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女王の謁見


 わたしは、ベッドの中に入ると横になってゲオルグ様と視線を交わした。


 うんと頷き合うと、ゲオルグ様が扉を開ける。


「ヘルンメイル、体調が悪いところに押しかけてしまって申し訳ないね」


 アルフレート様が部屋に入って来た。


「いえ、どうしたのでしょうか?」


「見ての通り、ヘルンメイル王女は伏せっている、急ぎでないのなら体調が戻ってからにして欲しい」


 アルフレート様は、いぶかしげにゲオルグ様を見る。


「なぜ、それをゲオルグが言うんだ?」


 まぁ、確かに。


 何か深い関係を匂わせてしまっている。


「ゲオルグはわたしを心配して、見舞いに来てくれたのです」


「そうか……」


 不信感はぬぐえないようだけど、取りあえずは納得してくれたようだ。


「女王様が謁見室でお待ちだ、辛いかも知れないが用意ができたら来て欲しい」


「病人だぞ? 横暴だ!」


 ゲオルグ様が抵抗している。


 女王様に謁見!? そんなの絶対に無理だよ。


「女王様のご意志だ、文句があるのなら、直接言うといい」


「くっ……」


「それでは」


 アルフレート様は、部屋を出て行ってしまった。


 あんなに優しそうだったアルフレート様なのに、身内には厳しいんだ。


 あまり、病人を気遣う風もなかった。


「クソッ、女王の操り人形が!」


 アルフレート様が出て行った扉を軽く蹴り飛ばす。


 上品さは欠片もなかった。


「あの、ヘルンメイル様は、本当に病気だったのですか?」


「調子は悪そうだったが、病気ではないかも知れん」


 みんな、それを見抜いているんじゃないだろうか。


 いわゆる仮病だと。


「しかし、何度見ても、魔術ってのはすごいな、家に代々伝わっているのか?」


 わたしをジロジロと見て、そんなことを言う。


 あまり見ないで欲しい。


「いえ、宮廷魔術師だった祖先が教えてくれるんです」


「は? 幽霊でもいるのか?」


 わかりやすく説明するのは難しいんだけど……。


「そうですね、幽霊みたいなものです、寿命とか超越しちゃってるんですよ」


 興味深そうにしているが、あまり詳しくは教えられない。


「ほぉ、なんで、お前の家は落ちぶれてるんだか不思議だな」


「もう、百年以上、魔術の才能のある子が生まれなかったみたいです」


「じゃあ、お前は才能があったってことか」


「どうでしょうかね、祖先の気まぐれかも知れないですし」


 あまり魔術が上達しているとも言えない。


 変身魔法しか使えないし。


「そうだ、幽霊だから、ここにも出てくるかも知れませんよ」


「なにっ!?」


 ゲオルグ様が、急にキョロキョロとし始めた。


 そして、伝説の魔女であるという宮廷魔術師の絵を怖そうに見る。


「なんだかメアリーに似ているな、気味が悪い」


 失礼な。


「着替えますので、出て行ってください。謁見室の場所を知りませんので、案内もお願いします」






 ドレスに着替え、謁見室の扉の前まで来た。


 衛兵がふたり立っていたが、わたしとゲオルグ様を見てすっと場所を空ける。


 そして、ぐぐっと扉を開けてくれた。


「ヘルンメイル様、ゲオルグ様、ご到着なさいました!」


「ありがとう」


 そう言って中に入ると、扉が閉められる。


 ゲオルグ様は、部屋の脇に並んだ。


 わたしは、緊張しながら玉座の下に歩いて行く。


 部屋に階段があって、少し高いところに女王様がいた。


「ヘルンメイル、祈りを捧げる心の準備はできましたか?」


 は? 祈りってなに?


 意味がわからずにゲオルグ様をチラッと見るけれども、何とかしろと言いたげな視線を返された。


 そういう話があるんなら、ちゃんと打ち合わせてくれないと口裏を合わせられないじゃないか。


 それにしても……女王様は、ちょっと年かさなお方だった。


 アルフレート様が十八歳くらいとして、二十歳で産んだ子供でも三十八歳だ。


 でも、どう見ても五十歳は超えている外見だった。


「どうしたのですか? 返事をなさい」


「あ、はい、えー……」


 つまり、ヘルンメイル様は祈りを捧げる心の準備ができていなかったんだ。


 祈りがなんだかはわからないけど、それが嫌で逃げ出したんじゃないかと思う。


 でも、嫌がっているのがバレバレだったから、こんな謁見してまで、女王様が聞いてきているんだ。


「その、まだ、少し心の準備が整っていません」


「いつまでかかりますか? 祈りの儀式まであと三日ですよ」


 えっ!? み、三日!?


 三日でヘルンメイル様は見つかるの!?


「も、もう少しお時間を頂ければと……」


「……具合は良くなったようですね」


 足でも引きずれば良かったか。


 わざとらしいが、コホンコホンと咳をしてみせる。


「そ、そんなこともないんですけれども……」


 王女の具合が悪かったのは事実のようだ。


 病気かどうかは置いておいて、具合が悪そうには見えたようだ。


 ゲオルグ様の屋敷を覗いたときも、少し衰弱していたような気がする。


「ふむ……ヘルンメイル、少し変わりましたか? ずいぶんと可愛げが出て来ましたね」


「そ、そうでしょうか、あまり、そう言われたことはないのですけれども」


「よろしいでしょう、下がりなさい」


 え、いいの?


 もしかしてバレた?


 でも、女王様がわたしを疑っている様子はない。


 まぁ、それもそうか。


 誰かがヘルンメイル様に変身しているなんて、思うわけがない。


 わたしは一礼をして部屋を退出する。


 ゲオルグ様がホッとしているのが見えた。


 この辺りの事情は教えておいてくれないと、合わせられない。


 無能王子め。


 でも、扉が閉まるのを見て、わたしもホッとしていた。


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