サドのド変態
今回はサドのド変態の話です。
「聞きましたか。今日から新しいマナーの臨時講師が着任されるそうです」
「凄い美人らしい」
「楽しみだな」
子息達は新しい臨時講師の話で盛り上がっている。
「どんなに美しくても、私やダイアル嬢程ではあるまい」
「ナルカは兎も角、ダイアル嬢に関しては同意するよ」
「・・・・そうだね」
「エムル様、どうかなされましたか」
「元気がありませんよ」
「・・・・何でもありません」
「私が本日よりマナーを受け持つ講師のエスリ・ムエタイムです。皆さん、宜しくお願いします。それから一言だけ言わせて頂きます。私の授業中は私語は厳禁です。それでは授業を始めます」
「先生、質問が、ぎゃあああ」
子息の一人がエスリ講師に質問しようとしたら、突然悲鳴を上げた。
「私語は厳禁だと言ったでしょう」
エスリ講師がムチを手にしていた。
どうやらそのムチで子息を叩いたようだ。
「先生、何をするん、ぎゃあああああ」
「私語は厳禁です。何度も言わせないで下さい」
今度は抗議しようとした子息がムチで叩かれた。
「「「「「・・・・」」」」」
他の者は怯えて、無言になった。
こうして恐怖の授業は始まった。
「それでは本日の授業はこれまでとします」
「「「「「・・・・」」」」」
全員が無言で安堵の表情を浮かべた。
「何なのだ。あの講師は。まるでサドじゃないか」
「ムチで叩くなんて、狂暴過ぎます」
「・・・・そうだね」
「エムル様、本当に元気がありませんよ。やはりサ、エスリ講師が原因ですよね」
「・・・・そうです」
「そういえばあの講師はエスリ・ムエタイムって名乗りましたよね。エムル様の御親戚ですか」
「・・・・姉です」
「「「・・・・」」」
あのサド講師がマゾのエムルの姉。
衝撃の事実にカグヤ達が無言で、硬直してしまった。
私は既に知っていたので、平然としていた。
「ダイアル嬢、カグヤ嬢、お二人には明日の放課後から週に一度だけ私の特別授業を受けて頂きます」
ダイアルとカグヤはエスリ講師から生徒指導室に呼び出されて、特別授業を受けろと言われた。
「特別授業ですか。理由を説明して頂けますか。サド女王様」
「木登り令嬢、その二つ名で呼ばないで頂けますか」
「分かりました。お互い過去の黒歴史は封印した方が良いですからね」
「ダイアル様、サド女王様と木登り令嬢って何ですか」
「カグヤ様、世の中には知らない方が幸せな事があるのですよ。だからその言葉は忘れて下さいね」
「そうですね。それがカグヤ嬢の為ですよ」
「・・・・はい」
ダイアル様の背後に大猿が、エスリ講師の背後に般若の姿が浮かんでいるので、物凄い恐怖を感じてしまい、素直に従った。
「エスリ先生、改めて説明して下さい」
「分かりました。説明しましょう。ダイアル嬢は王妃として、カグヤ嬢は専属侍女兼側近として、将来は王宮で暮らす事になります。その為に王宮のマナーを身に付ける必要があるからです」
「まだ王妃になるのは決まっていません」
「専属侍女兼側近なんて、私は初耳です」
「これは国王陛下直々の命令なのです。拒否は認めません」
「「・・・・」」
ダイアルとカグヤは硬直してしまった。
私が将来ダイアル様の専属侍女兼側近になれるなんて、
まるで夢みたいだ。
一生ダイアル様のお側に居られるのは、大変に嬉しい。
あのサド講師の特別授業を受けるのは嫌だが、我慢しよう。
王宮のマナーは王妃の専属侍女兼側近としては必須ですからね。
今まではダイアル様が王妃になるのは反対だったのですが、これからは賛成しようと思います。
ダイアル様、ごめんなさい。
問題は他の四人にこの事が知られると、吊し上げられるのは確実だから、絶対に秘密にしておかないとならない。
「カグヤ嬢、ダイアル嬢の専属侍女兼側近候補に選ばれたそうだな」
「カグヤ様だけなんて、ズルいです」
「この裏切り者」
「恥を知りなさい」
「どうしてバレたのよ」
「これだよ」
「王宮新聞?」
『ダイアル様の専属侍女兼側近候補が選ばれた。イオニック侯爵家令嬢のカグヤ様だ。彼女はダイアル様の・・・・』
「・・・・」
完全にバレて~な状況だった。
「お待ちなさい。カグヤ様が裏切ったなんて、大変な誤解です。カグヤ様は昨日まで専属侍女兼側近の件は知らなかったのですから。カグヤ様を非難するのは私が許しません」
「・・・・分かりました。カグヤ嬢、済まなかった」
「・・・・ズルいなんて言って、ごめんなさい」
「・・・・裏切者なんて言って、本当に済まなかった」
「・・・・恥を知れなんて言って、反省します」
「分かってくれたから、もう良いわよ」
ダイアル様が庇ってくれたおかげで、助かりました。
ありがとうございます。
『新たにもう一人の専属侍女兼側近候補と三人の側近候補が選ばれた。ビアン男爵家令嬢のユリカ様とトスカーナ公爵家子息のナルカ様とムエタイム子爵家子息のエムル様とウソップ伯爵家子息のジョイ様だ。・・・・』
「「「「・・・・」」」」
「ダイアル嬢、やはり王妃になるべきです」
「その通りです」
「これでこの国は安泰です」
「王妃になられるなんて、名誉な事です」
「とても羨ましいです」
「・・・・」
五人全員が私が王妃になる事に賛成するようになった。
周囲の外堀が完全に埋められてしまった。
この裏切り者。