第4回 選ばなかった結末
第4回 選ばなかった結末
目を開けた瞬間、全身から汗が噴き出した。
佐伯鷹真は自宅の布団の上で、息を荒げながら天井を見上げていた。
現実に戻ってきた——。
だが、胸の奥にはまだ、あの「有り得ない世界」の重さが残っていた。
原爆が落とされなかった世界。
そこでは、戦争は“外交”と“絞り出された理性”によって終結した。
しかし、そこにいた人々は、その重みを“理解していない”ように見えた。
彼らは平和を語っていた。
けれど、それは「想像の上にある平和」だった。
佐伯は、夢の中で拾った一枚の写真を思い出した。
焼け野原の広島。崩れたドーム。瓦礫と骨のような鉄骨。
この現実では知っている風景だが、あの世界には存在しなかった風景。
——「歴史を書き換えた」
その可能性が頭を離れなかった。
何のために? 誰が?
核の使用を歴史から“消し去る”ことで、何を得ようとしたのか。
その答えは、分からない。分からないままでいいのかもしれない。
けれど一つだけ、佐伯の中で確かになった感覚があった。
**「選ばれなかった未来」にも、責任はある。**
人類は、原爆という“最悪”を経験したからこそ、今もその恐ろしさを語り継ぐことができる。
その記憶を持たない世界は、“理性”だけで戦争を止めた代償として、
**もう一度、同じ過ちを繰り返そうとしていた。**
“原爆を落とされなかった日本”は、本当に幸せだったのか?
答えは誰にも分からない。
ただ、彼はこう思った。
——“正しい”か“間違い”かを問うこと自体が、間違っているのかもしれない。
その夜、佐伯は自室の机に向かい、旅の記録を書き残した。
題名は《有り得ない世界:原爆なき世界編》。
そこには感情も判断も記さず、ただ見たものだけを書き続けた。
そして最後の行に、彼は一行だけ、言葉を記した。
**「それでも、現実のほうが良かったのかもしれないな」**
その言葉が、祈りなのか、皮肉なのか、自分でも分からなかった。
だが、間違いなく彼は「戻ってきた」ことを知っていた。
そしてまた、次の夜。
彼は目を閉じる。
新たな“有り得ない世界”が、静かに彼を待っていた。
(第1編・完)
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※この物語はフィクションです。史実や思想への肯定・否定を目的としたものではありません。
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後書き(あとがき)
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ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
第1編「原爆なき世界編」は、「もしも、原爆が落とされなかったら?」という仮定を通して、
“歴史の不在”が人間や社会にどう影響を与えるのかを描いてみました。
この物語の中で描かれる世界は、一見「理想」に見えるかもしれません。
焼け野原はない。被爆者もいない。都市は整い、文化も存続している。
けれど、**その裏側にある「経験の欠如」こそが、新たな危機を孕んでいる**。
それが今回の主なテーマです。
「経験しなかった歴史は、語られない」
「語られなかった過去は、また繰り返される」
そういう恐怖を、少しでも感じていただけたなら幸いです。
また、主人公・佐伯鷹真は、この“有り得ない世界”を旅しながら、
「選ばれなかった未来」に意味はあるのか?
「歴史に対する責任」とは何なのか?
という問いを、繰り返し自分に突きつけられていきます。
第2編以降も、時代や状況がまったく異なる“ありえない未来/過去”をテーマに展開していく予定です。
もしよろしければ、次回もお付き合いください。
**あなたが今、現実に生きているということ。**
そのこと自体が、尊く、選び取られた未来なのだと思います。
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次回予告:
第2編『有り得ない世界 ― 織田信長、生き延びた世界編 ―』(仮)
→「本能寺の変は起こらなかった」世界を主人公が訪れます。
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この物語はフィクションであり、史実や実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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