なにもない子〜魔女の養子になりました〜
魔女のお母さんは世界中から養子を集めた。
みんな魔法の才能にあふれる子ばかり。
でも私にはなにもない。
何もできないから、魔女のお仕事のお手伝いもできない。
お母さんは世間ではとても怖い魔女として通っているけれど、そんなことない。
ちゃんと話せば話を聞いてくれる。そっけないし、お顔は怖いけど。
「ゾーラ、あんたは仕方のない子だね」
そんなこと言って、何もできない私にも仕事をくれた。魔女のお家の家事手伝いだ。
わたしが家でご飯を作ったり掃除をしたりしている間に、兄姉たちはどんどんお母さんのお手伝いをこなしている。
それを私は、箒片手に見つめてた。
数年もしたら兄姉たちは、お母さんに負けないほど世界で名の知られる存在になった。
西の血の魔女メリラ。北の氷結の魔法使いガラム。その他格好のいい名前がみんなついている。
私は家事手伝いのゾーラ。かっこいい……かな?
ある日お母さんは言った。
「もう私は長くない。でもある薬が必要だ。これを取ってこられるのはゾーラ、お前だけ」
なにもない子の私に初めてちゃんとした仕事ができた。
私はお母さんの言うことに従って旅に出た。
必要な薬はいろいろな国を回って素材を回収しないといけない。
魔女の子だとばれないように潜入するけれど、全く気が付かれない。だってなにもない子だから。
各地では魔女の被害が大きく、町の人たちはお母さんの悪口ばかり。
「魔女のせいで景気が悪い」
「あんな禍々しい生き物なんて早くいなくなればいい」
最初のころは、私が魔女の子だってバレないように黙って聞いていたけれど、だんだん我慢が出来なくて、つい反論してしまう。
喧嘩になるとやってくるのはその国にいる私の兄姉たち。
西の国では血の魔女メリラがやってきて、掴まった私の身代わりに。
東の国では汚泥のノートンがよせばいいのにちょっかいを出してきて身代わりに。
その他の国でも、なんだかんだいいながら、みんなが私を助けてくれる。
兄姉たちは心配だけど、お母さんも心配だから、私は彼らを残してまた素材集めの旅に出る。みんな強いからきっと大丈夫。大丈夫。
あるときから、ある国の王子がしつこく私を追いかけてくるようになった。
王子が教えてくれた。魔女の子供たちは末の妹が可愛くて仕方ないのだそうだ。
兄姉たちのおかげで私は何とか町の人の手からも王子の手からも逃れて最後の素材、白の花を見つけた。
目的の地には何もなかったのだけど、私には何もないと泣いたら涙の跡から花が咲いた。それが、目的の白の花。
追いついてきた王子が言う。花が欲しいのだと
「はい、どうぞ」
二つ咲いたので、分けてあげた。必要なのは一つだけ。
家に帰ると前よりも弱ったお母さんが。
なぜ帰って来たのだと言う。
私はやはりいらない子だったのだろうかと、泣きたくなる。
お母さんが言うには、
『私は暴れすぎた。上手くいかなかった。魔法使いは悪い子ではないとみんなに知らせたかったのに、子供たちはみんな馴染めなかった。そんな中でゾーラだけは普通の子だからせめて国に帰そうと思った』
前よりも虚ろな目で、うつむきながら独り言のように呟いていた。
でも、不意に顔を上げる。
「今ならまだ間にあう。白の花を国王に渡しなさい」
お母さんの瞳に映った私を見つめながら、私はもう渡したと言った。
私はお母さんのもとにいたいのだとも言った。
「魔法も何も使えない、なにもない子はいらないのか」と聞いた。
お母さんは言う。
「ゾーラ。私は世界中から魔法の才能のある子を集めたのだよ。あなたもその一人。なにもないなら白の花なぞ咲くものか。あなたは何もない子では無い。お前を定義づけるのはなにもない子。つまり自由の子。無限の子。可能性に満ちた子」
そう言って微笑むお母さんの瞳の中の私は驚いていた。お母さんの笑顔はちょっと怖かったけど。
「私はもう長くないと言っただろう? 花はお前のための花だ。無限の子よ。かわいい私の子たちを、おまえの兄姉を救ってくれ。そしてあの子たちは悪い子では無いと、世界に伝えておくれ」
お母さんは私だけを助けようとしたのではなかった。私が一番可能性を秘めていたから、市井に紛れさせて力がつくのを待とうと思っていたのだ。
私はお母さんの遺志を継いで、世界をもう一度巡る。ハチャメチャだけど、愛しい兄姉の素晴らしさを世界の人に知ってもらうために。
お読みいただきありがとうございます。
お話は一旦ここでおしまいです。
ゾーラがこの先どのような旅に出たのか、皆様のご想像にお任せいたします。