幼馴染です。え?もう違う?
これが初めて書く小説なので、
気楽に読んでいただけたら幸いです。
今日も同じ道を同じ人と並んで歩く。
私が通っている高校は田舎にあるごく普通の高校で、
ただ一つ違うのは隣に教会があり、生徒たちは毎朝そこでお祈りするのが日課である。
「ねぇ、優樹。昨日の宿題やった?」
「やったよ。簡単だったし」
朝、家を出た私は幼馴染と一緒に学校へ行く。
隣にいる幼馴染は高木優樹といって、幼稚園からの
私の一番の友達、まあ腐れ縁というものだ。
そして…
「何か奢ってくれるなら、写してもいいぜ」
「ちょっと!そこはタダで見せなさいよ」
そう少しむくれて言えば、冗談だ。と眠たそうに言った。
その顔を横目にしながら、私は少し頬を赤く染めた。
可愛い…
私はこの男が好きなのだ。
私こと木下麗奈は、幼馴染の優樹のことが気になりすぎてこれが恋だと気づいたのは中学2年の頃、ちょうど夏休みで
優樹が男友達とサッカーで汗だくになって、自宅に帰るより近いという理由で私の家にシャワーを借りに来た時だった。
いきなり来られて困惑していたらいつのまにかシャワーを
勝手に浴び(この時家には私以外ちょうど出かけていた)、
腰布だけをつけて服を貸してくれと言われたので、仕方なく
兄の普段使わないシャツとズボンを貸してあげた。
裸なんて兄がいるから気にならないはずなのに、
シャワーから出てきた優樹を見て、一瞬ドキッとしたのだ。
少し癖っ毛のある茶髪が濡れてへにゃっと垂れ、
まだ拭ききれていない少し鍛え上げられた細身の体が
なんとも言えない色気を出している。
ただでさえ透き通った琥珀色の瞳で人の目を引きやすいのにと私は思いながら、しばらく優樹が服を着終わるまで
ぽやーっと見惚れていた。
その頃から、優樹の一つ一つの些細な仕草や行動を
気にするようになり、あれ?もしかして惚れた?と
自分事にも関わらずはじめは何故こんなやつにと、
疑問系から始まり、さらに頭を使いすぎてもう投げやりな形でもう恋愛は本能だ!とパンクしそうになる頭で諦めた。
私は黒髪を肩下まで伸ばしたストレートにややつり目の特別美人でも不細工でもないごく平凡な容姿だ。
それに比べて優樹はモテる部類に入る容姿にも関わらず、あまり女子と話さず存在感をうまく消しているように思う。
それでもクラスに1人か2人は狙ってる子もいて、私が優樹の幼馴染というポジションにいても特に妬みや嫉妬で、
いじめられてはいなく、私自身もクラスの女子とうまく付き合っている。
林並木で周りを囲われている学校に着くとまず隣の教会に朝
のお祈りをする。教会の窓はステンドグラスで赤や緑や青などの色とりどりの模様を、外からの光でより綺麗に引き立たせ、私は来る度にそれに見入っている。
隣の優樹と共に普段の何気ない日常を心に思い描きながら
全ての事に感謝し、お祈りをする。
ここだけの話、優樹も私と同じ想いである事を願いながら。
つい昨日、優樹の事が分からなくなったのだ。
7月に入り暑くなってきたこの時期、学校帰りに無性にアイスが食べたくなり優樹とコンビニに寄り、私はオレンジのシャーベットに優樹はチョコアイス。
コンビニの外の壁に寄りかかりながら美味しそうに食べていた。
「そういえば優樹って好きな子いたっけ?」
「…さあ…いたらどうするんだよ?」
「どうって…一応応援する、かな?」
そう焦って内心ショックを受けながらもなんとか答えた。
「一応、ね。じゃあ見守っててよ」
見守っててよ。好きな子が誰かハッキリ答えずにあやふやな
答えのままそう言い放った。
(お前には関係ないって言われてるような気分)
気まずい空気のまま、私は黙々と残りのアイスを頬張った。
食べ終わり、ふぅとため息をつき地面を見ていたら
「麗奈、アイスついてるんだけど、ここ」
「え?うそ」
慌てて拭おうとしたら真っ先に優樹の手が私の頬にあたり素早く口横についたアイスを指で拭ってペロっと舐めた。
その流れをまるでスローモーションのように感じながら見つづけ、顔についたアイスを指で拭ってさらにその指を舐めた事に衝撃を受けた。
「なに、してんの」
「ついてたから」
真顔でそう答えられ、
(いや!じゃなくて!)と内心ツッコミをいれ、私は困ったような恥ずかしいような、なんともいえない顔をした。
「やめてよ、もう」と少し赤くなりながら言い、斜め下の方に顔を向けてできるだけ優樹に今の顔を見られたくなかった。
すると急に優樹が私の側まで詰め寄り、少し屈んできたので何事かとパッと顔を上げると唇に何かが触れた。
一瞬だったそれは、優樹が離れたところで口に触れたのが優樹の唇だった事がようやく理解でき、突然すぎてどう反応すればいいのか固まる事しか私は出来なかった。
「……」
「……」
お互いに見つめ合い、優樹は何かを探るように、
そしてなにか確信したような晴れ晴れとした顔に
なっていった。
「さっきの言葉、忘れんなよ」
「…へ?」
優樹はいつのまにか食べ終わったアイスの容器をゴミ箱に捨て、さっさと背を向けて行ってしまった。
それに慌てて私もついて行く。
(さっきの言葉って、、応援するって事だ、よね?)
