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39 放たれし者

ミストレア達が馬車を離れてから、長一郎は馬車内の飲物をガブ飲みしだした。

国境を越えてからは、なるべく水分補給を控えていたのだ。


ここで水分を補給している表て向きの理由としては『先の攻撃に恐怖して、落ち着きたかった』と言うのを用意している。


そして、広い馬車の中で少し運動をする。


大量に飲物を口にすれば、当然に下から出る。


長一郎は、少し尿意をもようした段階で、馬車から降りて回りを見回した。


「あのう~すみません。トイレはどうしたら良いですかね?」

「トイレ?そんなの自分で・・・・あぁ、そうか。御前は自分で始末を出来ないんだったな」


長一郎に相談を受けた護衛の蜥蜴人は、長一郎の首輪を見て天を仰いだ。


この世界の人間や蜥蜴人は、自分で飲み水を作る事ができる。

当然、体内の便も処理する事ができる。


村では肥料化する為に排便もしていたが、基本的には魔力で処理する。


だが、まだ転移から日が短い長一郎には無理で、それは首輪が物語っていた。

シーヴァス領に入るまでは、森や岩影があり、そこで、こっそりと用を済ましていたので、護衛の蜥蜴人も失念していたのだった。


これは治癒魔法や体内への攻撃魔法同様に、他者が処理してやる事ができない。


「これだから人間は・・・仕方ない。少し我慢してろよ」


蜥蜴人は眉間を押さえ歩きだし、都市側の警護に頭を下げて相談しはじめた。


現世の人間社会なら、施設の駐車場近くにトイレがある位は当然だが、行動の全てをロボットが代用している世界には、トイレは必要無い。

ましてや、常世の知性体は先の様な理由でトイレを必要としない。


そして、空中都市には地上の様な草むらや土は存在しない。

植物は水耕栽培で育てられていて、異物の混入を許さない。


「コイツの為に無理を言って申し訳ありません」


ミストレア達が不在の間の【長一郎の管理】は、護衛である蜥蜴人に任されている。


結局、蜥蜴人と現地警備員の同行で、各署に許可をとってもらい、廃棄物処理施設まで案内してもらって長一郎は用を足した。


「あ~っ、漏れるかと思った」

「とんだ厄介者だな、御前は!オムツでも用意しろ」


悪びていない長一郎に、蜥蜴人は持っていきようのない怒りで、強く拳を握った。


用を足した長一郎は、蜥蜴人の不満そうな態度を確認してから、早々に馬車へと逃げ込む。


「ここまでは、計画通りだな」


そう言うと長一郎は、馬車に持ち込んでおいた、自分のバッグの中身を確認する。


「飲み水、食料、医薬品、防寒着、ナイフ、スマホ・・・大丈夫だな。全部揃っている。あとは、帰ってくるのを待てば・・・」


バッグを部屋の隅に置くと、長一郎は馬車の窓に張り付いてミストレア達が帰ってくるのを待った。


トイレの手配で時間が掛かったので、長一郎の待ち時間は長くはなかった。


待っていた護衛の蜥蜴人から話を聞いたティラナが、尻尾を地面に叩き付けながら馬車へと向かってくる。


「出ろ、この人間風情が!ミストレア様に恥をかかせよって!」


大声で叫びながら、馬車のドアを開けて長一郎を引きずり出した。

横ではミストレアがうつ向いて顔を片手で覆っている。


ティラナは馬車から長一郎のバッグも引っ張りだして、地面に転がされた彼に投げ付けた。


「貴様など側に置いてはおけぬ。早急に出ていけ!」


あまりのティラナの剣幕に、他の蜥蜴人だけでなく、都市の警備員も引いている。


「大変申し訳ないのですが、ココに放置されては、困るのですが・・・」


人間を含む他の生物を食料とするシーヴァスの者達も、野良人間なら兎も角、一応は特使所有だった人間を、その目の前で狩る訳にはいかない。


シーヴァス側の言葉に、顔を隠したままのミストレアが口を開いた。


「護衛用のバイクを一台くれてやる。何処となりと行くが良い」


そう言うと、ミストレアは馬車へと乗り込み、ティラナが長一郎を睨みながら後を追って扉を閉めた。


「だって、仕方ないじゃないか!どうしろって言うんだ?」


愚痴を溢しながら身を起こし自分のバッグを拾って、怪我で乗り手の居ないバイクに長一郎はまたがった。


こんな所で放逐されては、すぐに誰かに襲われて命を落とすだろう。


蜥蜴人の中には、同情の念をいだく者もあるが、『当然だ』という顔で見ている隊長のディーガの手前、何もできなかった。


「世話になりました」


投げやりに言い放って、バイクを走らせる長一郎は、少しぐらつきながらも、何とか空中都市を後にした。


その笑顔を、蜥蜴人達に気付かれる事も無く。


「さぁ、御荷物が一つ減ったぞ!みんな作業に戻れ!」


ディーガが尻尾で地面を叩き、護衛達に渇を入れて、隊列は再び動き出すのであった。





馬車の中では、防音魔法を掛けて、ミストレアが震えていた。


「クックックッ・・・ブッブッハハハハハハッハハハハハハァ~ッハハハハハハ!」

「ミストレア様。笑いすぎです」


ミストレアは、涙目だ。


「ティ、ティ、ティラナぁ~あっは、ハハハハハハ」

「ずるいですよ。顔を隠して笑いを堪えるなんて」

「ティラナ最高よ!名演技、名演技」


つまりは筋書き通りと言う訳だった。


「しかし、長一郎は大丈夫でしょうか?」

「クックックッ、奴にはバイクを与えた。あれは速いし剣も付いておる。それに、これ以上は無理じゃしな」


一応は敵地である。ミストレア達にも出来る事の限界はある。


「現世到達の成否は、どうやって確かめるのですか?」

「あちらには、自由にできる手駒が居るでな。現世側の【南極大陸】とやらに着けばニュースになるじゃろう。成功すればグージャス経由で知らせがくる事になっておる」


ミストレアが現世へと精神体を飛ばした事は、城の大半が知っている。

勿論、ティラナもだ。


「あとは、待つだけですね」

「そうじゃな。だが、その前に目の前の仕事を片付けなければな」

「はいっ、姫様」


馬車は次の空中都市へと向かっていた。


次回、最終回

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