引退
今取られたので、ゲームカウントは3-3。
ファイナルゲームにもつれ込んだ。
相手があからさまな味方狙いを始めてから、常に劣勢。
3ゲーム目まではまだこちらにブッシングが飛んできていた。
が、そのゲームを境に、方針を固めたらしい。
俺の方にはロブすら上がらない。
威力を殺して、俺が取れないような軌道を徹底している。
安定性のない味方のミスを誘う形でしか得点されていない。
どうにかカバーへ行こうとするが、あからさまに出過ぎたら抜かれるのが落ちだ。
ゲームカウント3-2で後衛を変わろうと提案したのだが、大丈夫、と一言で流された。
口数も少なくなり、集中しようとする様子は見て取れた。
だが、自分が狙われていることへの不満や、力み過ぎて入らないことへの怒りがミスを誘発している。
いくら考えても、この状況を現実的に打開する手段が思いつかない。
そもそも、ここを勝ったから何に成るのだ。
さっきまで俺が目指していたのは優勝だった。
しかしこれでは、この先勝てるわけがない。
この試合に関しては、強引な攻めで足掻く事はできる。
例えばこの一本、自分のコースを捨てて決めれば、次のプレイから駆け引きが生まれる。
でもその後、結局、自陣を固める事になる。
次カバーに出る時は更に警戒される。
それでも出て、裏をかかれたなら。
この試合初めての、俺のミス。
俺のミス。
俺は今、この試合の自分の戦績を汚したくないだけなのか?
それだけのことで、試合を捨てようとしているのか?
久しぶりに出た大会、久しぶりのプレイ。
自分の実力が確かなものであると実感して、満足していた。
挫折で終わりたくないのだ。
自分にはまだ希望がまだあると思いたいのだ。
歓声が好きだ。
褒められるのが好きだ。
そんな自己満の結果だけを求めている俺に、勝ち上がる才能は無かったんだ。
味方のセカンドがネットに掛かる。
ファイナルゲーム3-7で、俺は初戦で敗退した。
もうソフトテニスからは足を洗おう。
高校を卒業した時よりも明確な意志で、そう思った。