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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
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Chap1 ep3-降り立つ、海の街

 無事にファデミア共和国第二飛行場に着陸した。魔力をほとんど使い切ったラドエフは急激な疲労に襲われ、座っているのがやっとの状態だ。御者は、事情を聞いて納得した。


「まさか風魔術を使えたとはな、奇跡でも起こったのかと思ったぞ」


「こんなに上手くいくとは思わなかった。マリーズには予定時刻通り着きそうか?」


「おかげさまでな、マリーズはもうすぐそこだ。四半刻もしないうちにここを出る」


「そりゃ良かった」


 ラドエフ達がゴンドラで待機していると、飛行場の職員が声をかけてきた。


「あんたら、マリーズに行くのか? いい宿をいくつか知ってるぜ。観光名所を効率良く回れるんだ」


「是非教えてもらいたい。なるべく港に近いところがいいんだが」


「港? マリーズが本命じゃないんだな」


「遠征に行くんだ。ウグィスって国に」


「遠征って・・・・・・ あんたら観光客じゃないのか?」


「ああ、ええっと、魔界パトローラーなんだよ」


「ええ! そうでしたか、これは失礼」


 観光客だと勘違いするのも無理はない。服装はバラバラで、武器も携帯していない。民間人が思い浮かべるパトローラーのイメージとは大きくかけ離れていた。


「わざわざ敬語を使わなくていい。宿について教えてくれないか」


「港に近い宿っていったら国営のホテルだな。船乗り御用達の安宿だがぼろくはない」


「国営か、いい情報を聞いた。操縦士に伝えておいてくれ」


「おう、任せろ」


 御者と四翼獣(フリゲール)が戻ってくると、すぐにゴンドラの取り付け作業に取り掛かる。そして、わずかな時間ながら降り立ったファデミアの地に別れを告げた。


 御者が言っていた通り、マリーズ大公国はすぐ近くだった。南北に長い領土の西側は海洋に面し、漁業大国として唯一無二の地位を確立している。一方で観光にも力を入れており、数多くの宿と、白と青を基調とした街並みをはじめとする観光名所が、その証明となっていた。


「わあ、綺麗な街並みね」


 ルアナが思わず声を上げる。日が落ち暗くなり始めていたが、窓から漏れ出す灯りや街灯が、明るさを保ち続けることに貢献していた。


「まもなくマリーズ大公国に着陸する」


 通話口からの声がゴンドラに響く。漸く目的地に到着した。


 マリーズ大公国第七飛行場に着陸すると、ラドエフは御者の男と握手を交わす。


「予定時刻通りの到着だな。ありがとう」


「あんたの風魔術には助けられた。乗組員として雇いたいぐらいだ。ははっ」


「パトローラーをクビになったら雇ってもらおう。席は空けといてくれ」


「いつでも、大歓迎だ」


 ラドエフは職を確保することに成功し、サンティアも四翼獣(フリゲール)に別れを告げた。


「頑張ったね、ありがとう。鳥さん」


「このデブ鳥め。帽子を食いやがったことは忘れてないからな」


 最後の最後までジャックは恨みの言葉を吐き続ける。ラドエフ一行は例の国営ホテルを探し始めた。辺り一帯が宿泊施設群となっていたが、一番近い飛行場に着陸したため、すぐに見つけることができた。創設者であるノイラー・マリーズの銅像と、赤煉瓦造りに豊富なランタンの装飾が施された豪華な仕様は、一線を画す外観を形成している。


「なんていうか、逆に浮いてるな」


 ジャックが何気なく呟いた。良く言えば一線を画す豪華仕様、悪く言えば周りの建物に合わず目立っていた。外開きの大きな二枚扉の両端には、2人のマリーズ公国兵が待ち構えている。


「武器の持ち込みは禁止だ」


 1人の兵が、やや高圧的な態度でラドエフ一行を止めた。


「それじゃあ預かってもらうことはできるか?」


 ラドエフの質問に、もう1人の兵が答える。


「はい。可能です。あちらの保管庫を利用ください」


 マリーズ兵が指差す先には、これまた立派な倉庫が建っていた。その中は、いくつもの小部屋に分けられ、全ての部屋に錠を掛けられるようになっている。利用状況としては、全体の半分にも満たない程度であった。観光目的の来客がホテルの利用者の大多数を占めていることは自明である。


 入口付近の小部屋は全て使われていた。奥へ進むほど空室が増えていく。わざわざ最奥を選ぶなど、余程の物好きか、何かやましい事がありでもしない限り有り得ないことであった。ラドエフであればやりかねないと思った者もいたが、流石のラドエフでもそんな選択はしない。


「なるべく手前側の方が良いな」


 班長の一言に班員達は安堵した。小部屋は外観通りの広さで、防具掛けや小物用の棚も完備されており、武具の保管の点で困ることは何もなかった。


 布団さえ布団さえあれば寝泊りだって出来なくはなさそうだ。しかし倉庫全体を覆う謎の異臭は耐え難いもので、保管庫内での生活を試みようものなら1日で参ってしまうことが容易に想像できる。保管庫に住み着く無賃宿泊者がこれまで1人も現れなかったのは、この異臭が原因であろう。


 門番は武器の収納を確認すると、扉を開き出迎えた。


「ようこそ。マリーズが誇る国営宿泊施設へ」

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