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長い初恋が終わりました

作者: BIBI

誤字脱字のお知らせありがとうございます

読んでくださって嬉しいです

シャーロット・マクラガン

漆黒の髪に菫色の瞳の18歳、それが私です

マクラガン伯爵家の長女で弟がいます


美しいよね、でもね、、、

誰もが口を揃えて言う、次の言葉は 

「あれ程背が高い女性はね」

背が高いので気が強いと誤解されてばかりです

本当はリボンや刺繍、それに歌が大好きなありふれた女性です


小さい頃は標準の身長でした

5歳で婚約した事を両親はその後、とても喜んでました

私の婚約者はブランディ伯爵家の嫡男のアーサー様

アーサーはプラチナブロンドの髪にアクアマリンの瞳の、近衛騎士になりたての18歳です

私と同い年で、見目麗しい上に近衛騎士でもあり、女性の注目を浴びてます


小さい頃は一緒に遊んでいて、将来は騎士になると言っては、木刀を振り回してました

「チャーリーが困ってたら助けに行くからね」

と言って幼い恋を育んでいたものでした



お父様とお母様は政略結婚ですが、大変仲が良く、私もそんな理想的な結婚が出来るかしら、と思ってました


私よりも背の少し高いアーサーを逃せばもう次の婚姻は無理だろうと、お父様はお考えです

お母様は、私に幸せになって欲しいと願ってますが、やはり無理だろうと思っているようです


アーサーが少しずつ変わったのは、私達が12歳になる頃からです

私は背がグングン高くなり、アーサーより高身長になりました

周りの令嬢よりも頭2つ分近く高くなり、遠くからも私と気が付かれる状態でした

「チャーリーは僕よりも随分、背が高くなったよね あんまり大きくなると恥ずかしいな」

「う、うん」


返事はしたものの、こればかりはどうにもなりません

一人で泣きました


決定的に変わったのはアーサーと私が15歳で貴族学院へ入学してからです

その頃にはアーサーの身長も伸びて私よりも少しだけ高くなってほっとしていたのですが、、、


入学後のアーサーは背も高くなり、小さい頃からの剣の稽古で逞しくなったうえに、美しい顔で一目置かれて、多くの令嬢から誉めそやされてました

そのような浮かれ調子なので学業は疎かになりました

アーサーは私と一緒にいる所を見られたくないのか、避けてる様に思いました

それでも、私は淑女の嗜みとして見て見ぬふりをしました


学院には新緑の薔薇の月の初日に、心に秘めた方に花を贈ると言う習わしがありました

特に薔薇の花を受け取るのは私も貴方に好意を持っています

そう受け取られるのです


その日は私もピンクのバラを用意して学院の中庭でアーサーを待ってました

ところが、その時ヴィヴィア様が、私の横を押しのけるようにするりと抜け、アーサーに真っ赤な薔薇の大きな花束を贈ったのです


「アーサー 先日は助けくださってありがとう」

「ヴィヴィア様 お気を使わないでください か弱くて美しい女性を助けるのは紳士の嗜みです

それでも、素晴らしいバラをありがとうございます

何かお礼をしなくてはなりませんね」


「婚約者がいらっしゃるのに宜しいの?」


「心配することは何も無いですよ」


2人はもう名前で呼び合う仲になっていて驚きました


侯爵家の令嬢のヴィヴィア・フランクリン様は、小柄で僅かにグリーンがかかったふわふわのブロンド、ラベンダー色の少し垂れ目がちの瞳、華奢でありながら、豊かな胸、誰もが守りたくなるような高貴な令嬢です


