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浮気現場

ゆるゆるっとサクサクいきます!


『いいかい、メアリー? これは特別な力だ。

 お前が人生でどうしようもなくなったときにだけ、使うんだよ』


「はい、ご先祖様……」






 我が家は貧乏だった。


 いや、一応は貴族なので、本当に苦しんでいる人と比べたら、十分に裕福なんだろうけれど、家計は火の車だった。


「メアリー様、朝食の準備ができました」


「はーい、今行きますね」


 使用人の数は最低限だけど、質は高い。


 食事の内容も豪華ではないけれど、いつもとても美味しかった。


 本ばっかりの自分の部屋から出ると、家族が揃っているダイニングルームに行く。


「お姉様、おはようございます!」


「おはよう、ミッシェル」


 六歳の弟のミッシェルが、顔を輝かせている。


 姉思いのいい子だ。


「おはようメアリー」


「お父様、お母様、おはようございます」


 わたしが、自分の席に着くと、それを待っていたかのように料理が運ばれてくる。


「それでは、いただきましょう」


「いただきますーす!」


 今日も質素だけど、健康的で味もいい!


 でも、家族団らんの席は、そんないい気分とは無縁の話題になっていった。


「メアリー、ゲオルク様とは会っているの?」


「お母様の言いたいことはわかります。わたしも、噂くらいは聞いていますから」


 十二歳になったわたしは、正式に婚約を結べる歳になった。


 なんと、末席とは言え、王家の方からお話をもらったのだ。


 貧乏な我が家にとって、結納金だけでも目のくらむ金額になるだろう。


 貴族に生まれたからには、恋愛結婚なんてできない。


 小さな弟のためにも、頑張りたいところなんだけど……。


 そのゲオルグ様には、浮気をしているという噂が立っていた。


「我が家は、祖先が凄腕の王宮魔術師だった。その威光が、まだ少し残っているんだろうが……無理して結婚しなくてもいいんだぞ?」


 お父様とお母様は、心配をしているようだ。


 まだ結婚するには早いと、止められたこともある。


「大丈夫です、お父様。ゲオルグ様の心を射止めて見せます」


「無理をしては駄目よ、メアリー。あなたは、小さな頃からおてんばだったから」


「お母様、おてんばは関係ありません」


 お父様は控えめで、お母様はわたしに似ている。


 夫婦の形はいろいろだろうけれど、我が家はそれですごく上手くいっていた。


 最高権力者である女王様と、その夫である王配殿下がそういう夫婦だと知られているので、流行ったのかも知れない。


「今日、ゲオルグ様に会いに行ってみます」


「そうかい……気をつけて行くんだよ」


「外見を侮られたら終わりですよ。しっかりとおめかしして行きなさい」


「はい!」






 一台しかない、二頭立ての馬車でゲオルグ様の屋敷に向かう。


 留守だったら、それはそれで仕方がない。


 次はいつ伺いますと、言づてを残していけばいいだろう。


「うん? あれって……」


 ゲオルグ様の屋敷が見える場所まで行くと、先客が居ることに気が付いた。


 あれは、王女であるヘルンメイル様の立派な馬車だ。


「止めて!」


 わたしは、馬車を停めると御者をこの場で待たせる。


 ゲオルグ様の浮気相手とされている人は……まさに、ヘルンメイル様だったのだ。


 養子であるゲオルグ様とヘルンメイル様は、血のつながりがないけれど……まさか、本当に姉弟で浮気なんてする?


 わたしは、ひとりで屋敷の裏手に回ると、ゲオルグ様の部屋が見える木に登った。


 何度か、部屋に招待されたときに、あの木に登れば部屋がよく見えるだろうなと思っていた木だ。


 そして、身を隠すように木の裏側に回り、枝に足をかけて待っていると……ゲオルグ様とヘルンメイル様の逢瀬が始まった。






「婚約は破棄だ!」


 お父様が憤慨してそう言い放つ。


 わたしは、見た通りのことをそのまま両親に話していた。


「苦労することがわかっている相手に、娘を送ることはできません」


「ま、まぁまぁ、落ち着いてください、お父様、お母様」


 現場を見たときは、悔しさで頭がくらくらとしたけれど、わたしはもう落ち着いている。


 でも、両親が怒るのも無理のない話だった。


 こっちから願い下げだ! と婚約を破棄してしまいたい気持ちもわかるけれども……。


 我が家としては、王家の結納金を当てにしているところがある。


 ゲオルグ様を愛そうという気持ちは、きれいに吹き飛んでしまったけれど、そもそも王家の婚約を破棄することはできないだろう。


 女王が国を統治するこの国で、末席とはいえ、王子の妻は重要だ。


 浮気の件も、もみ消されてしまうかも知れない。


「取りあえず、様子を見ようと思います。あちらから声を掛けてきた婚約ですし、せっかくの王家に取り入るチャンスですから」


 悔しいけれど、立場はこっちが下だ。


 両親は納得できないという顔をしていたけれど、大丈夫、わたしは頑張れる。


 お父様もお母様も弟も、使用人のみんなも、わたしの肩に掛かっているんだから。


「来週のパーティーには王家の方も来られます、まずはそこでゲオルグ様の真意を確かめます」


「メアリーがそう言うならいいでしょう。でも、私たちはメアリーに幸せな結婚をして欲しいと思っていることを忘れないでね」


 親は、お金のことで、子供に苦労を掛けたくないだろう。


 でも、子供にだって、親を楽させてあげたいという気持ちがあるんだ。


 わたしは、来週のパーティーを待つことにした。


全十話のお話です。

一日に二話ずつ投稿していきます。

よろしくお願いします!

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