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夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
第10章 覚醒の期末テスト編

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第96.5話 あの子の寝息 


「この問題もさっきのやつと同じ公式を使えば解けるよ」


 そう言って、俺はノートを見下ろしながら説明を続けていた。


 気づけば、もう一時間ほど経っている。

 桜井さんと電話をつないだまま、ほとんど家庭教師状態だ。


 本当は一問だけのつもりだった。

 それが気づけば、次の問題、その次へと――少し、長引いていた。


「で、ここを整理すると……」


 言いながら、ふと違和感に気づく。


「ん? 桜井さん?」


 返事がない。


「……桜井さん?」


 もう一度、呼びかける。


「おーい、桜井さん?」


 沈黙。


 なにかあったのかと思い、耳を澄ました、その時だった。


 ――スー、スー。


 スマホの向こうから聞こえてきたのは、明らかに規則正しい寝息だった。


「……」


 俺は一瞬、言葉を失う。


「……って寝てるし」


 思わず、苦笑した。


 だが無理もない。


 昼間は長距離走、放課後は生徒会、夜は彼女にとって得意ではない科目の勉強。

 疲れないほうがおかしい。


 俺は通話を切らずに、しばらくその寝息を聞いていた。


 静かな部屋に、スマホ越しの小さな呼吸音が、穏やかに流れている。


 スー、スー。


「……にしても、こんな俺のどこがいいんだか」


 スー、スー。


「ほんと、理解に苦しむよ」


 スー、


 ……ま、そろそろ切るか。


 本当なら起こして、布団でちゃんと寝たほうがいいって言うべきなんだろう。


 でも――今は、それも忍びない。


 俺はスマホを耳に当てたまま、静かに語り掛けるように囁く。彼女を起こさないように。


「じゃあ、おやすみ。さくら――」


 無意識か意識的にかわからない。


 一瞬、言葉を止めてから。


「……澪」


 通話を切ると、部屋は一気に静かになった。


 さて、桜井さんの“今日”は終わったけど――俺は、まだこれからだ。


 勉強をする理由。


 さっきまでは少しブレていたけど、もう大丈夫。


 大した出来事があったわけじゃない。ただ、この数時間で見聞きしたこと、交わした言葉、その全部が重なって――

 俺の中にあった“極めて自分勝手な動機”が、ようやく形を持った気がした。


「……よし」


 声に出して、気合を入れる。


 俺はもう一度ペンを握り直し、机の上の問題集へと視線を戻した。

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