(じゃあ、あのキスは?キスの意味は?)
それがつい昨日の事、私はもんもんと悩んでいた。
お祈りが終わり、いつもの授業を受け、昨日の事で気まずくなりそのまま帰ろうとしたらすぐ優樹に捕まった。
実は朝、優樹の出方を伺っていたけど普段通りに接してきたので、実はあのキスは無かった事になっているのではと疑い始めたのだが、それでもいつも優樹に隠していた恋心をあのキスでますます隠しきる自信を無くし、顔を見れなくなっていたのだった。
(そういえば昔、優樹にすぐ顔に出ると指摘を受けてから自分なりにうまく気をつけていたけど、無理!
絶対今顔が赤くなってる!)
「帰るぞ」と言われしぶしぶ下を向きながらついて行く。
とぼとぼ歩いていると、そういえば、と最近公開された映画があるから一緒に観に行かないかと誘われた。
「それ戦いものでしょ、どっちかっていうとコメディとか
恋愛もののほうが好きなんだよねー」
「あー、麗奈はそっち系だったよなー。うん。
麗奈に合わせるよ」と少し照れながら言った。
(え?今までこんな簡単に譲る事なんてあった?
今まではお互い譲れなかったら気がすむまで言い合いしてジャンケンまでしてたのに。
え?なんでそこで顔少し赤くなってるの?
意味が分からない……)
その後、気まずい事にはならずに、だけど慎重に様子をうかがいながら優樹と接した。
それから1週間ほど過ぎて私はある場面に出くわす事になる。
「好きです!付き合って下さい!」
そう告白されたのは誰あろう私の想い人だ。
よくドラマや漫画で見るように、校舎裏に呼び出されお決まりのセリフ、なのに私は気になってこっそり後をつけてしまったのが間違いだった。
そして、さらにショックな事を聞いてしまう。
「ごめん、付き合ってる人がいる」
何を言ってるのか衝撃的すぎて放心し、その後地獄に落とされたような気分だった。
(付き合ってる人いたんだ、へぇ〜、あれから1週間の間に
そ〜んなことが)
自分の知らないところで優樹が他の女性と付き合っていた事が信じられず、そして怒りさえ覚えた。
(一言ぐらいあっても良いのに)
しばらく放心し、それからのことはあまりよく覚えていない。
その日の帰り道、あの告白劇が頭から離れずにずっとボーッとしていたら、隣の優樹も私の少し暗い顔をチラチラ見ながらどうしたのかと心配するような言葉をかけてきた。
が、そんな言葉も耳に入らず、幼稚園から今までのことを思い直していた。
初めて声を掛けてた時の優樹の嬉しそうな顔、それから暇があれば私から優樹にちょっかいをかけ、少し困ったでも嫌々ではなく、そんな私にはいはいと付き合ってくれた。
いつも一緒で、むしろ隣にいることが当たり前だと思っていたのに…
(あ、これからこんな風に帰ることも出来なくなるかも
しれない…)
そう、彼女から一緒に帰ろうと誘われたら、優樹は
間違いなく断らないだろう
(優樹の隣は私だと決まってるのに…譲りたくないのに…
今さら告白しても駄目じゃない…
じゃあどうして私にキスしたの、どうしてあんな思わせ
ぶりなことしたの、いや、私がもっと先に優樹に告白して
いたら…どうして…)
自分への後悔から自分への怒りと悲しみ、そしてキスした優樹にも腹がたってきた。
右手で無意識に制服の裾を握りしめ、プルプルと震えていたら、地面に黒いシミが出来ていた。
なんだろうと思っていたそれは、間違いなく自分の顔から流れおちていったものだった。
「おい!麗奈!」と優樹が私を見てギョッとしたように言った
そしていつのまにか鼻がムズムズして鼻水が垂れそうになり、自分は泣いているのだとようやく気づく。
「へ?あれ?」
「どうしたんだよ、さっきから
なにかあったのか?もしかしていじめられたのか?」
「……」
「何かあったらすぐ俺に言えよ、仕返ししてやるから」
「…あ…たに…」
「は?」
怒りが爆発したように言い放つ
「あんたに怒りたいのよ!!だいたい何?いきなりキスしたかと思えば他の女と勝手に付き合いはじめて!
