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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第0章 プロローグ
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Chap0 ep4-抱く、海への憧れ

 ラドエフ班は、暇を持て余していた。宿舎に住み込みで待機している割には出動が少なすぎる。

 

 ラドエフ班が所属している【デルデノット魔物討伐隊】は、【対魔物作戦団】を構成する3つの隊のうちの1つであるが、常時多忙状態の【白銀騎士の集い】に比べて圧倒的に出動の機会が少なかった。もう1つの【トックス調査隊】は謎に包まれており、上層部の中でも限られた者にしかその実態は知らされていない。


 魔界パトローラーには部隊単位が定められている。班、分隊、連隊、作戦団といった形で規模が大きくなっていく。3つの作戦団、9つの連隊からなるこの一大組織は、結成から5年が経とうとしていた。


 結成当初こそ信用を得るのに苦労したものの、各国の警備業務を貪るように代任していき、今となっては国際警察とも言えるべき絶大な影響力を誇る。その証明として、毎月開催される覇権8か国の首席による会議【八帝招集】の九つ目の議席を持っていた。組織がここまでの成長を見せたのは、創設者であり現会長のキッド・グレアスのカリスマ性のおかげであると言っても過言ではないだろう。


 

 ラドエフとジャックはもう300戦は交えたであろうチェスに耽り、弓使いの班員サンティア・ノイヘルムは武器の手入れに没頭している。特にやることがなく取り残されてしまったルアナは不満そうに、チェスの行く末を見守ることに徹していた。


 駒が木盤を滑る音、鉄と鉄が擦り合わされる音が淡々と鳴り響く室内は、とても退屈な空間であった。そんな中、ラドエフが突然口を開く。


「そういえば。デルデノット隊長からの伝言があった」


 ぼーっと眺めていたルアナが、思わずびくりと姿勢を崩した。そんなことを気にも留めず話を続ける。


「ウグィス皇国で魔物が大量発生しているらしい」


「ウギス?ウ、ウグ、ウギィ・・・・・・ス? ちっ」


 うまく発音できないジャックは不機嫌そうな様子で葉巻のヘッドを切り落とし、続きを求めた。サンティアも手を止めずとも耳を傾けている。


「ふっ、そのウグィス皇国から救援要請、それも緊急の。で、送り付ける部隊を募集していたんだと」


「その部隊に採用されたのが四番連隊ってわけか」


 ラドエフが無言で頷くと、ルアナが目を輝かせる。


「ウグィス皇国って島国よね! 船に乗って行くの!?」


 子どものようにはしゃぐ精霊使いは、歓喜に満ち溢れていた。内陸部で生まれ育ったルアナは、海を見たことがない。それどころか、湖すらみたことがなかった。そもそも、班内で海を見たことがある者はいない。


「あの隊長が志願したのか? なんていうか、らしくないな」


 紫煙を燻らせながらジャックが発した言葉に、皆共感の意を示した。


♦一週間前、会長室


「失礼します」


 唐突に呼び出された四番連隊隊長ことデルデノットは、何か問題でもあったかと思考を巡らせながら入室した。キッドは微笑みながら、着席を促す。


「調子はどうだい?」


「え、あ、まあ。本題に入りましょう」


 半ば失礼ともとれる返答であったが、会長は気にしなかった。


「そうだね。ウグィス皇国から要請があることは君も知っているね?」


 瞬間、デルデノットは嫌な予感がした。そしてそれは見事に的中する。


「そこで、四番連隊に遠征を頼みたく――」


「嫌です。六番連隊じゃ駄目ですか」


 食い気味の返事からは、絶対的な拒絶の意志が表れていた。


「六番連隊を売るのかい? ははっ、やはり一筋縄ではいかないか」


 しかし会長だってそう簡単に退きはしない。それに、デルデノットへの対応にはもうすっかり慣れてしまっていた。


「報酬は2倍、いや3倍にしてもいい」


「そういう問題じゃないです」


 ここまでは計画通り、もはやテンプレートと化していた。デルデノットに何かを頼むときの恒例句。


「わかった。行ってくれるなら稽古に付き合おう」


 物では釣れない男だが、キッドとの戦闘訓練となると話は別だった。これを出すとほいほい付いてくる。


「ううん――― いや、それでも無理です」


 しかし今回は失敗した。デルデノットがここまで堅牢になるのも無理はない。船での遠征となると、魔領海を横断することになる。魔領海には特有の魔物が潜んでおり、船上でそれらの対処をしなければならない。


 船乗りはそういった特殊な状況下での戦闘に慣れているが、陸上での任務が大半を占めるパトローラーは、少なくとも四番連隊の隊員は全くと言っていいほどの未経験である。しかも連隊規模となると、複数の小型船での遠征となるだろう。指揮を行き届かせるのにも一苦労するのが予想される。面倒ごとを避けたいデルデノットは絶対に引き受けないであろう任務だった。


「そうか、それなら仕方ない。彼らには申し訳ないが、自力で何とかしてもらうとしよう」


 まさかの発言にデルデノットは困惑を隠せない。一体何を言っているんだこいつは、という目でキッドを見つめる。正義感強い会長が絶対に口にしないであろう発言であった。六番連隊を使うことができない事情でもあるのだろうか、だとしても見捨てるなんてことがあっていいのか。


「ええ? 会長どうしたんですか。問題発言ですよそれは」


 頑なに断り続けたデルデノットが言えたことではない。


「生憎今は手が空いてる隊がいなくてね。複数分隊で行かせることも考えたが、彼らが求めているのは恐らく、連隊規模の人員だろう」


「そうですか。わかりましたよ。四番連隊が行きます」


 会長の奇行に降参したデルデノットは、渋々遠征を引き受けた。

どうも。♦9です。世界観の解説って難しいですね。作品中で説明しようとするとどうしてもわかりづらくなってしまう気がします。とりあえず10話目までは書き溜めて投稿する予定なので、要望があれば11話以降で、番外編として解説回を設けようと思います。一応設定資料(笑)もあるので、様子を見つつ公開を考えていこうかという所存です。では。 ♦9でした。

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