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オイルタンカー  作者: げのむ
3/15

オイルタンカー 第三話 出港

 昨日に、投稿したと思ったら。できていませんでした。

 次回、いつになるやらわかりません。

 3


 真壁環が、オイルタンカーを護衛する仕事にもどったのは。メイリンから話をきかされた、3日後のことだった。

 今回、出港前に。真壁が、片切ヒロからきかされた指示は、次のようになる。

 中東の産油国へと向かうタンカーに乗り込んで。護衛の仕事を行いながら。マラッカ海峡にあるシンガポールの港まで行く。そこで船を降りる。

 そこから、船を変える。産油国で原油を積んで中東からの帰路にある別のタンカーに乗り込んで。護衛の仕事をしながら、また我が国へともどってくる。

 この内容に変更がある場合には、衛星電話を通じて、新たな指示を伝達する。というものだ。

 真壁が乗り込むことになるオイルタンカーだが。前述したように、タンカーの種類としては。30万トン型のタンカーに分類される。

 これより大きい、50万トン型タンカーがあるのだから。50万トン型タンカーを使う方が、一度により大量の原油を運べるので便利に思えるかも知れない。。

 でも50万トン型タンカーでは。船体の大きさから、最大喫水が水深20、50メートルのマラッカ海峡を通過できないのだ。

 50万トン型タンカーで原油を運ぶと、マラッカ海峡を使うコースよりも遠回りになってしまい。航海の日数が、2日から3日、よけいにかかってしまう。

 そこで我が国への原油の輸送には。ULCCでなくて、30万トン型タンカー。VLCCが一般的に利用されるのである。

 真壁が次に乗り込むことになる、次のVLCCのオイルタンカーは。シーバースで、ここまで運んできた33万キロリットルの原油の放出を終えて。すでに出港準備に入っていた。

 積んでいた大量の原油をすべて降ろしたので、水中に沈んでいる船体部分の高さである喫水線は、20メートルから11メートルに変わっている。

 この巨大船の移動にあわせて、小回りが効かないタンカーのそばにタグボートが付き添い。大型船が出航するまでの支援を続けている。

 その日。真壁が護衛として乗り込んだタンカーは、予定通りに出航をした。

 VLCCのような巨大船は、シーバースへの入港だけでなく、出港にも大変に苦労する。また出港がうまくいっても、それで作業が終わりにはならない。

 出港後は、タンカーの乗組員たちは作業班と当直班にわかれて、それぞれで出航中の分担作業にとりかかる。

 作業班は、甲板で、シーバースに接岸するのに使用していた係留ワイヤー20本の片付けを始める。

 係留ワイヤーは、長さが2百メートル、直径は42センチのワイヤーロープで。船をつなぎとめるのに使われる。

 作業班は、海水で濡れたこのこのワイヤーロープ20本を、防錆のために水洗いしてから、係船機のドラムに巻きつけていく。

 当直班は、タンカーの操船を担当する。

 彼らは、周囲の海上の監視とともに、この巨大船を操船して安全な沖合へと出す。

 またそのあいだ、機関士は。船体後部のエンジンルームやボイラーなどを見回って。なにか問題が発生したらすぐに対処できるように、警戒と準備を続ける。

 しかし、こうした巨大船を操船する苦労も、沖合いに出てしまえば一段落する。

 出航後3日目に。タンカーが大洋に出ると。それにあわせて、タンカーの操船は自動操舵へと切り換えられる。

 出航準備態勢が解かれると、乗組員である航海士たちは通常航海中の態勢となるので。思い思い好きなことができるようになる。

 彼らが次に忙しくなるのは、出航後7日目か8日目に、マラッカ海峡に入ったときになる。

 自動操舵を行うのは、船橋のブリッジにある自動航法装置と呼ばれるものだ。

 この装置は、あらかじめ設定された航路を。タンカーが自動的にたどるように船を操作してくれる。

 ほかにもタンカーのブリッジには、衛星航法システムや、電子海図や、衝突予防援助装置など、各種の電子機器が設置されている。

 タンカーときいて、船の設備や構造は時代遅れなものを想像するかもしれないが。危険物を扱わなければならないリスクから、この船には大金をかけた最新鋭の設備が用意されている。

