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04 常世の世界

導師マリクアート・グージャスの話によると、約一万数千年前に長一郎達の住んでいた現世うつしよと、マリクアート達の住んでいる常世とこよは、分裂したのだと言う。


宗教や伝承にある神々や怪物、魔法や神通力と言ったものは、元の世界や常世に起因するものだと言うのだ。


元の世界の一部だけを切り取った様な長一郎達の現世は、多くの土地や物理法則を失い、順応できなかった物が多く死んだのだと言う。


そして、充分に分断できなかった二つの世界では、今回の長一郎の様に人や物の転移が起きるらしい。


過去にも、幾人もの転移者があり、これらの事は、その転移者達の話も合わせて考察された物だと言う。




こう言った状態の場合、先ずは自分の頬をツネって夢でないのを確認するのが一番目である。


次に全てを疑い、陰謀やドッキリ企画の存在を疑うべきである。

身体の異常も、何かの薬物を射たれている可能性がある。

バーチャルリアリティも発達している。


知らない環境や生物、現象が目の前に広がるからと言って異世界等を信じるのは、特撮変身ヒーローや宗教、楽で稼げる仕事を信じる子供か阿呆のやる事だ。


普通の正常な大人なら『疑え!』である。


だが夢ではなく、仕掛けも解明できず、VRゴーグルも外せない状態ならば、取り敢えずは『騙されたフリ』をするのが得策だ。

変な契約や引き渡しをしない限りは。


それでも、対応できなくなったら『自分は狂ったんだ』と思うしかないが。


「で、俺は、これからどうしたら良いんですか?」

「君を現世に帰すのは、不可能ではないが、我々の負担が大きい上にメリットが全く無い。ただ、事実として命を救った事を感謝しているのならば、我々のあるじに貢献して欲しいと思うのだ」

「貢献?と、言いますと?」


長一郎はマリクアートの『現世に帰すのは不可能ではない』の言葉を気にとめながらも話を続けた。


「この世界は、多くのグニクやイティ・リボン。君達の世界での王や貴族と言うものが支配している。我々の主でありエクド・・・公爵にあたるのか・・・その主は、いわゆる吸血鬼と呼ばれる種族で、力を維持する為に人間の血を必要とするのだよ」


吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になると言われているのは、オカルト要素を増す為である。

現世の物語でも吸血鬼の血を飲まされて吸血鬼になるのが本当らしい。


ましてや、この世界での吸血鬼に伝染性は無いとの話だった。


「つまりは定期的に献血せよと?」

「ありていに言えば、そういう事になる。実際には物理的な血液ではないので痛くも無ければ傷も付かない。自由になりたければ止めはしないが、その変換機は大事な資材なので、即座に返却していただくが」


つまりは『即座に死ぬぞ』と言う話だ。


「あまり、選択肢は無い様に聞こえますが?」

「命の恩人に報いないのだ。それなりに常識の範疇はんちゅうだと思うがね?」


話では、この世界の構成は中世の王国に近い。


最低限の生活空間と、外敵からの保護を保証する代わりに、血税と公的な命令に従う事だ。

ある程度の自由の範疇はんちゅうで、頑張れば豊かな生活が受けられると言う。


輸血が税代わりなのだから『血税』とは言い得ている。


悪い話ではないが、まるっきり信じている訳でもない。

だが、目の前の人間らしき老人が、嘘を言うかといえば否であろう。


「グージャスさんは、人間なんですよね?」

「儂は人間じゃ。全ての人間が、君達の世界へと渡った訳ではない。特に儂の様に術師の道へと進んだ者は、多くが、この世界に残っておる。儂は、それらの末裔で今年八百五十歳になる」

「はっ?八百歳で人間ですか?」


驚いた長一郎に、マリクアート・グージャスは首を傾げた。


「君達の神話でも、人間が千歳近くまで生きていた話が残っていると聞いているが?確か【ばいぶる】とか言う書物だったか?」


言われた長一郎は【バイブル】。つまりはユダヤ系神話の聖書【創世記】の部分を思い出した。


原初の人間であるアダムをはじめ、ノアまでの人物は、九百歳越えが普通である。


この世界と言うか、本来の世界では人間の寿命がソレほどならば、先に言っていた【首輪が外せるまで八十年】と言うのも長いうちに入らないのかも知れない。


そう考えると、世界が分断した一万数千年前と言うのは、地質学的には【最終氷期】が終わった時期であり、有名な話だとアトランティス大陸が沈んだとされる時期だ。


つまりは、大規模な気象変動や地殻変動が起きたであろう時期なのだ。


世界の分断が、人間世界に各種の変動として爪痕を残しているのだとすれば、とんだオカルトネタだ。


大洪水で有名なノアから後の世代は、急に寿命が短くなる記述がある。


「出ていくにしろ、居残るにしろ、体力が戻るまでの間、そちらの世界の状況を話してくれないかね?それで、これまでの対価としようじゃないか」


確かに、今までの大半が、この【常世】に関する話ばかりだった気がする。

グージャスは、長一郎の世界の情勢や紛争から、環境破壊、科学技術、果ては食べ物の流行まで興味深く聞いてくる。


「この領内に人間が転移してくるのは百年ぶりくらいになるからな。次の転移者の為に、常識の差異を埋めておきたいのだよ」


確かに後々には有益で、対価としての価値はあるのだろう。

常識の行き違いで敵対し、せっかく助けた人間を無駄死にさせては元も子もない。


今回は比較的に良好な接触だったと言えるだろう。


「しかし、なんで俺が、こんな目に会わなくちゃいけないんだ?」


長一郎は愚痴りながら『神も仏も無いものか』と思うのだった。





××××××××××


最終氷期(さいしゅうひょうき、Last glacial period)

およそ7万年前に始まって1万年前に終了した一番新しい氷期のこと。

この時期は氷期の中でも地質学的、地理学的、気候学的にも最も詳しく研究されており、気温や、大気・海洋の状態、海水準低下により変化した海岸線など緻密な復元が進んでいる。


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