コミカライズ再開記念閑話 皇太子殿下のお披露目式 レイミ視点
コミカライズ再開記念。掌編です。第十三話に1カットだけ出てきた女の子のお話です(笑)。
その日は父さんに連れられて家を出た。
「新しい皇太子殿下とそのお妃様のお披露目式があるんだ」
って父さんは言ってた。私は別にそんなのに行きたくはなかったんだけど、父さんは行くと振る舞い酒にありつけるからどうしても行きたかったらしい。父さんはお酒好きだから。
路地を歩いていると、同じ方向にみんなゾロゾロ歩いて行ってた。みんななんだかニコニコしていて楽しそうだった。お祭りみたい。実際、街のあちこちが飾り付けられていて、通り抜けた市場も賑やかだった。新しい皇太子殿下が決まるというのはおめでたい事らしい。
私は歩きながら左右をキョロキョロと見回した。結構家から離れたから、ここにならいるかもしれないと思って。
前によく一緒に遊んでくれたラルねーちゃんを探しているのだ。
銀色の髪と金色の瞳が綺麗だったラルねーちゃん。通りで遊んでいる子供達を見つけると来てくれて、追いかけっこをしたり的当てをしたり、お絵描きをしたりおままごとをしたりして遊んでくれたのだ。男の子とはレスリングとかチャンバラ遊びもしてた。
大きな声でよく笑って、子供達を抱きしめたり振り回したりしてくれた。弱いものいじめが嫌いで、男の子が女の子を泣かしたりしたらゲンコツで男の子を叱って必ず謝らせた。強くてカッコよくて、私もだけどみんなラルねーちゃんが大好きだったよ。
それが最近、ぱったり姿を見なくなった。みんな心配してあちこちを探したり人に聞いて回ったりしたけど、見つからなかった。父さんは「帝都は人の出入りが激しいからなぁ」って言ってた。突然人がいなくなるのは珍しくもないことなのだそうだ。
ラルねーちゃんに限って、わたしたちにお別れも言わずにどこかに行ってしまう事はないと思うの。そうしなければいけなかったなら、きっと何か余程の事情があったに違いない。それなら仕方がない事だとは思うけども、私はどうしてももう一度会いたくて、街に出るとこうして姿を探してしまうのだ。
皇帝陛下のお城の入り口前の広場は物凄い騒ぎになってた。
走って横断しようとすると途中で息が切れてしまうほど広い広場は、びっしり人で埋まっていた。出店もたくさん出ていて、お城の壁や周囲の建物には旗が靡き飾り付けられ、完全にお祭り状態だった。いや、普通のお祭りより凄いかもしれない。
父さんお目当ての振る舞い酒もあちこちで出されていて、みんなそれを飲んでは「皇太子殿下バンザイ!」って叫んでる。私もこれも無料だっていうパイを貰って食べながら歩いた。凄いなこれ。ラルねーちゃんお祭りが好きだったから、きっと喜んだろうな。お酒も好きだったし。
そうして父さんと手を繋いで歩きながら出店を楽しんでいると、突然ラッパの音が鳴り響いた。それまで騒いでいたみんなも口を閉じてお城の塔を見上げる。
「今日この善き日、皇子セルミアーネ様は皇太子殿下となられた。同時にお妃様であるラルフシーヌ様は皇太子妃殿下となられた。偉大なる皇帝陛下が全能神のご意志を踏まえてそうお定めになったのである!」
塔の上で立派な服を着た人がそう叫ぶと、広場の人たちがうわ〜っとどよめいた。耳が壊れちゃうよ。私は耳を防ぎながら、手を挙げて何やら叫んでいる大人たちの隙間から塔を見上げた。
するとそこになんだかキラキラした、七色の服を着た男女が現れた。見たことの無い服。周囲を旗を持った人たちに囲まれている。二人が塔から私たちを見下ろすと、派手な音楽が鳴り響き、それを打ち消すように広場の人たちも大きな声で叫んだ。
「皇太子殿下バンザイ!」「皇太子妃殿下バンザイ!」「帝国に全能神のご加護あれ!」「帝国バンザイ!」「帝国に栄光あれ!」
地面が震えるようだった。その熱狂に包まれながら、私は塔の上を一心に見つめていた。
白を基調にした七色の服を着て、頭には輝く冠を被っている。風が吹いて、銀色の髪がブワッと広がり太陽の光で輝いた。
……きれい。
女性なのだから、あれがお妃様、皇太子妃殿下なのだろう。顔まではよく見えなかったけど、あんなにきれいな人は今まで見た事がないと思った。多分お顔もきれいよね。そして、きっと笑ってる。
「皇太子妃ラルフシーヌ様バンザイ!」
誰かが叫んだ。そうか、ラルフシーヌ様というのか。きれいな名前。私も夢中で、手を叩きながら叫んだ。
「ラルフシーヌ様ばんざーい!」
その時、ラルフシーヌ様が手を挙げて、振った。歓声はより大きくなる。私も両手を挙げて振り返した。すると、ラルフシーヌ様の顔が動いて、確かに私の方を見た。笑った。
私は大興奮で飛び跳ねて、何回も何回もラルフシーヌ様の名前を叫んだ。家に帰ってからも興奮は冷めず、父さん母さんや兄さんたちにラルフシーヌ様がいかにきれいで素敵だったかを言いまくって、みんなに呆れられたのだった。