 またタンカーは、その乗組員の数にも、特徴があらわれている。

 この巨大船の乗組員の数は、23名しかいない。

 船の操船だけでなく、航行中の船の保守や点検、修理や掃除といった、こまごまとした、いろいろな作業を。わずか20名あまりの乗組員でこなしているのである。

 真壁は出航前に、タンカーが襲撃される件をヒロに伝えると。石油会社と船会社が雇用したこの23名の船員の身許の調査を、ヒロに依頼した。

 ヒロからの報告は次の通りだった。

 調べてみると、ローン会社に借金している者もいれば。離婚後の慰謝料を必要としている者もいた。

 でもだからといって、正体不明の相手に脅迫されて、タンカーに爆発物を仕掛けるような犯罪行為に手を染める短絡的な者はいない。

 タンカーの航海士たちは、乗船中は責任がある仕事を引き受けなければならない。そう考えればメイリンが示唆したような、身許が怪しい危険な人物が乗組員のなかにまぎれこむのは難しいはずだ。

 それでも万が一のことを考えて。真壁はタンカーの護衛の合間に、タンカーの機関部に出向くと。爆発物が仕掛けられていないか、と調べてまわるようにした。

 メイリンがこの巨大船を襲撃する際に、買収した乗組員を使って船を足どめするとなれば。まずはここが狙われるはずだ、と考えたからだ。

 巨大船の後部にある機関部にやってきた真壁は、そこに設置してある大型エンジンの点検を始める。

 この巨大オイルタンカーを、前進させたり後退させる推力を生みだしているのは。全長14メートル、ピストンサイズは84センチもある。見上げるサイズの、これもまた巨大サイズのディーゼルエンジンになる。

 どれくらい大きいかのかといえば。点検で見回るための上り階段と足場が、エンジンの上部、中部、下部にそれぞれ設けてあるほどなのだ。

 なぜなら、そうしなければ。エンジンの上にあるピストン部分が確認できないうえに。整備や点検をしようにも人間の手が届かないのである。

 巨大ディーゼルエンジンは、最大出力で3万7千馬力を発揮する。

 毎分7千回転で、タンカーの船尾にある巨大なプロペラを廻す。

 それによりタンカーは石油満載時でも、約15ノット、時速28キロメートルで、航行することができる。

(ただしプロペラは低速回転する。高速回転させると、水の粘性の問題で逆に推進しなくなるためだ)

