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祈りとは


「しかし……ヘルンメイルは変わったな」


 うっ……。


 一応貴族だけど、さすがに本物の王女様の立ち居振る舞いなんかは真似できない。


「そ、そうでもないと思いますけれども……ホホホ」


 真似できそうな部分として、わがままでヒステリーな女の演技ってどうすればいいんだろう。


 アルフレート様も、なんだか、怪しそうな表情をしている。


「わ、わたくし、赤い花よりも、青い花の方が良かったですわ!」


 わがままっぽいことを言ってみる。


 でも、アルフレート様は、フフッと笑っただけだった。


「いえ、やはりチャーミングになったかと思いますよ」


「ぐっ……」


 わたしは、その微笑みに乙女心を射貫かれる。


 くっそう、さすがに王子の微笑みはすごい。


 足が震えそう。


「きょ、今日は、お見舞いに来ていただけたのですよね?」


 視線を逸らすようにしてそう言う。


「そうなんだけど……少し話がしたかったんだよ」


「何故ですか?」


 用があるならそれを聞いてしまった方がいい。


 もう、すぐにでもボロが出そうで怖かった。


「祈りに向かう覚悟は付いたのかい?」


「…………」


 この、祈りって何なんだろう。


 アルフレート様は知っているみたいだから、聞き出してみようか。


「そ、そうですわね……祈りについて、もっと私に教えてくださいませ」


「え? いや……ヘルンメイルの知っている通りだよ?」


「それでもいいから、教えてください」


 ちょっと戸惑っている感じだ。


 今更そんなこと聞くのか? と言いたげだ。


「じゃあ、この国の開祖であるコスオラー皇帝は、征服王とも呼ばれるお方で、戦乱の中、多くの血を流したんだ」


「はい」


 それはわたしも知っているけれども、祈りになんの関係があるのだろう?


「そして、その流された多くの血の呪いで、この国は三十年で滅びる定めとなったんだよ」


「…………」


 それは習ったことがない。


 お父様やお母様も、知らないんじゃないだろうか。


「しかし、コスオラーの娘であるエウリュディケは、再び戦乱の世に戻さないために、平和の祈りを三十年捧げた」


「はい……」


「その祈りの力で、滅びの定めを覆し、国は存続したんだ」


 開祖って……神話の時代の出来事だよね?


 それをずっとつづけてきたって……。


「それを、今でも行っているんですよね?」


 アルフレート様は、冷静な目をした後、頷いた。


「ひとりの王女が三十年の祈りを捧げた後、次の王女が三十年の祈りを捧げる」


「…………」


「それが連綿と連なって、今の世がある」


「そして、次が私の番……」


「現在の女王の祈りは終わり、国政に付かれた。祈りがどれほど過酷なのか、それは代々の女王にしか語り継がれない」


「それで、この国は、ずっと、三十年周期で女王が交代している……」


「迷信が過ぎると思うかい?」


 魔術を習ったわたしが言うのも何だけど、迷信ぽいところはあった。


 でも、王女が嫌がるのは今回が初めてではない気がする。


「昔、他にも嫌がる王女がいたんじゃないかなと、思ってしまいます」


「そうならないように教育はするんだが……ヘルンメイルの言う通りだよ」


 そうだよね。


 じゃあ、やっぱりヘルンメイル様は、祈りが嫌で逃げたってことか。


「…………」


 わからなくはないかな……。


 三十年は長すぎる。


 連れ戻したとしても、祈りを捧げることなんて出来ないんじゃないのかな。


「やっぱり、ヘルンメイルは変わった」


「そ、そうですかね……?」


 もっと、わがままにしないと怪しまれるのかな。


 でも、わがままって、どうすればいいんだろう。


「お兄様、私に口付けをなさい」


 そう言って手を出す。


 臣下の礼みたいになるから、断るだろう。


 さあ、わたしのわがままに振り回されなさい!


 でも、アルフレート様はわたしの方に寄ってくる。


「えっ……?」


 そして……手ではなく、頬にキスをした。


「なっ、な、ななななな……っ!」


 頬にアルフレート様の唇の感触が残っている。


 爽やかな柑橘類の匂いも感じた。


 顔が真っ赤になっているのがわかる。


「元気そうで何よりだった、今日はこれでお暇するよ」


 部屋を出て行くアルフレート様を見送りもせずに固まっていた。


 扉が閉まると同時に、魔法が切れて元の姿に戻る。


「ほっぺだからファーストキスじゃないからね!」


 わたしは、枕を手に持つと、それを扉に向かって投げつけた。


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