?


 そんなタイミング。

 この物語を仮に第三者目線で見ている神のような視点があったとしたら、誰しもがそう思っていることだろう。


 そこに立っていたのは、桜井さんだった――


「お疲れ様、大河くん。――それに、深山くん!?」


 深山も、これにはさすがに驚いたようだった。


 無理もない。


 この時間にここへ来る桜井さんは、だいたい決まっている。


 グレーのスウェットのセットアップ。

 肩の力が抜けた雰囲気。

 昼間の学校で見る姿とは、少しだけ違う空気。


 見た目自体は、最初に会ったころほどのギャップはもうない。


 それでも――


 この場で、このタイミングで、この姿で現れたら。

 初見なら、十分すぎるほどインパクトはある。


 ……というか。


(このタイミングかあ)


 俺は心の中で、そう呟いていた。


 この世界の神様はきっと恋愛小説が好みなのだろう。


 俺はそう思わずにはいられなかった。

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