 調べてみたが、エンジンに。爆発物が仕掛けられている様子はなかった。

 機関室には、ほかにも重要な設備がある。

 タンカーは機関室に、荷役ポンプが3台、洗浄ポンプが1台、用意されている。

 入港時にエンジンが停止しているあいだは、ボイラーをたいて、その蒸気の力で各ポンプを動かして原油を下ろすようになっている。

 またタンカーには前述したように、ブリッジや制御室に、各種の精密機器や電子装置がある。だから当然、器機を動かすのに電気が必要になる。

 そのために、VLCCには通常。機関室に3台の発電機が装備されている。ほかにも非常用ディーゼル発電機もある。

 ディーゼル発電機は燃料の重油で動いていて、各種の器機を動かす電気を供給している。

 また、ボイラーがパイプラインを通じて蒸気を供給しており。蒸気の力でタービンをまわして、カーゴポンプやターボ発電機を動かしている。

 真壁は一通り、そちらも調べてみたが。メイリンが言っていた爆発物は発見できなかった。

「?」

 真壁の危惧や心配と別に。けっきょく、タンカーは。無事に東シナ海、南シナ海を抜けて。出航して7日後に、マラッカ海峡に入る。

 つまり、どういうことかと言うと、何事も起きなかったのだ。

 真壁は、シンガポールの港で、乗ってきたタンカーから降りて。去っていくタンカーを見送ってから、シンガポールの港で半日を過ごした。

 その後に、今度は、中東の産油国から原油を積んでもどってきた別のタンカーに乗り込んで。その船の護衛についた。

 真壁は携行していた、海保の巡視船との連絡用に使う衛星電話でヒロに連絡をとると。次に乗り込むタンカーの乗組員たちの身許調査についても、大急ぎで頼んだ。

 ヒロの返事は。そんなことがすぐにできるか。数日待て。だった。

 真壁は、けっきょく、次に乗り込んだタンカーで、やきもきしながら護衛の仕事を続けることになる。

 そこでようやく、真壁は、自分の考え違いに気付いた。

「……そうか。そうだよな。べつに最初の航海のときに襲撃してくる、と決めたおいたわけじゃないんだ。

 つまり、いつ襲ってくるのかわからないわけだ。いやそれどころか、準備したが間に合わなかったから、次回に延期する、なんて展開だってあり得る。

 ここは、基地局も無ければ電波も届かない、海の上だ。メイリンが、予定通りにいまから計画を開始する、なんて連絡をタイミングよくこちらの携帯電話には入れられない。衛星電話の番号は教えてないしな。

 つまり今回の任務のあいだ。おれは、いつ襲ってくるのかわからない状態におかれたまま、ずっとイライラしてなきゃならないのか……」

 真壁は新しく乗り込んだタンカーの甲板でそう自問自答をすると。目の前に広がる平穏そのものの海原を、恨めしげな顔で見やる。


 真壁はそれから。いつなにが起きるのか、それが起きたらどう対処すべきか、と思い悩みながら。

 海路を行くタンカーの上で、ただひたすらに耐えて待ち続けた。

 そんな真壁の心労や焦燥などお構い無しに。原油を満載した30万トン型タンカーは。南シナ海から東シナ海へと、予定された海上のコースを滞りなく航行していく。

 事件が起きたのは。タンカーが南シナ海に入ってから2日目の。ちょうど南シナ海のなかばにさしかかったあたりだった。

 最初にそれを発見したのは、海上の様子を2百キロ先まで確認できるレーダーだった。

 続いて、衝突予防援助装置が。当直の航海士に。

 タンカーの進路上に未確認の船がいる、と警告音とともに事態を知らせる。

 なにか起きたらしい、と真壁が気付いたのは。順調に航行していたタンカーがゆっくりと速度を落として。海上で動かなくなったからだ。

 真壁が連絡用に持たされていた小型無線機が鳴ると、ブリッジに来てほしい、と船長から連絡が入る。

 真壁はタンカーの甲板を徒歩で移動すると、船橋の建物に行ってなかに入る。

 エレベータに乗ると、6階まで上がり、そこから7階にあるブリッジまで階段で登る。

 ブリッジまでエレベータで直通で行けないのは、なにかあった場合にブリッジを守るためでもある。

 真壁がブリッジに入ると、集まって話し合っていた乗組員のうちで、真壁に気付いた船長がやってくる。

 船長は真壁に、なにが起きているのか、事情を説明する。

「こちらの進路を、大型の船舶がふさいでいます。

 VHS電話で連絡をとってみたところ、先方は。フィリピン船籍の底引き網漁船だ、とわかりました。

 航行中にエンジントラブルが発生して動けなくなってしまい、現在はフィリピンの沿岸警備隊に救助を要請中、とのことです」

「そうですか。それならばこちらが迂回をして、航行不能になっているその漁船をやり過ごせばいい。是非ともそうしましょう。それがいい。それで解決です。よかった。よかった」