私がその場を動けずに茫然と立ち尽くす間に2人はガゼボの方へ歩いていきました


「アーサー よくやるよな あの大木がいるのに」

「助けたって言っても風に飛ばされたヴィヴィア嬢の帽子を拾っただけだろう」

「顔が良い奴は羨ましいよ」

「フランクリン侯爵は近衛団長だからな アーサーは何とか縁を繋げたいんだろう アーサーは近衛騎士になりたいんだから」


ヴィヴィア様の薔薇を受け取った事もショックでしたが、アーサーの友人達から、大木と言われて蔑まれてるのはもっとショックでした

きっとアーサーは私の事が恥ずかしくて仕方なかったのだと知りました


邸に帰ってからは夕食も食べられない程で、侍女が心配してくれました

殆ど、眠れずに翌朝は泣き続けた目が赤く腫れてました

私はそれでも、アーサーを思っていました

お父様もお母様も心配してくれましたが、風邪を引いたみたいと言って誤魔化して、翌日から学院へ通いました


それからは、なるべくアーサーと顔を合わせずに勉強に励みました

アーサーからもお誘いはありませんでした

この頃は本当に辛い時期でした


雪の光の季節が来ました

私は好きな音楽家の楽譜を探すために図書室に来てました

その時、丁度同じ楽譜を手に取ろうとしてた、子爵令嬢のミランダ様と偶然に知り合いになりました


「あっ 宜しかったらどうぞ」

「宜しいの? ミランダ・オルドレッドです ごきげんよう シャーロット・マクラガン様ですよね」

「えっ」

「有名ですもの」

私はまた、身長の事を揶揄されるのかと悲しくなりましたが


「マクラガン様のお声は美しい事で有名なんです 私たち、音楽室で一人で歌ってるマクラガン様のお歌を、隠れて聞いてますの」

「は、恥ずかしい」

「宜しかったらお友達になりません? きっと仲良くなれると思いますの

もうお友達ですからミランダと呼んでくださいな 私はチャーリーと呼ぶわね」


そう言って、ミランダ様は強引に私とお友達になりました



ミランダとお友達になってからは音楽室で歌う事が日課の様になりました

少しずつ、私も明るくなって行きました


私たちは最終学年の最終の季節になりました

ミランダは卒業後は結婚が決まってました

一緒に歌を習っていた皆さんも、やはり同じように、卒業後に嫁がれるか、その準備に入るそうです

私は宙ぶらりんでした


アーサーはヴィヴィア様と懇意になってました

このまま、アーサーと婚姻するべきなのか、迷ってましたが、やはり、心の中ではアーサーを信じる気持ちがどこかにありました


アーサーは成績は芳しくなく、近衛騎士に採用されることは難しいと言われてましたが、試験を突破して、卒業後は近衛騎士として勤めることになりました

噂ではヴィヴィア様がお父様のフランクリン侯爵にお願いしたと言われてました


私たちは無事に卒業をしました

卒業の祝宴で私は独唱をしました

紫紺に、バイオレットと銀糸の刺繍がしてあり、ウエストから軽やかなシフォンのたっぷりなギャザーがあるドレスです

髪もアップにまとめました

背が高くスレンダーな私を優雅に見せてくれて、とても気に入りました

お父様とお母様からのプレゼントです

ミランダもとても良く似合ってると褒めてくれました

もっと自信を持ってとも


アーサーはヴィヴィア様をエスコートしてました

私とはダンスを踊ることも無く、目を合わせることもありませんでした

私は独唱の効果か、何人もの子息にダンスを申し込まれました

アーサーからは婚約者でありながらラストダンスのお誘いも、もちろんありませんでした


卒業してから1年経ち私は19歳になりました

私は祝宴で独唱したことから、多くの方々からお茶会や夜会に招待されるようになりました

それもあって、大手の商会からお話があり、その商会のドレスを着用して参加することになりました

背が高く、スレンダーな私は多分、ドレスやジュエリーの広告にピッタリなのでしょう

少しずつ自信が持てるようになり、アーサーに婚約破棄を申し込む事を考えるようになりました

これ以上、アーサーを引き留めるのは酷だと


そんな時に、アーサーが事故でこめかみから顎にかけて大けがをしたとお父様から聞きました

事故とは言ってるものの、実はヴィヴィア様も絡んでいると噂になっているようです


私はブランディ家へ向かいました

アーサーは顔中を包帯でぐるぐる巻きにされて眠っていて、いつ目覚めるとも分からない状態でした

ブランディ伯爵夫妻からはお見舞いに行ったことにお礼を言われました


「チャーリー よく来てくれたね アーサーが辛く当たって申し訳なかったね

多分、そのうちにチャーリーも知ることになるから、私から伝えるよ」

「はい」

「実はね、アーサーは、ヴィヴィア嬢の婚約者に切り付けられたんだ

ヴィヴィア嬢の婚約者は、アーサーとのことを今まで目を瞑って来たけれど、噂が広がって腹に据えかねたんだろう

自分の婚約者が結婚前に別の男性と噂になって、自分のプライドが許さなかったんだろう

アーサーの顔の傷は一生残ることになる

近衛兵たる者がこんな醜聞を起こして、多分近衛騎士も辞めざるを得ないだろう

もともと、フランクリン侯爵の口利きで入ったから、アーサーの実力では無かったし

アーサーはあの通り勉強をしてなかったからね

どうしても近衛騎士になりたくてヴィヴィア嬢の言いなりだった

それでこんな事になってチャーリーにはどう謝っていいか分からない すまない」


「ヴィヴィア嬢の婚約者のガランド侯爵とフランクリン侯爵は、アーサーは面識のない暴漢に襲われた事にして、内密に収めるようだが、その内に尾ひれはひれがついて噂になるだろう

