31 エルフの森
短いですm(._.)m
獣の奇襲がない時でも、隊列が休憩の度にティラナと長一郎の鍛練は続けられた。
主に対人戦闘で、これには多少の魔法戦も混ざっている。
「そうだ。魔法を使わせない為には、相手に集中させる時間を与えるな。範囲攻撃に備えて、常に移動をし続けろ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・」
移動しながら右手で石つぶてを拾っては投げ、不定期に左手の剣で斬りかかる長一郎の息は、返事をする余裕もなくあがっていた。
ティラナの方は、それらを避けながら、長一郎を後方へと追い詰めていく。
鍛練の回数を重ねる毎に、上達はしていると思うが、まだまだティラナの足もとにも及ばない。
そんな彼女の追撃も、長一郎の後退が近くの森に差し掛かった辺りで止まった。
「よし。今回は、これくらいにしておこうか」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
地面に腰をついた長一郎は、息をきらしながら天を仰いだ。
バテバテの長一郎を見下ろしながら、ティラナに笑みが浮かぶ。
何度も見ていれば、異種族の喜怒哀楽も読み取れる様になるというものだ。
ティラナの表情を確認して、自らの成長を感じていると、長一郎は後方の森の奥に何か動く物を感じた。
「あれっ?森に、・・・人が居た様な・・・」
「ああ、あれは森人だ。危険だから、森には入るなよ」
長一郎は、ティラナの言った『エルフ』と言う言葉の翻訳に違和感を覚えた。
翻訳は基本、認知している事柄の中で一番該当しているものに変換されるが、差異の具合が違和感として使用者に感じられる。
「エルフって危険なんですか?」
「栽培されている物は有益な面も有るが、野生の物からは種を植付けられかねない」
「エルフが種を?」
ティラナは長一郎に休む時間が必要だと感じて、話を続ける。
「森人は知性を持つ樹木魔物の一種だ。奴らは子株を近付く動物に擬態させて、親樹の近くに誘き寄せる。親樹の下に来たところで、枝から矢の様な種を落として、動物の身体に突き刺すのだ」
「エルフと言うよりトレントですね?」
「・・・・・?」
ティラナが首を傾げる。
恐らくは、『森人と言うより森人ですね』と翻訳されているのだろう。
「翻訳の差異です」
長一郎が首輪を指差すと、ティラナも理解して頷いた。
現世でも、マングローブなどが鋭い矢の様な種を落下させて繁殖する。
もっとも、マングローブは地面に突き刺さりやすい様に、その様な形なのだが、動物に刺さって移動すれば、繁殖範囲が広がると言える。
種が鉤状のトゲを持ち、動物の毛皮や人間の服について移動する植物の種も有るのだ。
そして、この世界の植物には、動物に寄生して養分として喰い潰すものが居るらしい。
「でも種が刺さったら、動物も、その場で抜きますよね?」
「森人の種は、抜いても核が動物の体内に残り、内部を蝕んで成長するんだ。刺さったら肉ごとえぐらないと、やがて内部から全身を喰われるぞ」
長一郎が知る現世でのエルフ伝説には、森に住み金属を嫌い、長寿で矢を得意とするものがある。
ドワーフと異なり、知性はあるのに道具や文明を嫌うのには疑問が浮かんでいたが、植物の擬態であるならば、納得がいく。
森から離れないのも、生存圏の関係だろう。
誘っているのか、しきりに全裸の女性の姿が見え隠れしているが、長一郎は無視して馬車へと歩みを始めた。
「で、ティラナさん。エルフの有益な面って、何ですか?」
「今、話した通り、森人には優れた感知能力があるので、広範囲の監視が可能だ。侵入者は勿論、長一郎達の様な転移者や転移物を見つけるのにも役立つ」
「レーダーみたいな物か?ああ、それで、すぐに救助に来れたんですね?」
長一郎の体感でも、転移後から救助まで一時間も経ってはいない。
もしも遅れていれば、長一郎は生きてはいなかっただろう。
「じゃあ、エルフが居れば、近付く動物や敵とかが感知きるんですよね?なんで、この隊列に居ないんですか?」
「ああ。使えれば便利な奴なんだが、安定した【栽培】には大量の水が必要なのでな。城の様な施設でしか使えないんだよ」
猪が家畜化されて豚になったと聞く。
エルフも、水耕栽培しないと樹木になるとかして使えないのだろうと長一郎は感じた。
だが、雑誌などの娯楽が無い、この世界では、たとえ贋物でも異性の裸は気になる。
長一郎が時々振り返るのは仕方無いのかもしれない。
「おいっ、死にたいのか?」
ティラナが長一郎に声を掛ける。
「わかってますよ。気にしていたら、樹になるんでしょ」
「そうだ!」
日本語のシャレは、上手く翻訳されないようだった。
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