表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき2

ホッチキス

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくはちじゅうなな。

 


「っぁ―」

 パチ―と、目が覚めた。

 瞬間、ぐい―と、体のどこかを押される感覚がした。

 痛くはない。多分。

 正直寝起きだから、感覚が少々鈍い気がする。

「―ん」

 また押される。

 ん。

 今度は少々痛い。

 ただの痛みではなくて、痛気持ちいい……みたいな。

「……」

 あぁ、思いだしてきた。

 やっと、頭の中まで血液が巡ってきた、ようやく。

 そうだった、そうだった。

「んぐ……」

 次は少々強めに。

 さっきから同じようなところを押されている。

 そんなに固まっていたんだろうか…まぁ、それなりに凝っているかもねぇとは問診をしながら言われたが。とは言え、そこまでひどくはないだろうと思っていた。

「……」

 何だったか……確か、仕事先でお世話になっている人……が。ここのチケットをもらったか何かで、わざわざくれたのだ。それが何か月か前のことで、使わずにいるのももったいないし。他の社員が子供の夏休みとかで有休を本格的に取り出す前に休んでしまおうと思って。

 まぁ、単に最近肩こり首コリやらが酷かったのもあるが。

 だから、ここにきたのだ。

 ―近所にできたマッサージ店に。

「……ん゛」

 寝落ちするほど気持ちよかったのか、寝てしまう程疲労が溜まっていたのか……はてさて。両方あり得そうだが。

 んー。

 どちらにせよ、寝てしまったこちらも悪いが、先程から無言で押してくるのはなぜなんだろう…。こういのって、もう少し会話があるものじゃないのか?

 いやまぁ、マッサージ店に来るのが初めてなので、実際どうなのかは知らないが。

「……ぐ」

 ……ホントに何も聞こえないな。

 押してくれている人も、起きたことには気づいていそうなのだが。

 喉から洩れるこのうめきが聞こえていないのだろうか…?

 痛くはないが…地味にさっきからその指圧が響く…。

「……っあ!?」

 聞いたこともない声が漏れた。

 いや、今の。

 なんだ。

 押されたところに、ものすごい痛みが走った。

 電気でも通したのかと錯覚するぐらいに、ビリリとした痛み。

 ―いや。それよりなんだ。何が起こって。こんな痛みが走る。心なしか、押されたところが熱くなってきている。

「―っぇ!?」

 同じような痛み。

 いや待て。声聞こえてるだろう。

 こういう時って、痛くないですかとか凝ってますねとか声がかかるもんじゃないのか。

 そんな無言で押し続けることあるか??

 ―いやもう、それより、ホントに、痛みが酷い。あつい。

「ったぃ―!!」

 というか。

 なぜこんなに痛みを感じていて、訴えていて、声が漏れているのに。

 自分の体が、ピクリとも動かないのは何だ。

 ナニカに固定でもされているのか?そんなことあるのかマッサージで。

 いやもう、これマッサージどころじゃないんだが正直。

 今すぐにでも施術をしている人の腕をつかんでとめたい。

 動きたいと頭では思っていても動けない。

 ―いや、動いたらいけない気がしているのかもしれないが。

「―っぐぁ!???」

 更に強い痛みが襲う。

 同時に、今まで聞こえていなかった音が響いた。

 ガチャンー!!という、何かを閉じるような音。

「ひぎっ!??」

 ザクン―!!!!!!!!!!

 と、肉が裂かれるような痛み。

 いや、さっきから走っているのはこの痛みだ。

 なぜ気づかなかったのだろう。

 絶対。

 指圧の痛みではない。

 確実に。

 何かが刺さっている。

 何が起こっているのか全く分からない。

 何が起こっている。

 どうして。

「――!?!?!?」

 いきなり、口を。

 綴じられた。

 バチン―と。

 響くうめき声が耳障りだから閉じろと。

 その時に気づいた。

 どうやら、うつぶせではなく仰向けに寝かされていたようだ。

「――??」

 襲う痛みで、ようやく。

 ホントにようやく。

 思考が冴えて。

 耳が冴えて。

 視界が冴えた。

「――?????」

 なんだあれ。

 何だコイツ。

 これは現実か?

 いやそんなわけ。

 なんだ。

 分からない。

「―――――――――

 ―――――――――――

 ――――――――――――――

――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――っぁ!??!?」


 ビクン―!!

 と、体が跳ねた感覚と同時に、バクバクと鳴る心臓の音が耳に響く。

 何もしていないはずなのに、なぜ腕がズキズキと痛む。

 唇も、心なしか血が滲んでいる気がする。

 無意識にかみしめでもしただろうか。

 全身から、嫌な汗が噴き出している。

「―――」

 心臓の音がうるさい。

 運動した直後でも、こんなにならないだろうに。

「―――?」

 しかし、なぜこんなに腕が痛むんだ……筋肉痛でもあるまいに。

 運動なんてここ何年していないか……。

「―――」

 ズキズキと痛む腕に、何か異変でもあるのだろうかと思い。

 布団の中に潜っていた腕を、目の前に持ってこようと動かす。

 ―と、何かが手に触れた。

 固い。

 なんだ?

「………」

 ちら、とそれを見やると。

 昨夜作業で使っていたホッチキスだった。使ったまま、放置していたようだ。

「……」

 なぜか。

 目に入った瞬間。

 嫌な寒気が全身を走った。



 お題:ホッチキス・マッサージ・夏

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