何人も見てるから仕方ない

それでね、チャーリーが嫌ならこの婚約を破棄しようと思っている

今までもチャーリーには惨めな辛い思いをさせてるから、我が家に出来ることがあったら何でも言って欲しい 済まなかったね」


私は意外な形で婚約破棄が話題に上ったと思いながらも


「アーサーが落ち着くまで、考えさせてください」

そう言って翌日から10日程、毎日ブランディ伯爵家へお見舞に行きました

アーサーは目覚めることはありませんでしたが、峠は越えて、後は体力を回復するだけになりました


その数日後にアーサーは目覚めましたが、私には会いたくないと言って、私たちは婚約破棄することになりました

私はアーサーに望まれていない事を自覚しました


そして、アーサーは近衛騎士は辞め領地で静養することになったそうです


ヴィヴィア様はアーサーに一度だけ会った後


「あなたなんて顔が良いだけなのに、そんな恐ろしい顔になって、一緒に居ても誰からも羨ましがられないし、二度と会いたくないわ

私にしつこく纏わりついて、こんな醜聞になって大迷惑なのよ!」


そう言って、アーサーはヴィヴィア様に捨てられたのです

ヴィヴィア様はガランド侯爵との婚約を破棄されて、異国へいかれたそうですが、その後の事は分かりません


それから、2年経ちました

私は21歳になりました

歌と商会の広告等で少しずつ有名になった私に婚姻を申し込む方も何人か現れました

新緑の薔薇の季節の初日には薔薇の花束が何人からも贈られるようになりました

その中に、白い小さなランモニカの花束がありました

ランモニカの花言葉は幸せになってくださいです

私の一番好きな花です

名前はありませんでしたが、いつかお会い出来たらと思いました


その頃、ミランダから領地への招待状が届きました

ミランダは幼少の時から決められていたアンバー子爵家嫡男のジョージ様と貴族学院の卒業と同時に結婚しました

卒業後はもっぱら手紙のやり取りになってしまいましたが、いつも私を励ましてくれる大切な親友となってました


お二人は政略結婚でしたが、とても仲の良いご夫妻で羨ましさと同時に、自分のことを考えると一抹の寂しさもありました

「チャーリー お久しぶりね

もう有名な歌姫は少しも顔を見せてくださらないんだから

今回は暫くはゆっくりできるのでしょう? 楽しみにしてますのよ」


「歌姫なんて恥ずかしいわ」


「かあさまー ただいま帰りましたぁ とうさま はやくー」


「キースそんなに走ったら危ないよ

チャーリーよく来てくれたね

楽しみにしてたんだよ」


「キースご挨拶は?」

「シャーロットさまのお名前はこちらでもとってもゆうめいですぅ

キースともうしますぅ」


「まぁご立派なご挨拶 チャーリーと呼んでね」


「ウフフ 何日も前から練習してたのよ」


久しぶりにミランダに会って楽しくて話が尽きませんでした


アンバー子爵家へ滞在して数日後に、東部に領地を持つ貴族合同の花のフェスティバルがあり、そこに出品された花の優勝を決めるお祭りが、開催されました

毎年、各領主の持ち回りとなっていて、今年はアンバー子爵領で開かれるので、私もアンバー子爵家の皆さんと一緒に参加しました


本当に大勢の人、人、人で会場一帯は大賑わいです

品評会の会場は一周するだけでもとても楽しめます

甘い香りや美しい色とりどりの花や植物は観てるだけでも心が弾みます

ミランダやキースと一緒にあれやこれやと言って回りました

ジョージ様はこのフェスティバルを仕切ってらっしゃるので、別行動です

ミランダやキースはとても残念がってました


会場の中央には、今回の品評会の最終審査に残った花が20鉢大きな長テーブルの上に並べてあり、それぞれの領主、王都からいらした有名な庭師、各地の生産者が審査員となって審査を始めてました