いつしたのよ!いつ付き合ったのよ!そういう大事な事はちゃんと私に報告しなさい!」
しゃべりだしたら次々と言葉が勝手に出てきた
「もう怒った。これからは何するにも先に言ってよね!
彼女とデートするなら、私よりそっちを優先すべきよ…
そうよ、先に言ってくれれば…」
だんだんと声が弱くなり
「うそ…いやだよ、先に言わなくても、デートも…キスも…
それ以上も…全部イヤ…」
「………」
「好き…だよ、大好きだよ」
「…っ!」
「こんなことなら先に言えば良かった…」
ポロポロと涙が止まらず地面に落ちていく
まともに彼の顔が見れずにいたら、ふと彼が近づき抱きしめられた。
「ごめん、麗奈が言ってくれなかったらこのままあやふやな
感じになってた。その、実はさ、付き合ってるって言った子、、麗奈のことなんだ」
それからおれも好きだよと言われた
「ん?どういう…こと…」
なにがなんだか分からず頭の中がすでに
オーバーヒートだ、、
「だから、、こないだのキスで麗奈の反応見たんだけどやっぱり麗奈も俺のこと好きなんだって、分かったから、 その、なんとなく付き合っていいんじゃないかと思って…
か、勝手に思ってたっていうかぁ?」
「………」
「悪かったよ。お互いの気持ち確認しようと、
タイミング見計らってたんだけど、なかなか言い出せなくて、、告白された時は気持ちだけ焦ってそう言ったけど、まさか聞かれるなんてな…」
ごめんと、また言われた
「ふゔぅぅ」
「麗奈!?」
一気に力が抜けて地面に膝がつきそうだったが、咄嗟に
優樹が抱きしめたまま支えてくれた。
もう彼の制服は私の涙と鼻水でべしょべしょになり、それでも構わず彼の背中に腕を回して弱々しく抱きついた。
周囲から見れば女が泣きながら男に抱きつく姿で、さぞ目立つだろう。
だけど、そんなことは私にとってどうでもよかった。
今、私はこれ以上ない喜びと安堵で胸がいっぱいになりベトベトの顔を上げ優樹を見上げた。
「よ、よがっだ〜っ」
彼が私の顔を見て一瞬驚いていたが、
すぐに微笑んでくれた。
「ゆ、優樹が他の女の子と付き合ってなくて、、
しかも私のこと、、好きだって…言ってくれて…」
ほんとだよね?と問うと、ほんとだよと返ってきた。
そうして私たちはしばらく好きだよと、何度もお互いに言いながら抱きしめあった。
「そういえば、キスした後に何か言ってよね、
何年も一緒にいるけど、そんな以心伝心できるわけじゃないんだし」とちょっと怒りたかったことを冗談ぽく告げる
「ほんとごめんって…麗奈なら分かるかなって、
自分に甘えてたんだ。
誤解を解いてたら今頃こんなに泣くことも…っふっ
くくっっイテッ!悪かったよ」
私が真剣に悩んで泣いた汚い顔を思い出したのだろう、
一発殴ってやった。
いつもの調子が出てきて戯れあっていたら、なんだかお腹が空いてきたので、コンビニに寄ることになった。
「俺アイス。麗奈は?」
「ん〜、パンかおにぎりにしようかな」
「なんだ、この間みたいにキスしたらちょうどオレンジと
チョコが合わさって美味しかったのに」
残念だと肩をすくめた彼を、私は顔を赤くするしか出来ずにいた。そしてさらにそれを見た優樹に嬉しそうに見つめられ、夏の日差しが彼を横から照らし、少し汗ばんだ
顔がキラキラと輝いているように見える。※私視点です
結局、何をされても自分は彼に弱いのだと思い知らされた
のだった