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29 領外の世界

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「おやっ?やけに元気だな?」


皆が軽食をとっている所に戻った長一郎は、他の人間達に声を掛けられた。


吸血鬼に人間が呼ばれれば、精気を吸われて帰ってくるのが、この世界の常識だ。


「いや、新入りだからって【御貴族様の御戯れ】に付き合わされただけさ」


長一郎の返答に、同じ村に住んでいる者達が頷く。

毎月の様に城へと呼び出されている長一郎は、昨今の村では、かなり目立った存在だ。


現世より娯楽の少ない常世では、新入りのもたらす現世の情報や話は良い娯楽となり、それを再現した【御戯れ】に付き合わされる事は、転移してきた人間皆が体験する『毎回の恒例』と言うわけだ。


周囲の者から同情の目を向けられつつ、長一郎は馬車の近くに店を開いた配膳当番の元へと向かう。


クッキーの様な保存用軽食と、木製のコップに入った水を受けとる為だ。

この世界での物質的元素の一つとされる【水】は、魔法が使えれば大気中からでも容易に得られるが、魔法属性に得手不得手がある為に、村では能力による当番制が行われている。


実際、長期移動に際して、必要性と消費量と重量を天秤に掛けた時に、水の携帯が省ける事の重要性は大きい。


現世でも、遭難時に一週間食べなくても生きていけると言われているが、水分は数日で脱水症状を起こして死に至ると言われている。


入れて、出してを済ませた長一郎は、ろくに背中を伸ばす暇もなく、また馬車に乗り込まなくてはならなかった。



領地から出るのは始めてだったが、馬車から見える常世の風景は、現世の中世と大差ない。

空/地球中心部側/が夕日の様に赤っぽいだけで、森なども現世同様に有るので、空さえ見なければセピアカラーの古い映画を観ている様な錯覚に陥る。


しかし、この地球には海が無い分、酸素の生産量が少ないらしい。


現世地球の表面積の七割を占める海は、広く深く植物性プランクトンが生息しており、海藻類と共に酸素を生み出している。

樹木よりは酸素生産能力は落ちるが、地上の様に砂漠や岩場の様な不毛地帯が皆無な為に、その酸素生産能力は名実共に地上の動物をも支えている。


常世の大地の裏側/太陽側/には森林地帯も有るそうだが、シダ類の植物が大半で、現世で恐竜と呼ばれた大型生物の子孫達も多いので、余分な酸素量がある訳でも無い。


植物の減少や動物の増加により酸素が減ると、大気中の魔素割合が増えるので、動物全般の凶暴化が発生して戦争や暴動、共食い等が起きて動物の数が減る。

結果として喰われる植物が減って酸素量が回復するというバランスシステムが、常世の自然環境を守っている。

更に、鉱物資源に乏しい常世では、現世で言われている『機械化』は、多くの面で難しい。


故に、その環境や文明レベルは中世程度から発展しにくい。

そんな事を、グージャスから聞いた話と実際の外界を見て、長一郎は思う。


現世の物語りにある転移転生物では、異世界が中世前後の文化レベルである事が多いが、全ての人間が魔法で楽をできる訳でもない世界で、機械や技術が発達しない訳がない。

ましてや、この地盤の薄い【常世】の様に、鉱物資源が限られている訳でも大気汚染を気にしなくてはならない状況でもない。

勿論、魔法と科学技術が統合された作品も無くはないが、完全中世風の物が圧倒的に多い。


「小説とかでは、特に『雷の様に電力は有るが、磁力が存在しないのでモーターなどの動力が使えない』などの記述は無いし、転移転生先が中世設定なのは、単に主人公のチートさを際立たせる御都合からか?できれば俺もチート能力が欲しいよ」


