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05 救世の悪魔

「そろそろ、よろしいのかな?」


話の区切りを見計らって、カーテンの影から出てきたのは、赤をベースにしたスーツ姿の男。いや、悪魔だった。


顔立ちは整い、笑みは浮かんでいるが、その目は笑っていない。

背中に見える翼は紫色に染まっており、抜け落ちもあって貧相な地肌が見えている。

天使の翼ではあるが、蝙蝠の翼にも見える。


彼も、マリクアート・グージャス同様に、額に赤いラインを引いていた。


「我が名は【ガルド・ベリアル】。お前を助けた悪魔だ。ここは多くの人間が生活しているし、君達にとっても悪い所ではない。それに、私の労力を無駄にしない為にも出ていかない事をお勧めするがね」

「・・・・・・」


話の内容に長一郎は、口をあけて呆けてしまっていた。


「んっ?どうしたのかね?」

「・・あ、ああ、助けていただいて、ありがとうございますベリアル様。すみません、【悪魔】に助けられたってカルチャーショックに、混乱していまして」


長一郎が祖母の書籍で覚えている限りは、【ベリアル】とは、かなり高位だった堕天使だ。

巧みな弁舌を武器とした記述もあれば、地位や敵味方からの助力をもたらしたり優れた使い魔を与えてくれるとされるものもある。


神や仏は居なくても、悪魔は居るらしい。


「エクドの知恵袋たるグージャス殿の興味も深いらしいし、主に貢献していただけると、私の株も上がるというものだが」

「そうなのだベリアル殿。林君の持つ情報は、過去の者達とは比べ物にならない。原爆、宇宙飛行、公害、隕石、UFO、携帯コンピューターに携帯電話、人工知能にバイオテクノロジーと、まさに激動の歴史を知っている。百年でも話を聞き続けたいと思うのだよ!」

「その知識を少しでも再現できれば、エクドのお役に立てるのでしょうな・・」


グージャスとベリアルは、長一郎の有用性に意気投合している様に見える。


百年前の情報しか無いなら、確かに長一郎の話は有用かもしれない。


日本を含む【先進国】と呼ばれている国々は、細かい事を言えば、前百年間に起きた位の変化が、五年から十年位で起きている。

つまり、変化の発生度合いが年々加速しているのだ。



どの道、長一郎には選択肢があるとは思えなかった。


「死にたくはないので、公爵様・・エクド様のお役に立ちたいと思います」

「おお!それは重畳。エクドであるミドルド・ドラゴニア様もお慶びだろう」


彼等の主の名前は【ミドルド・ドラゴニア】と言うらしい。


「そうと決まれば、先ずは慣れてもらうに限る。儂かベリアル殿の配下を案内人に付けても良いが、林君には行方不明になった知人や親戚は居ないのかね?うちの領地に【林】と言う転移者の人間は居ない様なのだが?」


魔法で出した本を開いて話すグージャスに、長一郎は首を傾げる。


「知人や親戚に行方不明者が居ると、何か有るのですか?」

「うむ。知人や親戚が転移した場合、その関係者も近くに転移しやすい傾向にあるらしい。所謂いわゆる【因縁】や【血の導き】と言うものだ。君達の世界でも、完全に失われた法則性ではないと聞いているが、知らないか?」


確かに、確たる法則性ではないが、傾向はあると長一郎は思い当たる。


「確かに、少しはありますね。行方不明者と言えば、震災で行方不明になった曾祖父そうそふが居ますが・・・名前は【東加茂 憲明】です」

「【トウガモ・ノリアキ】?【トウガモ】が名字だな?」


グージャスは、本をぺラぺラと捲りだした。


「おぉ、やはり有ったな。【ノリアキ トウガモ】ヒノモト国男性のメイジ時代生れで間違いないか?」

「居るんですね?たぶん間違いないと思います」


異世界で驚愕の曾祖父と曾孫の対面である。

面識は無いが・・・


数時間して、案内人として呼び出されたのは、三十代の日本人男性だった。


勿論、その待ち時間もグージャスの質問責めは続いたが。


「ひ、ひい御爺さんですか?この人が?」


祖母の年齢を考えれば、ゆうに百歳は越えているであろう曾祖父が、自分の母親以上に若いのだから、受け入れられる訳もない。


だが、それは向こうも同じであったらしい。


「【林 長一郎】?この変な身なりの者が私の曾孫ですか?」


長一郎の姿は、メッシュの茶髪にパーカー。緑のダメージジーンズとクロックス。

今どきではあるが、明治生まれの人には奇異なのだろう。


「はじめまして。あかね婆ちゃんの孫の長一郎です。お話は婆ちゃんから聞いています」

「五才だった茜の孫か?もう、そんな時代になったのか。しかし、にわかには信じられんな。東加茂家の由来でも知っていれば、話は別だが」


長一郎が東加茂 憲明の事を知ったのは、小学生か中学生の授業の課題による物だった。

年配教師による『家系図を作ってみなさい』と言う宿題に、祖母である宮内 茜に聞いた時だ。


東加茂家の血をひく茜にとって、東加茂家の由来を後世に伝える機会は、数少なかった。


「あまり詳細は聞いていませんが、門外不出の様に言われているので概要だけを・・・」


そう言って長一郎は、憲明の耳元で小声で話した。


『加茂家一派、禁呪、追放、トガモノ』


ソレを聞いた憲明の目は、大きく見開かれ、やがて、細く懐かしむものに変わっていった。


「東加茂家の者に間違いない様だな」

「逆に【憲明】さんにお聞きしますが、息子さんの名前は?」

能収よしかずだ。そう言えば能収は、あれからどうなった?かなりの揺れだったが?」


【能収】の名前は、長一郎の母である恵子も知らない名前だ。

この人物が、憲明である事は、ほぼ間違いない。


それは同時に、この変な状況が陰謀やバーチャルではない【現実】である可能性を高めている。


「能収さんは、関東大震災で亡くなられました。生き残ったのは、茜婆ちゃんと母親の紀代さんだけだったそうです」


憲明は長一郎を抱きしめて、震えていた。

息子の死を悼み、子孫の存命を喜んで。


やっと、曾祖父と曾孫の対面が完了したのだった。


しかし、憲明は、はたと気が付く。


「まてまて長一郎。お前がここに来たと言う事は、東加茂家は滅びるのか?」

「憲明さ・・御爺さん。家名自体は茜婆ちゃんの時に終わっていますよ。血筋と言う面なら俺の妹が居ますから残っていますが」


憲明は、少し悲しそうだが口もとは笑っていた。

子々孫々の繁栄もだが、昔の人には家名が重要だった様に聞いている。


「親戚に間違いはない様じゃな?」


長一郎と憲明の様子を見て、見守っていたグージャスが口を挟む。


「では、この者の面倒は、御前に任せよう。時おり話を聞きに呼び出すが、世話を任せたぞ」


グージャスの命令に、憲明は頭を下げた。


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