試合開始
ラケットを手に持って、試合のイメージを続ける。
日差しは強く良い天気だが、5月の風はまだ冷たい。
体を冷やさないようにウインドブレーカーの上からダウンジャケットを羽織る。
体が蒸されて今にも汗をかきそうな俺に対して、サークルメンバーは「熱くないの?」と、理由がわからないというふうに聞いてくる。
軽く流して答えると、彼らとできる限り距離を取った。
とにかく集中だ、集中。
これだけ万全の準備をした自分が、どれだけ変わるのかを確かめてみたい。
現役の時よりも、上手くやれている気がするんだ。
それは、ブランク明けの時にも感じた。
多分、少し大人になったからだと思う。
例えば、今から中学英語を読み返したらどうだろう。
同じように、飲み込みが早くなっているのではないだろうか?
そんな事を考えていると、さっきまでプレイしていた目前の選手がネット際に集まっていた。
俺の前の試合が終わったようだ。
ペアの相手と合流して、ちょっとした雑談をしながらコートへ入る。
この大会はA・B・Cのリーグに別れており、このサークルはAへ出願をしている。
Aリーグはそれなりに強者が揃っている。
例えば今の対戦相手。
県内で中学で腕を鳴らした選手は、そのほとんどが高校で2つの学校へ招集される。
そのうちの片方、科学技術高校。
通称、科技高。
俺より1つ上の世代で、県ベスト8に入っているのを見たことがある選手の片割れ。
もう一人は分からない。
高校までの大会で見たことの無い染め色の茶髪、大学生だろうか?
まずはコイツラに勝てなければ、話にならない。
一つ気になるのは、俺のペアが奴らを、強そうだの、迫力が凄いだの、持ち上げるようなことばかり言う。
気にせずにやろう。
俺は勝てる相手だと思っている。
挨拶を交わしトスを回す。
こちらがサーブ権を獲得した。
1分の乱打が始まる。
落下地点を見極めて構えを取る。
力任せに打ってくる相手に対して、俺は相手コートの同じ位置に返球する。
コントロールを確かめる練習だ。
2度の相手のネットで時間を使い、レディーの声が上がる。
さあ、試合が始まるぞ。