長一郎のぼやきに、現世から来た人間達が苦笑いをする。

『チート』の言葉は、翻訳機が上手く『祝福』や『加護】に変換しているらしい。


最近のラノベに限らず、ギルガメッシュやアーサー王、桃太郎など、一部にチート能力を持った主人公の物語りは存在する。

チート童話は、昨今だけの流行りではない事に、長一郎は認識を新たにした。


「私も現世では神に仕える身でしたが、実際には『運』だけで、この様な場所に送り込まれるのでは、信仰の力など妄想だったのでしょうね」


そう口にする隣人を見ると、頭頂部の毛が淋しい人物だった。

恐らく、歴史で習う【フランシスコ・ザビエル】の様にトンスラと呼ばれる断髪をしていたのだろう。

長くトンスラをしていると、紫外線で毛根が痛むという話を聞いた事があった長一郎は、彼の外観と言葉から経歴を察した。


宗教関係者の愚痴を皮切りに、長一郎は【神】と呼ばれる存在を考えた。


見上げれば、その【神】の恩恵と言われている赤い太陽が見える。

この世界での【神】は、全知全能で慈愛に満ちた存在ではなく、極めて感情や意識体に近い我が儘な存在だ。


下位の存在は、その【神】を補佐したり補ったりする立場にある。

知識や判断に関しては、物質に依存するところが大きいので、その様な関係【カースト】が成り立っているのだろう。


移動する馬車内での時間潰しに長一郎は、その元聖職者と現世の【神】について話をした。


「多くの宗教で絶対的【神】を論じるのは、『人間自身や世界に存在している物が、なぜ存在しているのか?』という疑問に端を発していると見て間違いがない」


宇宙の起源同様に【神】も、その更なる起源を求める行為は、あえて思考停止をする傾向があるのは、お笑い草としか言えないが。


「ですが、そうして【神】と呼ばれる者達は、万能と言われているにも係わらず、多くの下位の存在を造り出しているのは何故なんでしょうね?正直、不要でしょ?」


ある者は無から。

ある者は土から。

ある者は水から。

ある者は子として。


高位であり万能の様な【神】は、なぜ下位の存在を造り出したのか?

必要としたのか?


「北欧神話の『他の神と戦う為の軍隊として』と言う一部の者を除いては、その真意は殆んど語られてはいないですね」

「そして、その【神】達は、万人に明確な姿を示す事が事実として無い。それ故に、宗教においても人間は、その存在理由を確信できず道を踏み外してしまうんでしょう?」


長一郎の言葉に、元聖職者は苦笑いをする。


創造主が姿を現し、力を行使して生きる道を説いたなら、人間は無闇な争いをすることが無いのだろうに。


宗教家は『それは試練だ』と言うが、そもそも全知全能な存在が、望む人間を作れていない段階で、その能力に穴がある肯定となる。


単に【相反する対称的存在が必要だった】と言うなら、創造主に我々被創造物に対する【愛】や【慈悲】は存在しないだろう。


「小説家の様に、造り出した登場人物を苦しめるて『展開を面白くする為』であれば、創造主とは依怙贔屓な我が儘な快楽主義者と言う事になるりますよね?」


まさに、その様な生い立ちの元聖職者は、既に信仰心を失っている。

彼の信仰心も、ここでの献身も、この常世から現世へ戻るリスクの対価には遠く及ばないのだ。


先の問題に戻るが、創造主が伝承にも残り、過去に言葉を交わしたのであれば、我々を創造した理由を告げないのは『被造物に言えない内容の理由』だったか、『祖先達に理解できない、伝承もできない内容』だったか、『伝えるのが躊躇われる内容だったか』の三択だろうが、不可解な造形すら必死に伝えようとした神話において、二番目の『伝承もできない内容』は無いだろう。



「まぁ、論理的思考からすれば、世界の戦争の半分以上が【宗教戦争】であると言う現実を踏まえると『神々が存在しているならば、人間達を造った目的は娯楽である』という結論に至るんですよね」


長一郎が言う、その結論に達する人間は、決して少数派ではない。


逆に【神】と呼ばれる存在が、日本の菅原道真や徳川家康の様に、強力ではあるが不完全で欠点のある存在が祭り上げられたものだとするならば、多くの点で合点がいくが、それは【信仰自体の崩壊】に繋がる。


オカルト本を読みふけった長一郎からすれば、『宇宙人による惑星改造と劣化コピーの生物による繁殖実験』と言う方が合点がいくが、大正時代以前の人間達に『宇宙人』は理解が難しいと判断して、論点にはあげなかった。


我々は神を崇めるべきなのか、尊敬に留めておくべきなのか。


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