 突然の船の出現に不穏な予感を覚えながらも、真壁は船長にそう提言する。

 だが船長は困った様子で、そうはいかないのですよ、と続ける。

 そのとき、ブリッジで事故を起こした漁船側とVHS電話で連絡をとりあっていた航海士が、緊張した様子でこちらに呼びかけてくる。

 VHS電話、国際VHS無線機とは。船ごとに開設される無線局であり。船はそれぞれの船に積んだこの無線局の無線機を通じて、たがいにやり取りができるようになっている。

 VHS電話の周波数には、チャンネルのように番号が付与されている。基本となる呼出しに使われるのはチャンネル16であり。このチャンネルで相手局を呼び出してから、自分が乗っている船名で相手に呼びかける。その後、種別に従ったチャンネルへと移動する。

 また、船舶局同士ならばチャンネル06に。海岸局と船舶局とならチャンネル20に。陸上の一般回線と繋ぐなら、公衆のチャンネルであるチャンネル26に、移動するように。そうルールで決まっている。

 国際VHS船舶無線機を使った緊急の連絡を受けた航海士は、船長にむかって大急ぎでその内容を告げる。

「船長っ、先方の××からの連絡によると。漁船の機関部で火災が発生したとのことです。乗組員の安全のためにも、漁船からボートでそちらのタンカーに人員を移動させてほしい、と。××が要請していますっ」

 航海士の報告をきいて、船長以下ブリッジにいた乗組員たち全員は色めきたつ。

 ブリッジの窓ガラス越しに遠くに見える漁船だが、いまの報告通りにたしかに火災が起きている様子だった。

 船から大量の黒煙が上空にむかって、もくもくと巻き上がっている。

 船長や乗組員たちが、双眼鏡を使って漁船の船上を確認する。

 乗組員らしい人影が走り回り、何人かは黒煙が噴出しているあたりにむけて手にした消火器の消火剤を噴射している。

 先方の漁船の様子を確認した上で、タンカーの船長は。指示を待つほかの乗組員たちに、次の提案をする。

 一刻を争う緊急事態であることだし。先方の要請に従い。漁船の乗組員たちを一時的にこちらの船に受け入れよう。

 乗組員たちは船長の意見に賛成するが、ブリッジで集まった乗組員たちとは少し離れて、切迫した顔と態度で静観していた真壁は。あわててそのやりとりに割って入る。

「ちょっ、ちょっと待ってください。おれはその意見には反対です。この船の護衛として言わせてもらいますが、安易に外部の人間を船に入れるべきじゃありません。

 せめてその前に、フィリピンの港湾局に連絡をとって、事故を起こした漁船の船籍を確認するべきです。

 まずは、そうしてください。どうか、お願いします」

「いいえ。事故を起こした漁船の乗組員たちの生命もかかっていますから、すぐに彼らを受け入れましょう。これは義務です」

「ですが。やはり、ここは……」

 船長は真壁を説得しようとするが、真壁は譲らなかった。

 けっきょく、タンカー側の船舶局から、フィリピンの地上局に衛星通信で連絡をとって。事故を起こした漁船の身許確認を行うことになる。

 ブリッジの中で真壁に賛同する者は皆無だった。

 だがフィリピンの港湾局から、そんな船は登録されていないし、救助の要請もされていない、と連絡がくると、驚きの声とともに、それは一変してしまう。

 こうしている間にも事故を起こした漁船側からは、しびれを切らした様子で。

 いつになったらそちらのタンカーに移動できるのか、とVHS電話を通じた要請がくりかえされる。

 タンカーの船長も驚きを隠せない様子だったが。担当している航海士のかわりに自分がVHS電話に出ると。そちらの要求には従えない、と相手に告げる。

 船長は、機関部の機関士に、エンジンの出力をあげてすみやかにこの場から離脱するように、と命令を出す。

 タンカーが動き出して、漁船を迂回して遠ざかっていくのを見て。相手が急いで逃げ出すつもりだ、と察知したのだろう。

 事故を起こして海上で頓挫していた漁船は、思い切った行動にでる。

 黒煙をあげるほどのエンジンのトラブルを起こして動けないでいたはずなのに。漁船は機関を始動させてその場で方向転換を行うと。離れていくタンカーのあとを追いかけるように向かっていく。

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