出品者の名前は伏せられていたので、公平な審査です


大輪の赤いバラ、美しく咲き誇った白百合など、全てに優劣をつけることは難しいと思いました

そんな中で私の目を引いたのは小さな可憐な花を咲かせているランモニカの花

他の花に比べると華やかさでは、劣るかもしれませんが、その優しい香りは朝焼けや雨上がりの夕闇の中で風に乗って漂い、穏やかで幸せな気持ちになります


新緑の薔薇の季節の初日に、カードも無く届くランモニカの花、小さくても健気に咲くこの花を見ると小さい頃を思い出して、懐かしくなり、そして、少し胸が痛みます

幼い頃、アーサーが剣の練習をして、それを見てた私に突然

「チャーリーが困ってたら助けに行くからね」と言って庭園で咲くランモニカの花束をくれた幼い淡い思い出です


結果発表の前に突然一曲をと言われ、歌ったところ、拍手喝さいを受けて、会場は一段と盛り上がりました

優勝は大輪の赤いバラでしたが、急遽、主催者のジョージ様からシャーロット賞をと言われ、私はランモニカを選びました

受賞者が壇上に上がり、そこにアーサーを認めたときに、驚きとともに、ランモニカを見てアーサーを思い出していたので、やはり私の中ではアーサーは長い間の婚約者、そして、初恋の人として忘れることが出来ない存在であると思いました


授賞式が終わった後にアーサーと話す機会がありました


「お久しぶりでございます アーサー様」


「久しぶりです シャーロット嬢」


「お変わりはございませんでしたか?」


「、、、」


「シャーロット嬢のご活躍は我が領地にも届いてます」

「シャーロット嬢 ど、どうしても謝りたくて 本当に申し訳ないことをして君を傷つけて済まなかった

本当に申し訳ありません 謝っても許されることでは無いし、許されるとは思って無いけれど、どうしても謝りたかった 本当に申し訳ありません」


アーサーは、そう言って何度も何度も謝罪を口にされました


「もう宜しいんです、、、 いえ、本当はとても、とてもアーサーには傷つけられたわ」


「本当に申し訳ない」


「あのランモニカはアーサーが育てたの?」


「ああ、あれから領地に引きこもってたんだが、丁度、庭園のランモニカが咲く季節で、毎日眺めてたら昔を思い出して、変わろうと、このままじゃダメだと思ってね

それから、家令に経営や財務を教えてもらって、少しずつだけど、何とかこなしてる

まだまだだけどね

君の様に賢くないから、何度も間違ってるよ」


「そう、頑張ってるのね ご家族は?」


「あー、両親は俺が不甲斐ないから、まだまだ引退は出来ないと嘆いているよ

それに、俺がこんなだから、後継者についても苦労してるよ」


「後継者?」


「俺はこんな顔だし、いろいろと醜聞があるし、一生独り身だ」

「シャーロット嬢 今日は話せて本当に良かった ありがとう、そして、本当に申し訳ない事をした

こんな俺が言うのもおこがましいが、君の幸せを心から祈ってるよ ありがとう 済まなかった」


「新緑の花の季節に名前も無くランモニカを贈ってくれたのはアーサーなの?」


「、、、君はランモニカが好きだったから」


「ありがとう」


私はやっと長い辛い事の多かった初恋に区切りをつけられました




それから、3年後私は結婚しました


あれから、アーサーは変わらず、新緑の花の季節にランモニカを贈ってくれました

そして、3年目に私から、アーサーに薔薇の花を贈ったのです

アーサーは何度も何度も「ありがとう」と言って泣きながら受け取ってくれました

初恋には区切りを付けましたが、新たな恋はまた、努力を惜しまずに頑張ってるアーサーにしました


随分と時間はかかりましたが、2度目の初恋を実らせることができました







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― 新着の感想 ―
とても優しいお話でした。 ランモニカと言う花が実在していれば見てみたいと検索しました。そんな素敵な花があればそばに置いておきたいですね。独特の世界観、目の前に浮かぶ情景、優しい時間を過ごすことができま…
やらかした側が過剰な罰を受ける作品はソレはソレでスカッとはするけど、更生して頑張ってるなら少しくらいは幸せになっても良い委員会のほうから来ました。
シャーロットは強くて素晴らしい女性ですね 背が高いと声帯が長くなるので音が響きやすくなり音程が下がるんだ、と確かコブクロの片方の方が話してたような 女性だと少し音程が低くなり響きが深くなるので中性的に…
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